第96話 倉庫番
「終わっちゃいましたね」
「終わったな」
「まだお昼にもなってませんね」
「一刻(二時間)にもならんかったな」
仕方ない。本店の倉庫管理もせいぜい一刻か二刻くらいのものだった。しかも今回は、俺がキーンで家具を浮かせて運ぶという裏技をゲットしてしまったために、たった二人で一時間強。時短しすぎたんだ、腐ってやがる。
さすがにここでこれ以上やることはない。仕方がないので、一度支店に顔を出すしかないだろう。
「サーセーン、ペラモス終わりましたー。鍵お返しシャース」
「おう、兄ちゃんら早かったな。もう終わったのか?」
「ええまあ、換気と並べ替えくらいでしたし」
と守衛さんに鍵を返却していたところ。
「おいおいペラモスの! アンタら倉庫でなにしてた?」
近隣の倉庫で作業していたオッサンたちが、わらわらと集まってきた。
「あ、お隣さんですか。見ての通り、チャチャっと掃除してチャチャっと帰るとこっスけど」
「俺ら見てたぞ! ものすごい風を吹かして、埃を飛ばしてたろ!」
「しかも小さい兄ちゃん、アンタあのクソデカい家具をヒョイヒョイ運んでたじゃねぇか!」
「あっはい、それがなにか?」
「いやぁ助かるぜ! おいらこないだ腰やっちまってよォ」
「いえいえ、困った時はお互い様ですから」
「後でウチんとこも頼んでいいか? バイト代は弾むからよ!」
「あ、どんと来いっス! 頑張るんで、コイツが」
二時間後。俺たちは倉庫街の食堂で和やかにランチしていた。王都支店に帰りたくない俺たちと、倉庫の掃除や大物の移動に手こずる周りの商店の人たちと。利害関係は一致した。ランチをご馳走してくれるということだったが、生憎俺たちは弁当持参。だが、弁当を食べる場所も暇を潰す手段も持たなかった俺たちは、飲み物を奢ってもらって小遣い銭までもらってウハウハだ。
「昨日から配属? なのに今日から倉庫番て、なんでまた」
「そりゃ俺らが聞きたいっスよ〜。ま、だけどこっちで体動かしてる方が楽っスけどね〜」
「それにしてもポルセルかァ。あっこはアレだ、去年プラシドを食いに行ったぜ!」
「ああ、もうすぐまた新商品が出るみたいですよ。機会があれば是非」
「お前ら、あんな美味いモン毎日食ってたら、王都のメシなんて食えたもんじゃねェだろ?」
「いやそれが、市場の飯を食ったのは今朝が初めてで」
「あんだ、ペラモスじゃ賄いは出ねェのか? んなわけねェだろ、あんな大店でよ」
ちょっとした歓談から、話は思わぬ方向へ。俺たちが飲食に困っていると知ると、オッサンたちは身を乗り出してきた。
「そら一等地だがオメェ、奉公人が暮らす場所じゃねェだろ。ペーペーの住む場所っつったら、普通もっと庶民街のずっと南だろうがよ」
「まあ、治安っちゅう意味なら間違ってねェがな。地方から来たお上りさんなんぞ、貧民街に迷い込んだらケツの毛までむしり取られるわな」
「それでもよぉ、中央市場なんぞ高ェ高ェ。飯でもなんでも、南の方が安いっちゅうのは間違いねェ」
「そんなら今夜、仕事終わりにパーっと行くか! いい店教えてやっからよ!」
「えっ、いいんスか!」
ピオ氏がノリノリで意気投合している。これは俺も連れて行かれる流れだろうか。飲ミュニケーションは苦手だが、横の繋がりは意外と大事。ビジネスチャンスって、どこに転がっているかわからないものだ。南の庶民街の買い物スポットも、聞いておいた方がいいだろう。
「お疲れッした〜」
「お疲れ様でした〜」
「兄ちゃんら、マジで助かったぜ! どうだい、もうココに就職すればいいんじゃねェか?」
「あはは、考えとくッス」
「俺はまだ一年年季が残ってるんで」
午後の作業もチョロいもんだった。埃は吸い込むか吹き飛ばすかして、あとは重い荷物をスイスイと動かして。なお、他所の倉庫は在庫がチョコチョコ動くせいか、ペラモスほどの作業量はなかった。業種が違うせいもあるだろう。
「んじゃま、飲みに行くかァ。今日はオッサンらが奢ってやるからよ!」
「マジすか!」
「今日で倉庫が一気に片付いたんだ、安いモンよ! なァ!」
「来週も来るんだろ? 他の倉庫主にも声掛けとくからよ!」
「来週の予定はわかりませんが、機会があれば是非」
こうして俺たちは、和気藹々と守衛室を後にして門の外に出た。
ところが。
「ピオ、ロドリゴ。早く乗りなさい」
門の外に、見たことのある馬車。そして馬車のドアから手招きするのは、本店の番頭プロスペロさんだった。えっ、なんで王都にいるんだ?




