第77話 名前を刻め
奉公に入ってからはや六年。俺は十二歳になった。
「おはようロドリゴ。今日は洗濯を手伝っとくれ」
「はい喜んで〜!」
「終わったら野菜洗っといてくれ!」
「はい喜んで〜!」
「ロドリゴ、今日は研究所に詰めてくれ」
「はい喜んで〜!」
「ロドリゴさん、今日も朝からバリバリっスね! パネェっス!」
俺が七歳になってすぐ、プリニオは奉公明けで冒険者に。ペピトは学園初等部に入学して抜けていった。翌年、入れ替わりに入ってきたのがリコ。そして今年ポンシオが抜け、以来俺とリコの二人体制だ。
他所のことは知らないが、このペラモス商店に限って言えば、奉公人の受け入れは慈善事業みたいなところがある。六歳で洗礼を受けた子供を十二歳まで預かり、衣食住の面倒を見て教育を与えながら、小間使いをさせる。ペラモス商店側にはほとんどメリットはない。たまにポルフィリオ氏みたいな、学園を主席卒業するような金の卵を引き当てるくらいか。あとは年季明けにそのまま就職してくれれば、即戦力として投入可能といったところ。実際、ペラモスの社員は奉公からの生え抜きが多数を占めている。
奉公に出されるのは、孤児院のうち希望者と、生活困難な家庭の子供、家庭環境がよろしくない子供。要は口減らしだ。大多数の子供は、自宅で養育され、近くの神殿などで最低限の読み書きなどの教育を受け、社会に羽ばたいていく。なので、奉公人が少ないことは喜ばしいことだ。子供は基本的に、親元で愛情を受けて育つ方がいいに決まってる。
まあ、そうは言っても俺みたいに家族との折り合いが悪いヤツは、奉公に出た方が気持ちが楽だけどな。多少の労働が伴うとはいえ、前世ブラックで過労死した俺にはそよ風のようなものだ。しかも実家より美味い飯が食えるし、支給される服も与えられるベッドも、すべて実家を上回る。
そしてなにより、小遣い稼ぎのチャンスに事欠かない。あれからラーメン業は軌道に乗り、ペドロさんの店やギルド、行政と提携して、一大産業にのしあがった。今やポルセルの街は、中心部でも市場でもどこからかスープの香りが漂ってくる。
レシピは売れた。飛ぶように売れた。契約魔法が使えるポルフィリオ氏が研究所付きとなったことで、彼はほとんど毎日MP枯渇状態で、契約に勤しんだ。もしポルフィリさんの過去の縁談が上手く行って、彼が婿入りした後だったら、契約魔法の外注費だけでバカにならなかっただろう。
しかしどんな料理でも、レシピを購入せずに類似品を作るヤツが、必ず現れる。特にラーメン屋というのは、参入障壁が低い業種だ。似たようなスープパスタ店が、ポルセルを中心に雨後の筍のように出現した。
だがそれは、俺たちのラーメン業に対してほとんど脅威にならなかった。まず、共同開発者のペドロ氏の料理の腕前。本人は女癖の悪い困ったオッサンだが、伊達に宮廷料理人をやっていたわけではない。それからラーメンの種類の多さ。日本には星の数ほどラーメン屋がある。一つ模倣されても、ピッチングマシーンのように次々と新作を繰り出すことができるのだ。海賊版がコピーした頃には流行遅れ。俺たちは常に最先端をいくことができる。
そしてなにより、レシピ使用料の安さだ。どんどん新しいのを出す代わりに、使用料は低く設定してある。なぜなら、ラーメンビジネスのオーナーこと大旦那様は、自分の名前をレシピに刻むことが目的だからだ。
結局あれだけ揉めた「プラシドの栄光」は、当初より彼の一押しだった家系に落ち着いた。「どうせいっぱいあるんだから、あとは好きに名付けたらいいじゃない」と大奥様の鶴の一声で、その後は「スーパープラシドデラックス」だの「プラシドより愛妻に捧ぐ」だの、だんだん命名がいい加減に。そのうちネタが尽きると、「スーパープラシド2」だの「スーパープラシド64」だの「プラシドワールド」「プラシドパーティー」だの乱発を始めて、今ではみんなまとめて「プラシドパスタ」、略して「プラシド」と呼ばれ始めた。大旦那様はひたすら上機嫌だが、プラシドと名付けられた男児はみんな泣いているという。承認欲求とはまことに罪深い。
そんなわけで、俺の懐にも一定のギャラが入るようになった。これは実家で安穏と暮らしていては手にできなかったものだ。ペラモス商店で奉公人として過ごしてきた六年間の充実した日々。俺はちっとも後悔していない。
お待たせしました、新章です。
どの時点から書いたものか迷いましたが、奉公終了直前からスタートしました。
さてロドリゴ、どうなっちゃうんでしょうね……。
追記
ポンシオの年齢を間違って記憶しておりました!
作中ちょっぴり手直ししました。
お前さあ。




