第84話 憧れの野営
「さて、今日はここで野営だな」
馬車を止めたトマスさんは、テキパキと馬を木に繋ぎ、小さなテントを取り出して野営の準備を始める。めっちゃ冒険者って感じ。ふおお、テンション上がる!
「はいはい、そんな嬉しそうにしないの。ロドリゴはこっち手伝って。火を熾したり水を出すのは得意でしょ?」
「はい喜んで〜!」
「ピオは薪拾いな」
「うえぇ、ダリ〜」
街道には一定距離で野営地がある。よく山道に、車のすれ違うスペースが設けてあるけど、あれに似ている。場所によっては水場があったり、ちょっとした竈があったりするが、大抵はただ道端が空き地になってる感じで、あんまり利用されている形跡はない。なぜならほとんどの旅人は、街道沿いの宿場町で宿を取るからだ。
トマスさんとトリニダードさんが王都まで急ぐというものだから、俺たちは普通の旅人が一日で移動する距離のおよそ1.5倍の道のりを踏破した。そのため、宿場では馬だけ乗り換えて、中途半端な地点で一夜を明かすこととなったのだ。
日曜のたびに冒険者もどきをやって六年。森の中で周囲を警戒しながら携帯食を齧ったことはあるが、野営をするのは初めて。キャンプファイアーみたいでワクワクするな。
「なにがワクワクだよ。こんなカッチカチの干し肉ばっか食ってたら、病気になっちまうよぉ」
「もう、贅沢言わないのよぉ。パンがあるだけ全然マシなんだからねぇ?」
「そうそう。迷宮の中じゃ、魔物だろうと虫だろうと食わなきゃならん時もあるからなぁ」
「うへぇ。俺、絶対ェ冒険者なんかならねぇ」
ピオ氏、安定のダルダル。まあ気持ちはわかる。昆虫食は人類には早すぎる。わりとなんでも食べる日本人さえ受け入れられなかったからな。しかしそれなら、携帯食の見直しをすればいいんじゃないだろうか。あっちの世界では、バランス栄養菓子には事欠かなかった。甘いのにしょっぱいの、タンパク質重視からビタミンミネラル配合のものまで。保存性のみならず成分までこだわってしまうと、これはまた儲かってしまいそうな気配。
だがしかし、馬車はダメだ。冒険者はともかく、商人になれる気がしない。商人は基本物流とセットで、移動は早ければ早いほどいい。ペラモスのような大店のオーナーならともかく、行商人や小規模個人商店なんかは、自ら手綱を取って国中を駆け回ることも珍しくない。その度に酔い止めを飲みつつ延々と振動に耐えるなど、もはや拷問だ。なんとかして馬車移動の少ないライフプランを実現せねば。
いや。それよりやはり、異世界定番の足回りの改善か? タイヤにサスペンション、ベアリング。いかん、更に儲かってしまう。惜しむらくは、俺にそれらの専門知識がなく、ザックリとした概念しか持たないことだ。くそっ、異世界転生するとわかっていれば、その辺の専門書でも読み込んでおいたものを。しかし料理の時と同じく、その道の専門家に丸投げすれば、いい具合に実現してくれるんじゃないだろうか。王都に着いたら、馬車の製造工房について聞いてみてもいいな。ヨシ。
「――ちょっとロドリゴ?」
「放っておけ。いつものアレだ」
「いつものアレっス」
気がつけば、三人のジト目が俺に向けられていた。やめろ、そんな目で俺を見るな。
ロマンはロマンのままがいい。俺は学びました。
「おう、無理すんなよ」
「ゆっくり寝てていいからねぇ〜」
「ギャハハ、冒険者やっべ」
「ぐぬぬ……」
地面は硬い。知っていたつもりだが、一晩でこんなに堪えるものだとは。馬車で寝てもいいというアラスの提案を蹴って、無理を言ってテントで寝させてもらったのが仇となった。体中バッキバキ。昼間は尻だけだったのに、ダメージが全身に広がった。
「まあそのうち慣れるわよ。駆け出しの冒険者なんて、みんなそんなもんよぉ?」
「夕刻まで走れば、今夜は次の次の宿場で休めるからな。その分休憩は短めになるが、まあ頑張れ」
「うう……」
馬車移動二日目。俺は調子に乗ったピオ氏に「NDK、NDK」を連呼されながら、座席の上でひたすら芋虫のように転がっていたのだった。
いつも更新の時間がバラバラでごめんなさい!
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毎日暑いですが、隙間時間と水分補給のお供にしていただけたら幸いです!
美味しいもの召し上がって、素敵な夏をお過ごしくださいね!(ノ´∀`*)




