第85話 馬車の中でワシも考えた
ところで、前世の記憶を取り戻して奉公に出ること六年。その間俺は、様々な試行錯誤を繰り返してきた。それらのほとんどがラーメンの開発のために費やされたのは誤算だったが、それはそれで大旦那様からのボーナスとして俺の懐を潤しているので、良しとしよう。
レシピ以外で俺が特に研究を重ねたもの、それは魔法とスキルだ。眉間に意識を集めることでオーラが見えるようになった俺は、魔法や様々なスキルがオーラを使って発動することを理解した。
特に魔法については、生活魔法ウィンドを進化させて、エアーダスターにハンディクリーナー。これらを使って卵白を泡立てたり、部屋中を一気に換気したり、洗濯物を早く乾かしたりと、様々な応用を試してみたものだ。
しかしそんな研究を大きく変えたのが、他でもないスキルの刻印だった。
最初はエルマノスの使うスキルをコピーして、チャーシューメンだの胡麻味噌坦々だのやってたんだけど、ラーメン開発で懐に余裕ができたため、冒険者ギルドで取れるスキルを片っ端から取っていったのだ。
最初は斥候術。斥候という職業自体は危険なので目指すつもりはなかったんだが、トマスさんに勧められて導入。別に斥候を専門にやらなくても、戦士や弓術士が索敵や罠解除できたっていいよね。
結論から言って、さっさと刻印を刻んでよかった。トマスさんを真似して、見よう見まねでオーラを薄く伸ばして索敵する、それも可能なんだが、刻印に魔力を流して自動でやってもらうと、集中力を分散しなくて済む。あと、目にオーラを流す遠視、耳にオーラを集める集音。以前トマスさんが俺から情報を聞き出すときに耳が光ってたのは、集音スキルだったと判明した。
それから俺は、次々と刻印を増やしていった。俺自身のフィジカルが貧弱なため、強力なスキルは習得できないが、各職業の初歩スキルはほとんど取った。剣術や槍術の強撃、鋭敏、盾術の受け流し、投擲術のパワースロー、弓術のクイックシュートなど。先に奉公を卒業して冒険者になったプリニオとポンシオには節操がないと笑われたけど、なんとでも言うがいい。今、俺の左腕には小さな痣が勲章のように並んでいる。
分岐点となったのは、弓術の命中。これは自分の体内でオーラを移動させたり、その延長で刃に切れ味を増したりするものではない。矢にエンチャントをかけ、ホーミングするスキルだ。もちろん、体から離れれば離れるほどコントロールが効かなくなるので、ホーミングの劣化版みたいな感じなんだけど、特筆すべきはそこじゃない。オーラって、体から切り離しても作用するんだという発見。
そこで俺は考えた。オーラや属性ってなんなんだろう。
前世の俺の感覚的には、オーラとはMPやSPのようなものだと捉えている。第三の目()で魔法や武術スキルを見たところ、両者は同じものだった。そして、人間だけじゃなく草木や虫も、生物はだいたいオーラを纏っている。中には業物の武器防具や宝石などの無機物にも宿っていることがあって、もしかしたらHPや魂の力みたいなものも含まれているのかもしれない。
一方、属性の力。これはスキルを刻印するときに、その差を嫌というほど感じた。風属性の俺が強撃や受け流しを取っても、他の属性の冒険者とは、効果がまるで違った。火属性の爆発的なパワー、土属性や水属性のどっしりとした底力には到底敵わない。なんていうか、効力半減のナーフがかかってる感じ。
その代わりに、斥候術、投擲術、弓術あたりは風属性の無双。体から離れたものを正確にコントロールする適性は、他の属性には乏しいみたいだ。
それで気付いたんだが、風って気体が動くことなんだから、風を操るということは気体を動かすということだ。ということは、風属性ってサイコキネシスじゃないか?
この発見をした時、俺は猛烈に感動した。そしてサイコキネシスと触れ回りながら、風でものを浮かせたり動かしたりすることに命を賭けた。しかしそれはまあ、普段ウィンドを使って掃除していることとなにが違うのかということで、周囲からの視線はより冷ややかに変わったわけだが。わっかんねぇかな。ロマンぞ。我、超能力少年ぞ。砂の嵐に隠された塔に住んじゃう系の。わっかんねぇだろうな。
――ということをつらつらと思い出したりした。だって、馬車の座席で転がってるしかねぇんだもん。振動で寝れないし。だけど目の前のピオ氏は、この騒音の中平気で寝ている。どんだけ神経太いんだ。彼の図太さが非常に羨ましい。




