第98話 ギルド回り
ただただ気疲れしただけの夕食だった。豪華な感じはしたが、正直味は覚えていない。俺とピオ氏は無言でアパートに帰り、そのままぐったりと休んだ。
そして翌朝。待望の日曜日だが、のんびりしてはいられない。
「ピオさん! 起きてください。行きますよ!」
「ん〜、あと五分」
「五分じゃねぇよ置いてくぞ」
俺はドアをノックするのをやめ、さっさと自室に戻り、出かける準備に取り掛かる。カノジョのモーニングコールじゃねェんだぞ、フザけんな。
今日の俺は忙しい。冒険者ギルドと商業ギルドに顔を出し、転入の手続きをしなければならない。こういうの、オンラインでパパッとできないのがこの世界の不便なところだ。まあ、仕事というのは現場で起きている。実際に足を運び、顔を売るのも大事なことだ。
冒険者ギルドは、王都のど真ん中から南。グラフにすると、x=0、y=-5って感じで、商業地と庶民街のちょうど境界くらいにある。商業ギルドが真ん中からちょっと北にあるのと対照的だ。
「おはようございまーす」
「うーす」
ピオ氏はボサボサ頭のままついてきた。オフとはいえ、最低限の身だしなみくらいは整えていただきたい。どこで顧客に見られてるかわからないんだから。
冒険者ギルドは、思ったより大きくなかった。なんならポルセルの方が大きいほど。どうやらここは我が国のギルドの総本部であって、一般会員が立ち寄るのは事務手続きくらい。採集した素材や討伐した魔物を持ち込む場所は、別にあるとのこと。よかった、朝のギルドは依頼の受付なんかで忙しいんだ。空いた窓口で、落ち着いて手続きできるのはありがたい。
「はい。ではこちらで、ロドリゴさんは王都所属に変更完了いたしました。それからピオさんは新規登録ということで、こちらがギルドカードです。身分証明証ですので、盗難や紛失に遭いますと悪用されかねません。再発行手数料もかかりますし、失くさないでくださいね」
「ありがとうございます」
「ザース。んで、スキルの刻印はどこっスかね?」
「ああ、今日は刻印ご希望の方が多くいらっしゃいますね。もしかして鋭敏ですか?」
「えっ」
受付嬢の指し示した方向には飲食コーナーがあり、男たちが屯している。
「おお、ピオか! お前も来たかァ!」
「おうオッサンら! 昨日ぶりィ!」
「オメーらがスイスイ荷物を動かしてるんでよォ、若ェモンにも声掛けといたのよ」
「「チース」」
どうやら倉庫で会ったオッサンたちが、こぞってキーンを取りに来ていたようだ。昨日、俺は荷運びにキーンを使うことを隠さなかった。どうせ秘密にしたっていつかは漏れるものだし、キーン自体は俺が編み出した技でもない。キーンが広まろうと広まるまいと俺の懐に関係ないんだったら、誰に知られたっていいだろう。なお、ハンディクリーナーとエアーダスターについては、言い出しっぺとして商業ギルドからちょっぴりお小遣いが入るらしい。こっちは、スキル刻印が始まったらちゃんと宣伝しようと思う。
「そんでよう、昨日飲めなかったろ! 今日この後どうよ!」
「おっ、昼酒! いっスねェ〜!」
ピオ氏はそのままオッサンのコロニーに取り込まれた。よし、うまいこと託児完了。俺はさっさと冒険者ギルドを後にして、商業ギルドへ。
「あらっ、ロドリゴじゃなぁい。こないだぶりねぇ?」
「あっ、静寂の双翼のお二人、こんにちは」
ギルドで手続きをしていると、ばったり出会した。木曜日に王都に到着してから三日しか経ってないのに、早くも懐かしい。パロマさんの店でバイトをしていた頃のように、そのままの流れでカフェに立ち寄ることになった。
「俺たちは今ちょうど護衛から帰ってきたところだぜ」
「もう、転属してすぐに仕事なんて、人遣い荒いわよねぇ?」
「そうなんですね。俺は初日は掃除と経理と店番、昨日は倉庫整理を少々」
「おい待て、なんだその出鱈目なスケジュールは」
奉公当初からの付き合い。彼らが聞き上手なこともあるし、また馬車旅でより親密になったせいもある。俺はつい、ここ三日であったことをぶちまけた。
「キーンで倉庫整理……しかももう知れ渡っているのか……」
「いえそれよりも、婚約騒動ね。まあロドリゴが王都に呼ばれたのは、そういうことじゃないかな〜とは思ってたけど」
「そうなんですね……」
知ってたんだ、トリニダードさん。なら言ってくれよ。いや、事前に教えてもらっていたとしても、俺に断る選択肢はなかったかもしれないが。
「まあ、あのじゃじゃ馬じゃあなァ。だが、向こうは嫌っつってんだろ? なら問題ないんじゃないか?」
「でもプラシド様はロドリゴを手放したくないんでしょぉ?」
「うぇ……俺の早期リタイアが……」
「そうは言うがな、大店の婿なんて商人の勝ち組だろ。自分で働かずとも、使用人をうまく使えばいいわけで」
「んもう、それにしたって気苦労が絶えないわよォ。どうせアレでしょ、料理作ったり盾で遊んだり、自由にヤンチャしたい感じでしょぉ?」
まあ、そうだな。確かに、婿入りすれば自分で働かなくとも裕福に暮らせるだろうし、なんの後ろ盾もない平民の奉公人としては最高の逆玉コースだ。しかしトリニダードさんの方が、俺の真意を汲んでくれている。俺が欲しいのは自由であって、そのために金が必要なのだ。
「なるほどな。だが断るにしても口実が必要か」
「奉公はあと一年残ってますし、大旦那様にはそれなりに恩がありますし。なんとか角が立たない方向で逃げ切れないものかと……」
「ふぅん、そう。じゃあロドリゴ、アタシと婚約しちゃう?」
「はっ?!」
トリニダードさん。今なんて?




