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社畜に異世界は生ぬるい〜奉公から始まる楽勝平民ライフ  作者: 明和里苳


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第81話 その夜

 まあ、そんな食卓では場が持たない。パンとスープはあっという間に無くなるし、親父と兄貴は終始ブスくれている。なにより狭い。というわけで、俺たちはさっさと就寝することになった。なお、元からギチギチの実家だ。寝る場所なんてない。俺は村の宿屋にでも泊まろうかと思ったんだが、下の弟レネが気を使って両親の寝室へ。そして弟たちの二人部屋、二つのベッドをくっつけて、姉のラミラ、俺、上の弟ルイが川の字に寝ることとなった。うーん、狭くて眠れる気がしない。


「まあそんなことはいいじゃない。それよりロド、冒険者やってるんでしょ? ああん、いいなあ! 私もスサニタお姉様と一緒に冒険したかった!」


「今度王都に行ったら会えるんじゃないかな。手紙でも書く?」


「なあにいに、やっぱ剣士ってカッケェのか?」


「いや、冒険者も普段はみんな筋トレとか素振りとか、やってることは自警団の訓練と同じだぞ。あとはお金貯めて、ギルドで刻印を刻んでもらうくらいかなぁ」


 しかし本当に眠れない原因は、ベッドの狭さじゃなくて冒険者談義だった。子供が冒険者に憧れるのはよくあることだが、まさか姉まで冒険者に憧れているとは思わなかった。水属性は神殿で修行してヒーラーになったら、基本食いっぱぐれることはない。その中で、わざわざ身の危険を冒して冒険者を目指すヤツは、決して多くない。なのに冒険者をやってるヒーラーっていうのは、堅苦しい神殿や治療院の仕事や嫌になって外の世界を見てみたいだとか、それともなんらかの理由で神殿にいられない訳ありだとか。スサニタさんやソシモさんみたいに、孤児院の後輩のためにヒーラーをやってる人は少数派だ。


「やっぱりお姉様のメイス捌きは別格よね! あのキレの良さ、腰の入った力強いスイング。神殿の見習い女子みんなの憧れだわぁ」


「どこに憧れてんだよ」


「よっし! 俺も大剣使い目指して筋トレと素振りを増やすぜ!」


「大剣ってメンテ大変らしいよ」


 弟とは六年ぶり、姉とはそれ以上離れていたのに、まるでずっと一緒だったみたいだ。俺たちは深夜までくだらない話で盛り上がり、寝坊した。




 翌朝。


「親父、兄貴。これ、昨日渡しそびれたけど、お土産」


「あぁ?」


 俺がカバンから取り出したのは、ノミだ。プロスペロさんに相談して、商業ギルドで手配してもらったもの。何本あっても困らないだろうし、一応市販のものの中では高級品だ。


「んだよ、こんなモン要らねェよ。使い込んだヤツが一番に決まってんだろ」


「要らなかったらあげるなり捨てるなり好きにしてよ。じゃあね」


「……」


 彼らは黙って受け取って、仕事に向かった。出勤前に間に合ってよかった。別に母に預かってもらってもよかったんだが、一応な。


「もう、ラウルもリカルドも素直じゃないんだからさァ。だけどロド、そんな気を遣うんじゃないよ?」


「まあ、次いつ帰省できるかわからないからね。これはお母さんとラミラぇの分」


 二人には魔石のタリスマン。水属性の魔石が、治癒術をちょっと助けてくれる。これはヒーラーの間では非常にポピュラーな装備で、何個身につけてもいい。一応髪飾り型にしたが、チャームは取り外せるので、後でペンダントや根付けにしてもらってもいい。


「あらぁ、これ結構な品物よぉ。高かったんじゃない?」


「商業ギルドの人が、掘り出し物だって勧めてくれたんだ。あとそれから、ルイにはナイフ、レネには図鑑な」


「やった! にいにサンキュ!」


「すごい……図鑑だ……」


 ルイには初心者用の剣でもよかったんだが、彼は大剣志望なので、流石に大剣までは用意できなかった。まだ十歳だしな。そしてレネには、子供用の鉱物図鑑だ。といっても、かなりボロボロの古本だけど。植物紙と印刷技術が存在しているとはいえ、やはりこの世界ではまだ本は高い。


 あとは、酒に瓶詰め、干物や菓子。それからいくばくかのお金。いつも母の神殿口座に振り込んでいるが、神殿経由だと寄付の名目で半分が手数料として取られるので、直接渡すに越したことない。


「じゃ、みんな元気でね」


「まあロド、もう行っちまうのかい?」


「にいに、もっとゆっくりして行けよ!」


「いや、お前らこれから幼年学校だろ? またいつか帰ってくるし」


「手紙……書けるように……がんばる」


「おう」


 母、姉、弟二人に名残惜しそうに見送られ、俺は実家を後にした。




 乗合馬車は朝昼二便。急げば朝の便に間に合うんだが、俺はそれをパスしてもう一つの目的地へ。実家から工房街を抜け、街の反対側にその家はあった。


「ごめんくださーい。ロドリゴと申しますが!」


 ドアノッカーを鳴らした途端、すぐにドアが開いた。俺のことを待っててくれたみたいだ。


「おやまあ、来たねぇ」


「パロマさん、お久しぶりです!」

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