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社畜に異世界は生ぬるい〜奉公から始まる楽勝平民ライフ  作者: 明和里苳


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92/106

第92話 王都ライフの始まり

「ふん、本店の連中はいい気なもんだな」


 裏口で俺たちを待っていたのは、店頭で最初に会った店員だった。白のシャツに黒のベスト、黒のスラックスと革靴。髪の先までビシッと整ったイケメンだ。対して、俺とピオ氏はちょっとカジュアル。一応礼服ではあるが、スラックスは濃茶、履き慣れた靴、そしてくたびれた背嚢。長旅の後なんだから仕方ない。


「お前らの宿舎はここ。あっちの角に洗濯屋。食い物屋はあるが、この辺のはみんな高い。安く食いたきゃ自炊するか、もっと南の庶民街に行くんだな」


「あ、ありがとうございます?」


「まったく、なんでお前らだけこんな優遇されてんだ? ウルバノもバスコも本店に引き抜かれてクソ忙しいってのに、俺らと違ってこんな一等地に借り上げ部屋とか。プラシドの栄光だかペネロペの薔薇だか知らんが、うまく取り入ったもんだな」


「「……」」


「明日は八つの鐘で裏口に集合。掃除から徹底的に仕込んでやるからな、覚悟しとけ」




「なぁ〜ロドリゴぉ〜。俺もう帰りたいィ〜」


 部屋に到着するなり、ピオ氏が俺に泣きついてきた。


「部屋、隣でしょ。もう荷解きして、ゆっくりしてくださいよ」


「そんなこと言ったってよォ〜、こぉんなアウェイとかねぇだろ〜」


 気持ちはわかるが、グダグダ言ったって仕方ない。転勤には承諾しちゃったし、俺には後一年の年季が残ってる。


「ピオさんこそ、適当に転職すればいいんじゃないですか?」


「それができりゃ苦労しねぇんだよォ〜! あーくそ、ピアに代わってもらえばよかった!」


「馬鹿言わないでくださいよ。ピアさんが抜けた後、彼女の仕事を引き受けるなんて無理でしょ」


「うん、そりゃ無理」


 清々しいほどの底辺自認。まあ、自分のことをシゴデキと勘違いしていないだけマシか。なお今頃、本店の事務室は番頭のプロスペロさんにピアさん、そして後輩のリコで回している。俺たちと入れ替わりで王都支店から異動になったらしいウルバノ氏とバスコ氏がどんな人物かはわからないが、今後は少し余裕が出るんじゃないだろうか。


「もう。余力があるんなら食事に行きますよ。庶民街の安い食堂は、ここから遠いみたいですし」


「うお〜超メンドイぃ〜。ロドリゴぉ、ついでに俺の分もなんか買ってきてくれよォ〜」


「嫌ですけど?」




 庶民街まで足を運んで、俺は悟った。一人で来てよかった。とてもピオ氏のお守りまでやってられない。前世、大都市で人混みと満員電車に慣れた俺でも苦労するレベル。人の多さは大したことないが、みんな片側通行とか譲り合うとか、秩序が皆無だ。そして治安が悪い。思わず索敵しながら進んだが、あちこちから胡乱うろんな気配を感じる。取っててよかった斥候術。


 それからボッタクリ価格だ。地元の人は慣れたもんだが、価格と品質がかけ離れたものが散見される。品物のオーラで見分けられなければ、俺だって騙されていただろう。そもそも、全体的に物価が高い。


 というわけで、俺は仕方なくパンと肉、野菜などの材料を買って、自炊することにした。幸い、寮として用意された部屋には最低限の調理器具が揃っている。長旅の疲れと本店での気疲れでMP(きりょく)HP(たいりょく)も底をつきつつあるが、肉を焼いてパンに挟むくらいのことはできるだろう。


「うお〜うまそ〜。いただきま〜す」


「材料費はもらいますからね」


「うおっ、このソースうんまッ! お前やっぱ料理のセンスあるよなぁ」


 なぜか俺の部屋でくつろいでいるピオ氏と、差し向かいで早めの夕飯。酒は買ってこなかったのかと言われたが、俺は未成年だっつうの。そこまで面倒見きれん。


「……なぁロドリゴぉ。俺、ここでやってける気がしねぇんだけど」


「奇遇ですね、俺もです。てか、転職すりゃいいじゃないですか」


「だからできねぇんだって! くっそ、こうなったらいい飲み屋を開拓するしか……ッ!」


 外面だけは完璧なピオ氏。いっそヒモにでもなればいいんじゃないかな。




「おはようございまーす」


 翌朝。朝食は残り物で済ませ、弁当も作ってきた。退勤後に買い物の余裕があるかどうかわからんが、ひとまず日中の食事はどうにかなる。ということで、意気揚々と本店に到着した俺たちだが。


「……誰もいねぇな」


「確かに八つの鐘って言ってましたけど……」


 裏口は静まり返っている。店の前に回っても、店員らしき人影はない。それどころか、周囲の店もまだ開店準備をしている様子はない。


「チッ。八つなんて早すぎると思ったんだ。本店ならまだ食堂で飯食ってる時間だぜ」


「まあ、ボヤいても始まりませんよ。人が来るまで暇ですし、その辺だけでもチャチャっと掃除しときますか」


「おう。後で言いつけられても面倒だしな」


 ブオオオオ。


 というわけで、二人して手をかざしてハンディクリーナー。店の前の土埃も、ガラスの曇りも一気にクリーンだ。奉公を始めた当初、あんだけバカにされたスキルも、今やペラモス本店の中で使えない者はいない。それどころか、ラーメンブームに沸くポルセルの街の隠れた名物になりつつある。


 手に集めた埃は、生活魔法のウォーターで流して終わり。これで俺は、寮どころか中庭、店頭、店先の掃除まで一気に時短した。そのおかげで、奉公人の朝のルーティンは大幅に削減。勉強部屋で学習する時間が増えたため、後輩のリコはかなりの文書処理能力を獲得している。


「秒で終わったな」


「終わっちゃいましたね」


「他の店員が出勤してくるまで、暇だな」


「暇ですね」


 俺たちは、二人して裏口の階段に座って、ひたすら解錠を待った。なお、俺たちの掃除の様子は通行人に目撃されていて、後でちょっとした騒ぎになるのだった。

追記(2026.07.27)


王都支店から引き抜かれた人物名が王都支店の偉い人とかぶっていたので変更しました。(バレリオ→バスコ)

名前メモからの引用を間違えてたの恥ずかしィ〜!


新キャラ一覧

Valerio バレリオ(王都支店の番頭)

Vidal ビダル(王都支店の店員)

Urbano ウルバノ・Vasco バスコ(ポルセルに異動した店員)


Patricio パトリシオ(当代・プラシドの一人息子)

Penélope ペネロペ(当代の妻、やり手の奥方)

Vanesa バネサ(当代のクソガ……一人娘)




追記(2026.07.25)


これまでの作中、ロドリゴの年齢設定がおかしかったので直しました。

十二歳で奉公が終わるんだから、あと一年ってことは十一歳だよね……?

今更!!!

おかしいなぁと思っていらした読者の皆様、本当にポンコツでごめんなさい。




皆様、いつもご愛読ありがとうございます!

さて、本日で拙作「スキルが生えてくる異世界に転生したっぽい話」一巻の発売より一年が経ちました。

https://www.kadokawa.co.jp/product/322503001138/

これもすべて、皆様の温かい応援の賜物です。

心より感謝申し上げます!


連日猛暑や大雨などが続きますが、皆様どうか御身お大事に。

どうか美味しいものを召し上がって、楽しいこといっぱいの素敵な夏をお過ごしくださいね!

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