第76話 春来たる
「やっとポル坊に春が来たねぇ」
あれから数度目のバイト。パロマさんはもうポルフィリオ氏の婚活の成り行きを知っていた。
「あの子は風の加護持ちにしちゃあ、真面目で奥手だったからねぇ。お相手にゃ、土や水の加護持ちがいいと思ってたんだよ」
「はぁ……。ですが一度、土の加護持ちのお嬢さんとの縁談は流れたみたいですが?」
「アレらは頭が固いからねぇ。コレは、と思えるような相手じゃなきゃ、難癖つけて追っ払っちまうんだよ」
まあ、パロマさんの言いたいことはわかる。うちも父と兄が土属性で、風属性に対して偏見が強かった。自分たちが心血注いで作った家具を、商売人はなんの苦労もなく、手のひらで転がすようにして大儲けする。風属性は悪い奴。というわけで、自宅から幼年学校に通わせる代わりに、さっさと奉公に出されたのだった。
しかし今回は、ポルフィリオ氏のオタク気質が功を奏した。ラーメン沼にはまって、研究所の調理員パコ氏と意気投合し、からの妹のサリタさんに「毎日君のスープを飲みたい」で、出会って即ゴールイン。あのセリフが、兄弟の故郷セグラでの定番のプロポーズなんだそうだ。俺とピオ氏は、図らずもプロポーズの場面に出会したということになる。なお、ポルフィリオ氏はそれがプロポーズだと知らずに放ったようだが、まんざらでもなかったようで、トントン拍子に婚約となった。
そしてその縁談がびっくりするくらい早く進んだのは、当人たちの意気投合っぷりもさることながら、研究所のオーナーたる大旦那様の後押しも大きい。
「これでポル坊も、大旦那とプロスペロに恩を返せるってわけだ。なんせ学園まで出してもらったんだからねぇ」
「あはは」
ポルフィリオ氏は特待枠のため、ほぼ自力で学園を卒業したと言っていい。しかし貴族が通う学園に庶民が入学するには、それなりの身分証明が必要なわけで、大店ペラモスの推薦がなければそもそも門戸すら開かれなかった。彼が先代や番頭に恩義を感じるのももっともなことだ。
しかし、これまでポルフィリオさんが大火傷した縁談を運んできたのは、すべてペラモス商店だった。取引先絡みの断りきれないものばかりだったとはいえ、従業員を手駒として扱う政治的判断があったのも確かだ。
今回サリタさんと婚約をしたことで、研究所の契約関係はポルフィリオ氏がすべて請け負うこととなった。契約魔法の使い手は、どこに行っても重宝される。これまで通り自社社員で賄えるなら、経営者サイドとしてはありがたい。特にこれから、レシピ登録で契約事務はさらに忙しくなりそうだしな。
というわけで、商店ぐるみの盛大な後押しの結果、彼らの婚約はあっという間に成立した。しかも善は急げということで、数ヶ月後には盛大に挙式が催されるそうだ。
「なんでも、祝宴で海の幸のスープが盛大に披露されるそうじゃないか。アタシゃ楽しみでねぇ」
「あー、それなら今度また試食会を」
「ああ、そりゃいいよぉ。合コンだっけ、若いモンの集まりだろ? アタシみたいのが邪魔しちゃ、場がしらけちまうさ」
「あ、いえ、大旦那様たちも来られますし」
「それにしても本気で縁談を探すんなら、シルビアに話を通してやるけどねぇ。ホラ、あの馬車で一緒になったあの子だよぉ」
そういえば、隣町から奉公に来た時に何人かのおばさ……お嬢さんたちと乗り合わせたのを思い出した。その中にいたんかな、シルビアさんって人。
「はぁ。じゃあ、ピオさんが彼女欲しいって言ってましたけど」
「あーあー、ピオ坊はダメダメ。あの子はずーっと遊んでばっかりで、身を固める気なんかありゃしないよお」
うおっ。お嬢様方の情報網、侮れねぇ。やっぱお見合い業は目指さなくてよかった。この世界でも、お見合いおばさんは最強っぽい。
そんなこんなで、俺の奉公人ライフは順調にスタートした。たった半年で随分いろいろなことがあったが、ローンチは無事乗り切った感じだ。
「おはようロドリゴ。今日は洗濯を手伝っとくれ」
「はい喜んで〜!」
「ロド坊は仕事が早くて助かるなぁ。終わったら野菜洗っといてくれ!」
「はい喜んで〜!」
「ロドリゴ、午後からは研究所に詰めてくれ」
「はい喜んで〜!」
「……おいロドリゴ。お前、シャチクが嫌だとか言ってなかったか?」
「やだなあプリニオ。これこそまさにアーリーリタイアへの布石じゃないか」
「いやお前、誰よりもシャチクじゃねぇか」
「ポンシオはわかってないなぁ。この先ラクをするために、今スキルを磨く。キャリアアップのためにはこれが最適解だろ?」
そう。なにごともトライアンドエラー。かつて有名な発明家は言った。一万回失敗したのではなく、うまくいかないやり方を一万回発見したのだと。少なくとも俺は、推薦で学園に行って、周りにいいように使われることはしない。それから、薬草ハンターはほどほどにする。第三の目()やスキルは他言しない。レシピに名を残さない。お見合い業はレッドオーシャン。たった半年で、これだけのことを学んだのだ。今生は勝ち組。間違いない。
「まあ、馬車馬のように働く手駒は優秀だけどね」
「誰が手駒やねん」
あとはペピト、コイツにも関わらないようにしなければ。大丈夫、俺の戦いはこれからだ。
これにて第1章?完結です!
もっと細かく章分けしたいのですが、いずれそのうち!
すべてが後手に回っていて、誠に申し訳ございません!
それからラーメンの話が続いてごめんなさい!
こんなはずでは!
なお煮干しラーメン、魚粉ラーメンは食べたことありません!
なんならつけ麺も未食です!
死ぬまでに是非食べてみたい!
そしてサリタさんの方言は出雲弁のつもりです!
学生時代の出雲弁の友達をイメージしましたが、若い世代なのであんまり訛ってなかったため、ネットで調べながら書きました!
不自然だったらごめんなさい!
ハイテンション!!!




