第80話 帰省
「ふん。要件はそれだけか。ならさっさと帰れ」
実に六年ぶりの実家。しかし開口一番、父の一言がそれ。
「ちょっとアンタ、ロドの家はここだよ! おかえり、ロド。なかなか会えなくて心配したよ? お父さんもほら、アンタに会いたくてこうして待ってたんだから」
「余計なことは言わんでいい!」
なんだかなぁ。歓迎されてるんだか、されてないんだか。
「それにしてもアンタ、王都に行くなんてすごいじゃないか。そんであの、プラシドのナントカだっけ? あれを思いついたのもアンタなんだろ、大したモンだよ。ああそれから、仕送りも助かった。あの子らも、もうじき帰ってくるからね」
下の弟たちは幼年学校らしい。俺によく懐いてくれていたから、久しぶりに会うのが楽しみだ。
――と思っていたのだが。
「見違えたわね、ロド。最後に会ったときは、こーんなに小ちゃかったのに!」
「ふん。今でもチビだろ」
兄はともかく、姉までいるとは思わなかった。
ここで一度整理しよう。うちは両親二人に子供五人の七人家族。子供は上から兄、姉、俺、弟、弟。このうち姉と俺は、既に家から出ている。
父ラウルは土属性の家具職人。ラモン家具工房で働いている。母ロベルタは水属性、主婦業の傍ら神殿に奉仕活動に行ったり、治療院にパートに出たりしている。
「王都なんて偉そうぶりやがって。これだから商人は」
「アンタ! 素直におめでとうってお言いよ。本当に捻くれてんだから」
三歳上の兄リカルドは土属性、父に続いてラモン工房に就職。絶賛婚活中。二歳上の姉ラミラ、水属性。大体の水属性と同じく、幼少期から地方大神殿でヒーラーの修行を積み、先日ルバルカバ神殿に配属になったらしい。
「チャラチャラと食いモンなんか手がけやがって、ペラモスもたかが知れたもんだな」
「ちょっとリカ兄ィ、言い過ぎだって! アタシ食べたよ、ポルセルで。プラシドのなんだっけ、あれめっちゃ美味しかった!」
二歳下の弟ルイ、火属性。十歳なのに俺よりガッシリしている。自警団に入るのが目標。三歳下の末弟レネ、土属性。黙々と一人遊びするのが好きな子供だ。父や兄に倣って家具工房に就職するのか、それとも他の道を目指すのかは不明。
「にいに、今日はうちに泊まるんだろ! 剣の稽古に付き合ってくれよ!」
「ルイ兄ィ、ロド兄ィは弓術士だよ。剣の相手はできないんじゃないかな」
俺が奉公に出されたことからもわかるように、うちはとても狭い。姉が水属性だったため、早々に神殿に修行に出ることが決まっていたから、それを計算に入れて俺たちが産まれたんだと思う。しかし、合計五人は作りすぎだ。夫婦仲が良いのは良いことだと思うけども。
というわけで、全員集まるとリビングはぎゅうぎゅう。小さいテーブルには、俺の好物だと思われている豆スープとカチカチの黒パン。相変わらず素朴だ。家中からかき集めてきた椅子があぶれて、食べにくいことこの上ないが、こうして家族全員集まって食べる機会はもうないかもしれない。
半端ない人口密度に、味気ない食事。そして仲が良いんだか悪いんだかわからない会話。これらが尋常じゃなくエモい。俺はこの光景と味を、脳のメモリに焼き付けたのだった。
短いですが、キリがいいので今日はこの辺で。
作中、これまで姉の修行先を修道院としていましたが、全て神殿に修正しました。




