第86話 車内実験
そんでまあ、サイコ野郎の俺が(語弊)馬車の中でやることなくなったら、実験するよね。幸い同乗者は寝てる。今でしょ。
つまりは、この馬車の振動をどうにかするんじゃなくて、自分だけが難を逃れられればいいのだ。だってアラスの二人もピオ氏も困っていない。俺だけがダメージを喰らっているのだと自覚すると腹立たしいが、必要は発明の母。この困難をどうにかすれば、以後馬車など恐るるに足らず。
というわけで、俺が最初に思い当たったのが、ポルフィリオ氏が得意とするミニマムウィンドウォール。あれは元々ウィンドウォールという防御魔法で、商談用に小さく改良されたものらしい。そう、ダメージには防御。風の壁でエアーバッグ、あると思います。
ございませんでした。
サイコキネシスは便利だが、気体限定なのが非常に遺憾なところ。人一人を守るクッションを作ろうとすると、ホバークラフトのように常に高圧で空気を噴射し続けるしかない。いや、ちっさい竜巻や台風みたいなのを作れば、座布団大の空気の塊を作ることができるのか? わからん。いずれにせよ、この狭い車内で強い風を起こすことは得策ではない。一瞬ピオ氏が起きて焦った。
まあこれは、一概に風属性が悪いというわけではない。他属性にもファイアウォール、ロックウォール、ウォーターウォールといった防御魔法があるらしいが、馬車の中では火も土も水もダメだろう。むしろワンチャンあったのは風だけだ。失敗は成功の母、ドンマイ。
そういえば、防御といえば盾術があるじゃないか。盾術とは、基本的には、身体強化と同時に盾にオーラを巡らせて、攻撃のエネルギーを受け流したり反射したりするスキルだ。今は魔物と交戦しているわけではないが、盾にオーラを流せば衝撃を受け流せるのでは。
俺は足元の背嚢からバックラーを取り出した。B5の下敷きくらいの大きさしかないが、貧弱な風属性にデカい防具は扱えないんだから仕方ない。コイツを尻の下に敷き、スキル発動。
「受け流し」
フォン。おお、浮いてる! 俺の尻、浮いてるぞ! てか、もしかしてこれに乗ったら、空飛ぶスケボーになるんじゃね?!
「なんだよロドリゴ、さっきからうっせぇぞ……おお?!」
「へっへ、浮きましたよピオさん! これで俺は無敵です!」
無敵ではございませんでした。
繰り返すが、風属性は物理とすこぶる相性が悪い。土属性なら難なくガキンと受け流す攻撃エネルギーを、風で押し返そうっていうんだから仕方ない。というわけで、パリィで浮いていられたのも二十分弱。俺は魔力切れでダウンした。そりゃそうだよな、ホバークラフトなんてリッター三百五十メートルだって聞くし。
「だよなぁ。風の加護持ちで盾術取るヤツなんて聞いたことねェぜ」
それは盾術を刻んだ時に散々言われた。くそッ、今度こそいけると思ったんだがなぁ。ああ、魔力切れクソだっる。貧血みたいな感じで、目眩がするわ吐き気がするわ、体が重くて指一本動かせる気がしねぇ。
「おい。なんか馬車の中でゴソゴソしてると思ったら、魔力切れなんか起こしてんじゃねぇよ」
「大人しく寝てなさいって言ったでしょぉ?」
そして馬を替えに立ち寄った宿場町で、アラスの二人からお説教。
「お前なぁ。魔力切れを甘く見てるようだが、俺たちがいなきゃ身動きが取れずに野垂れ死にだぞ。いくら街道とはいえ、野盗だっているし、魔物だっていつ森から出てくるかわからん」
「冒険者の基本のキよ? しっかりなさい?」
「申し訳ありませんでしたァ……」
気付いてはいたのだ。パリィを続けているうちに、自分のオーラがだんだん薄くなっていることに。だがちょっと見ないようにしていただけっていうか。だって空飛ぶスケボー、空中盾サーフィンだぞ。興奮しない方が無理っていうか。
「……チッ、反省してねェな。ポーションを分けてやろうかと思ったが、やめだやめだ」
「馬も替えたことだし、次の宿場まではノンストップで行けそうね。ロドリゴ、ガンバ♪」
馬車移動二日目、午後。俺は調子に乗ったピオ氏に「プギャー」と「ザマァ」を連呼されながら、座席の上で死んだ魚のように転がっていたのだった。




