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社畜に異世界は生ぬるい〜奉公から始まる楽勝平民ライフ  作者: 明和里苳


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第93話 なんかやっちゃいました

「あっ、ビダルさんおはようございます」


「チース」


「……ふん。二人とも遅れずに来たみたいだ、な……?」


 三十分後。偉そうに出勤してきたビダル氏が、ただならぬ空気に周囲を見回している。それはそうだ。木の葉一枚落ちていない路地、階段、エントランス。それどころか、隣の商店との間の狭い通路、窓、壁のくすみまで。しかもなんだか、通りのあちこちからヒソヒソ声と視線を感じる。


「……お前ら、なんかしたか?」


「はいっ。八つの鐘で到着しましたが、暇だったので掃除しておきました!」


「表もやりましたァ〜」


「なん……だと……」




「まだだッ! まだ水回りの掃除もあるッ! お前ら、手洗いに給湯室だって……」


「はい喜んで〜」


「なんだ、そんなもんでいいのか。エアーダスター」


 ブオオオオ。まずは換気のついでに、埃ともども窓から吹き飛ばす。そして水回りの汚れはウォーターで濡らし、そのまま排水溝へ押し流して風で乾燥。長年汚れのこびりついた場所ならともかく、平時からそれなりに綺麗にしていた場所だ。普通の掃除なら、これでオールオッケー。


「終わりました! 次はどちらを!」


「なん……だと……」


 ビダル氏が膝から崩れ落ちている。どうした、お前が始めた物語だぞ。朝の掃除が済んで、そうら綺麗になつたろう。


「ビダル、表が騒がしいぞ。一体なにがあった」


「バレリオさん、コイツらおかしいです……!」


「あっ、バレリオさんおはようございます! 次はどちらを掃除すれば?」


「チース」




「なるほど、これはビダルが失礼した。当支店は十の鐘で開店、始業は九の鐘だ。だが駆け出しの者はそれよりも早くやって来て、先に軽い掃除を済ませておく暗黙の了解がある。ビダルはそれに倣ったのだ、許してやってほしい」


「あっはい、なので表の掃除は済ませておきました」


「ま、俺たちは四半刻(三十分)ほど締め出されてましたけどね」


「普通はそんなに早く掃除が終わるわけがないだろう!」


 上司のバレリオ氏が謝罪してるのに、当のビダル氏は反省する気はないようだ。まあ、バレリオ氏も悪いとは思ってないみたいだけどな。


「それより、その清掃技術だ。本店では皆がスキルでもって清掃を行うと聞いていたが、まさか本当だったとは」


「はい。ポルフィリオさんが商業ギルドと共同開発して、もうすぐ魔法省から刻印が有償配布される予定ですね」


「それを我々も使えるようにすることは?」


「えっと、残念ながら俺たちは魔法については素人なので。ポルフィリオさんに聞かれるか、刻印を待たれた方がいいかと」


「ぬう、本店の麒麟児め。もう少し若ければ、バネサ様の婿に据えたものを」


 おっと。かつて婚活につまづいていたポルフィリオ氏、年齢差であの怪獣……お嬢様の婿候補を免れていた模様。なお、今はラーメン研究所に出向し、かつての面影もなく丸々と肥えている。毎日奥さんの美味しいスープを飲んで、とても幸せそうだ。人生、なにが幸いするかわからないものだな。


 そう。俺たちの使うエアーダスターとハンディクリーナーは、ポルフィリオ氏と商業ギルドのパスクワラ先生との共同名義で論文にして、魔法省に提出してもらった。「ピオの綿雲」の件で魔法省の闇を見た俺は、もう絶対奴らとは関わり合いになりたくない。一方ポルフィリオ氏やパスクワラ先生は、新スキル開発に名前を残したいらしい。再びポルセルに押し寄せた変態魔術師たちと、聖句がどうのとか発動がどうのとか、ラーメンを啜りながら嬉々として議論していた。


 かつて、有料でスキル頒布についてはちょっとバカにしていたが、改めてスキル刻印システムって素晴らしい。ギルドで講習を受け、体のどこかに小さな痣を刻んだら、誰でも同じ条件で同じ技が発動できるようになる。考え方はプログラミングに似ているが、それを人体に直接刻んで物理現象や生理現象を引き起こすとか。改めて、この世界はファンタジーだ。


 実際、本店の周りでは、多くの人が見よう見まねでエアーダスターとハンディクリーナーを使っているが、人によって効果にばらつきがある。やはりポルフィリオ氏やパスクワラ先生は、俺よりも正確に使いこなすし、寮の食事を担当するパウリノさんやペトロナさんは、掃除よりも野菜の泥落としの方が上手い。あと、奉公を卒業したプリニオとポンシオは、現役で冒険者をしているだけあって、パワフルだけどノーコン。こういう例を見ているから、みんな正式にスキル刻印がリリースされるのを待っている。


 あと副次効果として、風属性の地位がちょっと上がった。生活魔法ウィンドだけで発動するピオの綿雲と違い、エアーダスターとハンディクリーナーは手のひらの微風だけでは役に立たない。というわけで、これらは風属性専用スキルとして頒布される予定だ。ポルセルは風属性の住民の多い商業地だが、他の加護持ちから羨ましがられることが増えた。これからの風属性は、清掃員としての需要も高まっていくだろう。


「というわけで、清掃作業も終わってしまいましたが、次はなにをしたらいいですか?」


「……わかった。それでは二人とも、ついて来なさい」


 バレリオ氏の瞳が鋭い眼光を放った。

追記(2026.07.27)


92話、王都支店から引き抜かれた人物名が王都支店の偉い人とかぶっていたので変更しました。(バレリオ→バスコ)

名前メモからの引用を間違えてたの恥ずかしィ〜!


新キャラ一覧

Valerio バレリオ(王都支店の番頭)

Vidal ビダル(王都支店の店員)

Urbano ウルバノ・Vasco バスコ(ポルセルに異動した店員)


Patricio パトリシオ(当代・プラシドの一人息子)

Penélope ペネロペ(当代の妻、やり手の奥方)

Vanesa バネサ(当代のクソガ……一人娘)

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― 新着の感想 ―
どんどん深まる異世界奉公の闇! 先週迄はラーメンウォーズだったのが、栄転すると『プロフェッショナル/仕事の流儀』にチャンネルもとい趣向替えとか… 異世界恐ろしや。 頑張って搾取人生から逃げられますよう…
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