第73話 回収
すったもんだの後、俺たちはポルフィリオさんを連れて帰ることになった。なんと、ティトさんを連れ戻しに来たのが静寂の翼の二人。トリニダードさんが、帰らないと暴れる二人の背後に回ったかと思うと、首に軽く手刀を当てて、あっという間に昏倒させた。手のひらが紫色に光っていたのは偶然と思いたい。
ついでに二階で寝こけていた大旦那様とティモテオさんも無事回収。パッと見は細身のトマスさんだが、大の大人を軽々と担いで、表の馬車に手際よく放り込んでいく。全てが終わるまで、わずか数分。辺りには静寂が訪れた。さすが静寂の翼といったところか。てか、これがもし要人の誘拐だとしたら怖いな。一流冒険者、おっかねぇ。てか、静寂ってそういう……?
そんな男たちが運び込まれた馬車の奥には、豪奢なドレスのご婦人がいた。
「大奥様、お手数をおかけして申し訳ございません」
「良いわ、プロスペロ。いつものことですから。――あら、そちらの子供は?」
「遅くなりました。改めてご紹介申し上げます。こちらが例の奉公人、ロドリゴでございます」
「は、初めてお目にかかります」
「話には聞いていましたが、本当に洗礼を終えたばかりの幼児なのね。しかも極めて凡庸な見た目だこと。とても歴史を塗り替えるレシピを思いつくような麒麟児には見えないわ」
「あっはい」
「これからも励みなさい。期待しているわよ?」
大奥様がニコリと微笑むや否や、トマスさんはバタリとドアを閉め、御者席に乗り込んでさっさと出発してしまった。
「……なんか俺、ディスられてました?」
「期待されているのだ。気にするな」
「ちょっとポルフィリオさん、重くなってないっスか? それにクッセェし!」
ポルフィリオ氏を羽交締めのようにして、ピオ氏がズルズルと運ぶ。俺たちが乗ってきた馬車は小ぶりだ。気絶した大人を乗せれば、あとはプロスペロさんとピオ氏でいっぱいだろう。
「ワシは後からもう一度来る。お前は仮眠室を整理して、ポルフィリオの手がけた書類をまとめておくように」
プロスペロさんはそう言い残し、こちらの馬車も去っていった。
仮眠室はひどいものだった。修学旅行の男子部屋のような散乱具合、そして運動部の部室よりも臭い。一応、備え付けのデスクの上には書類が綺麗に揃っていて、中身もちゃんと処理されている。この辺はさすがポルフィリオ氏といったところだ。しかし、事務処理のために持ち込まれた書類を遥かに上回る、大量のラーメンの食レポ。ポルフィリオ氏と違う筆跡のものも混ざっている。ティモテオ氏とティト氏の書き付けだろうか。こいつらが日本に生まれ変わったら、毎日ラーメンを食べ歩く動画投稿者になりそうな気がする。
「ああ、洗濯モンは明日の朝に通いのお手伝いが派遣されて来っからよ……おお?」
厨房から俺の様子を覗きにきたパコ氏が、目を剥いている。
「大丈夫ですよ、掃除も洗濯も終わりましたから」
「おっ、おまっ、この半刻(一時間)ほどでどうやって……」
どうやってと言われても、ただ掃除洗濯しただけなんだが。
こないだアラスの二人と一緒に森に入ってから、俺のウィンド活用術に磨きがかかった。これまで風の勢いを強めるとか弱めるとか、そんなことしか思い付かなかった俺だけど、スキルっていうのはもっと幅広い応用だ。耳に力を集めて聴覚を強化したり、オーラを薄く広げて結界を張ったり。投擲と見せかけて、先にスキルでモンスターを貫くってのもあったな。とにかく、スキルっていうのはもっと柔軟で、オーラの使い途は無限だということを思い知ったのだ。
というわけで、ウィンドの使い道に幅が広がった。書類や小物は避けておいて、部屋の空気は埃と一緒に一気に換気。そして洗濯物は全部まとめて水場に運び、風を使った水流で強力洗浄、からの脱水乾燥。これをここのところ、寮でずっと研究していた。おかげで、俺の家事処理能力は格段に上がり、掃除当番、洗濯当番は順調にラップタイムを縮めている。それを毎朝、ペラモス商店の寮全員分やってるんだ。仮眠室一室分、大人数人分なんて、あってないようなもんだ。
「それよりここのメモに書かれていた問題点なんですけど、アブラマシマシにニンニクマシ。こういうのはメニューとして固定するんじゃなくて、あらかじめコールを決めておいて、柔軟に対応した方がいいんじゃないかと」
「コール」
「あとニンニクは卓上、アブラは別皿提供もアリなんじゃないですかね」
「別皿か!」
その後、俺とパコ氏は、プロスペロさんの迎えが来るまで延々とオペレーションの改善について議論し合うのだった。




