第83話 王都に向けて出発
「さて、忘れモンはないな?」
出発当日。ペラモス商店の裏口には小ぶりな馬車が付けられ、俺とピオ氏は少ない手荷物を荷台に乗せた。そう。てっきり二人して徒歩、あるいは乗合馬車を乗り継いで行くものだとばかり思っていたのに、なぜか俺たちの転勤に馬車が仕立て上げられていて。しかもその御者席にいたのは、
「ま、そう気にしなくていいぞ。足りないものは道中調達すればいいだけだからな」
静寂の双翼の二人。なぜじゃ。
「ふふっ。ちょうどアタシたちも王都に異動になったのよねぇ。奇遇だわぁ?」
どうしてじゃ。
「なんだいロドリゴ、アラスが付いてくれるんなら安心じゃないか」
「いや、それはそうなんですけど。銀級冒険者を雇うのって結構なお金がかかるんじゃ?」
「子供がそんな細かいこと気にするんじゃないよ。送ってくれるってんなら、ありがたく乗せてもらったらどうだい。王都まで街道が通ってるからって、安全ってわけじゃないんだからね?」
「そうそう。タダなんだから気にすんなって」
俺を嗜めるペトロナさんに、なぜか上から被せてくるピオ氏。お前のその図々しさは、マジでなんなんだ。
「それじゃ、気をつけてな。変なモン拾って食うんじゃねぇぞ」
「そうそう。体だけは大事にしなよ。変なモン拾って食べるんじゃないよ」
「ピオさん、ロドリゴさん。寂しいっス。変なモン拾って食べちゃダメっスよ?」
見送りに出てくれたのは、パウリノさんとペトロナさん、そしてリコ。ありがたいけど、みんなして同じ心配はやめてほしい。俺をなんだと思ってるんだ。
そんなスタートを切ってしばらく。予想はしていたが、尻が痛い。この馬車よりボロい乗合馬車が平気だったのに、なんで。
「悪ィな、ちっとばかし急ぐもんでよ」
「王都まで普通はだいたい一週間だけど、アタシたち五日後には着きたいのよぉ」
ガタタタタッ、ガタタタッ。ひたすら強い振動に耐え、舌を噛まないように歯を食いしばるのみ。こんな状況で、なんでアラスの二人はなんで平気でしゃべっていられるのか。
「ぐぬぬ、これが銀級冒険者の実力……!」
「なにが冒険者の実力だよ。お前が馬車に弱すぎなだけだっつの」
くそっ。ピオ氏が意外に平気そうなのが、また腹が立つ。
「まあ、乗合馬車しか乗ったことないんだから仕方ないわよ。せいぜい稼いで、いい馬車を買うことね?」
「次の野営地で一回休憩を挟むから、ちょっと待ってな。あと四半刻(三十分)ってとこだ」
最寄りのPAまで三十分。めっちゃ遠い。異世界に来て、初めてネクスコの有り難さを思い知る。
「だから言ったじゃなぁい、変なもの拾って食べるなって!」
「拾ったんじゃなくて、摘んだんで……!」
そして野営地を出て間もなく。俺は早くも腹痛に苦しんでいた。
「おいロドリゴぉ、お前薬草ハンターになるとか言ってなかったぁ?」
「似てたんですよ、森の薬草と!」
「もう、高く売れる薬草が道端に生えてるわけないでしょぉ?」
「それはそう」
だけどちゃんと光ってたんだよ、信じてくれよ。前世で言うところのいわゆるミントみたいな、清涼剤とか酔い止めとかで使われてる薬草だったんだ。まあ、光ってたとか言うとまたアラスの二人に目をつけられるから、そこは黙ってるしかないけど。
「それはメンタに似てるが、森に自生してるのと森の外に生えてるのは別モンだ。こっちは腹下し。初歩の初歩だぞ?」
「まあ、もうちょっとしたら薬も効いてくるわよ。いい勉強になったわね?」
「ギャハハ! 勉強になったな、薬草ハンター?」
くそっ。姿形も同じ、ちゃんと魔素も含んでるのに、生えてる場所で薬効が違うとか。ひっかけ問題にも程がある。
ポルセルを出て、わずか半日。俺は馬車酔いと腹痛のダブルパンチで、半刻(一時間)ほど唸っていたのだった。




