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社畜に異世界は生ぬるい〜奉公から始まる楽勝平民ライフ  作者: 明和里苳


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第94話 王都支店事務室

「検算終わりました〜」


「終わりました〜」


「なん……だと……」


 本店事務室に連れて行かれて、小一時間。俺たちは簡単な検算を任され、秒で終わらせたところ。てか、本店って他店とのコラボ絡みや貴族絡みの面倒な事務が多いって聞いてたんだけど、こんなもんでいいのか。


「なんだ、この異様な速さは。本当にちゃんと合っているのか?」


「あはは、プロスペロさんに厳しく仕込んでいただいたんで」


「心配なら検算の検算してもらえばいいっスよ。てかここの経理、計算ミスだらけじゃね?」


「ぐぬぬ、プロスペロめ……!」


 四則計算だけで天下が取れるこの世界、マジでちょれぇ。計算機ことソロバンもどき、そして掛け算九九を導入した結果、本店の事務処理能力は劇的に向上した。プロスペロさんは各支店にも広めるって言ってたけど、どうやら王都支店には届いてない模様。てかこのバレリオさん、時々プロスペロさんやポルフィリオ氏に対して毒を吐く。どうやら良い感情を持っていないようだ。


 そして本店でもそうだったように、機密に触れるような書類は下っ端には回ってこない。俺たちに任せられる仕事は、早々に尽きてしまったようだ。


「ええい、もうここはいい! 表に出て、ビダルに接客を教わってきなさい!」


「はい喜んで〜!」


「喜んで〜」




「いらっしゃいませ。セニョール、セニョリータ、お待ちしておりました」


「おや、君たちは初めて見る顔だね。見習いかな?」


「はい。本日よりお世話になります、ピオと申します。ロドリゴ、お召し物を預かって」


「ロドリゴと申します。どうぞこちらへ」


 早速ビダル氏のヘルプに入った俺たちは、流れるように顧客を店内に誘導した。俺も奉公五年目、セールスも慣れたものだ。


 このあたりの商習慣として、奉公人は見習いの見習い。十二で年季が明けて、成人までの三年間が見習い。そして、十五で成人して本採用って感じだ。これは他の業種にも共通する。そして、奉公人が店頭を任されることは、まずほとんどない。


 しかし、人手不足となれば話は別だ。ペラモス本店には店頭専門スタッフがいるのだが、諸事情が重なって欠員が出ることもある。そんなときは、かつて店頭に立っていたピオ氏が引っ張り出されることもあった。そして彼の欠点である商品知識とか実務管理とか、そういうのを補助するために、一緒に駆り出されたのが俺だ。


「本日はご予約のお品をご確認いただきたく……」


「これはお客様、素敵なセンスでいらっしゃいますね。奥様の瞳の色と生地の色がピッタリでございます」


「あら、おほほ。先日バレリオさんに勧めていただいたのよ?」


「それは賢いご選択です! バレリオは王都一の目利きだと私も自負しておりますので」


 あくまで丁寧だが事務的なビダル氏の営業を、お調子者のピオ氏が華麗にインターセプト。てか、バレリオ氏なんて昨日出会ったばかりのよく知らないオッサンだ。勢いだけのアドリブ芸、マジぱねぇ。


(おいっ、ピオ! もうこのお客様はお買い上げ済みだ! 余計な口を挟むな!)


「おや、そうですか! お孫さんとは信じられない! えっ、女の子でいらっしゃる? では風の加護ならこちらの色違いなどピッタリでは?」


「あーまあ、そうだな」


「こちらのチェアでしたら、こちらの板を外していただくと、大きくなられても末長くお使いいただけます。素材もしっかりしておりますし、嫁入り道具として持って行かれることもできるでしょう。そうすれば、ああ、あの時お祖父様とお祖母様と一緒に食卓を囲んだわね、と思い出しては、いつでも心を温めていただけるでしょうね」


「よし買った!」


 神懸かったかのような営業スキル。実際、彼はその場のノリで話しているだけで、その時話したことや約束したことはまったく覚えていない。そして商品知識や在庫状況、入荷予定などもあやふやだ。


「ええと、そちらの追加チェアは昨シーズンで注文受付を停止致しましたが、他店に在庫があれば来週にはご用意いたします。なければ工房に発注いたしますので、遅くとも再来週には納品が可能でございます」


「あらあなた、まだ小さいのに偉いわねぇ」


 そんなピオ氏をフォローするのが俺の役目。はっきり言って、営業補助はとてもやりがいがあって面白い。トークスキルは才能に大きく左右されるが、データは単なる暗記科目。なんならカンペを持ってたっていい。準備さえ怠らなければ、誰にでもできるのだ。


 こうして、今日は納品が決まっていた商品を事前確認に来ただけの顧客が、子供用チェア、ライティングデスク、ランプシェードなどシリーズ家具一式の追加購入を決めていった。もちろんビダル氏も卒なく営業に加わり、クロージングまで嫌味なくまとめていたが、やはりMVPはピオ氏だったと言えよう。


「くっ……俺の営業を邪魔して、いい気になるなよ……」


「ええ〜、いーじゃん。売れたらさァ」


「ビダルさんの成績になることですし、なにも問題ないのでは」


「……」


 ビダル氏の気持ちも、わからなくもない。だが、プライドだけでは飯は食えないのだ。ピオとナントカは使いよう。


追記(2026.07.27)


92話、王都支店から引き抜かれた人物名が王都支店の偉い人とかぶっていたので変更しました。(バレリオ→バスコ)

名前メモからの引用を間違えてたの恥ずかしィ〜!


新キャラ一覧

Valerio バレリオ(王都支店の番頭)

Vidal ビダル(王都支店の店員)

Urbano ウルバノ・Vasco バスコ(ポルセルに異動した店員)


Patricio パトリシオ(当代・プラシドの一人息子)

Penélope ペネロペ(当代の妻、やり手の奥方)

Vanesa バネサ(当代のクソガ……一人娘)

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