第78話 サンデードライバー
「ロドリゴ! そっち行ったぞ!」
「いっけぇ、ダブルシュート!」
パシュパシュン。
「あーっ、撃ち漏らした! 獲物が一羽減ったんですけどぉ!」
「うっせぇポンシオ、悔しかったら自分で撃ち落とせやぁ!」
日曜日の昼。俺はエルマノスと一緒に森の中にいた。ただし、現在のエルマノスはメンバーが一新している。まず五年前、かねてからの予告通りスサニタさんが次のヒーラーと交代。同時に、奉公人を卒業したプリニオが加入。そして翌年、彼女を追いかけるようにしてサバスさんが脱退。さらに今年、ポンシオが加入してセベリノさんが脱退。というわけで、現在のエルマノスは風、風、水の紙装甲パーティー。そこに日曜は、ペラモスから風属性の俺とリコが参入するものだから、緑一色待ちみたいな構成だ。
「もう、喧嘩はやめようよ。一羽仕留めただけでご馳走だよ?」
「ソシモさん、気にしたら負けっス。兄貴ら、ずーっと仲悪いっスからねぇ」
「おいリコ、俺らは別に仲悪くねぇぞ」
「そうだそうだ。ロドリゴがヘマしたのが悪いんだからな!」
水属性のソシモさんは、穏やかなお兄さんだ。鈍器でドツきに行きたがるヒーラーが多い中、ちゃんと杖を持って治癒術を中心に立ち回っている。彼はこのまま冒険者として活躍するのではなく、修行後は神殿に戻って神殿兵を目指すらしい。
翻って、他のメンバーの残念さよ。プリニオはあのまま剣士を選び、細身の片手剣で二刀流を目指している。そして去年加入したポンシオは、衛兵試験の受験資格が得られる十五歳までエルマノスで修行予定。衛兵試験には剣術と槍術が必須科目なので、現在は槍で戦っている。
彼らは以前とちっとも変わらず、依然としてガキ大将と小判鮫といった感じだ。特に奉公の後輩である俺とリコに対しては、その残念さを隠しもしない。とはいえ、冒険者ギルドではそれなりに大人な対応をしているようだ。腐っても商家で奉公をしていたわけだから、外面はバッチリ。
そんな俺たちがいるのは、森の浅層と中層の間。前衛に定番の火も土もいない俺たちが、どうしてこんなところまで入っているのかというと、それは冒険者ギルドでスキル刻印を買いまくったからだ。
スキル刻印。簡単に言うと、冒険者ギルドで一定の料金を払って講習を受け、スキル発動を補助する刺青を入れてもらうシステム。しかし、スキルを刻むためにはそれに見合った能力と資格、そして結構なお金がかかる。
俺も一時期、見よう見まねでスキルを模倣した時期があった。結局それは、チャーシューメンという掛け声からラーメン開発に逸脱していったわけだが、スキルを刻印なしにタダで使おうという魂胆は、静寂の双翼の二人と森に入ったのをきっかけに、価値観を改めさせられた。
「刻印に頼らねえっつうのも一つの考え方だが、いざという時に確実に使えねぇんじゃ話にならねぇぜ」
あの時初めて中層まで潜って、自分たちでは到底歯が立たない魔物と遭遇する危機を肌で感じた。森の外で草むしりしているのとは違う。確実に仕留められなければ命が危ないとなれば、胡麻味噌坦々が焦って空振りなんて許されないのだ。
というわけで、その後まとまった金が手に入った俺は、取れるスキルを片っ端から取りに行った。金なんて後からいくらでも稼げるが、命を落としたら終わりだ。
そうしてギルドでスキルを学んでみて、俺は刻印の有り難みを痛感した。当初俺は、刻印システムは運転免許に似たものだと思っていた。教官に合格をもらって免許を取って、初めて路上を安全に運転できるような。だけどスキルは運転じゃないし、ここには道交法もない。要は運転できればいいんであって、私有地で運転技術を取得すればいいんじゃないかって。
しかし実際に刻印を刻んでもらうと、スキルを使う意図を持った瞬間に刻印が光り、あらかじめ学んだ通りに自分のオーラが導かれていくのだ。なんていうか、格闘ゲームでいちいち難しいコマンドを入力しなくても、ボタンひとつでポンと技が出るみたいな。つまり、昇竜拳を出し損なって波動拳を出すようなヘマはなくなるのだ。なるほど、そりゃ誰だって刻印を刻むわ。
なお、刻印の獲得にはそれ相応の実力が必要で、剣を振るったこともないのに最強の剣技を習得するとか、そういうチートはできない。講習の段階で、技に見合った実力がなければ落とされる。よしんば刻んだとしても発動しない。自分の身体能力に見合ったスキルを身につけて、コツコツ腕前を上げていくしかないのだ。
というわけで、今の俺は弓術を修行中。現在は、二本の矢を同時に放つダブルシュートまで取得したが、いずれはあの時のトマスさんのように、トリプルシュートを使えるようになりたい。だがしかし、トリプルシュートを覚えるためには、ダブルシュートの命中率を上げなければならない。そして俺は、いつも二本目が当たらない。これ、どうやって当てるんだ? しかも、一度に二羽以上遭遇しなければ、スキルを上達させることができないとか。こんなん無理ゲーですやん。
「なにが無理ゲーだよ、ショッボ」
「うっせぇポンシオ。こっちはサンデードライバーなんだよ!」
「サン……なんて?」
「ソシモさん、気にしたら負けっス。ロドリゴさんがトンチンカンなのは今に始まったことじゃねぇっス」
おい。我、レッサーコカトリスを撃ち落とした功労者ぞ。なぜ俺が問題児扱いされてるんだ? 解せぬ。
前話、ポンシオの年齢を間違って記憶しておりました!
ちょっぴり手直ししました。
キャラの年齢設定くらい覚えとけよこのバカチンがぁ!
追記
スキル刻印に関する運転との比喩表現を一部追記しました。




