第68話 試食開始
「まずはチキンの骨から取ったスープからお試しください」
今日この場には給仕がいないので、俺自ら小さいボウルにスープをサーブ。麺入りフルサイズだと一気に腹パンになってしまうので、とりあえずスープからだ。そして幼児の危なっかしい手つきに、二番弟子のぺぺ氏が仕方なく手伝ってくれた。彼は鶏ガラ推しだからな。
「あらっ、思ったよりサッパリしてるのね?」
「グリーンオニオンがたっぷり乗ってて変わった味。だけどアタシ、これ嫌いじゃないわよ?」
「ああ、こちらコッテリしているように見えて、コラーゲンがたっぷりですから。お肌にもいいですよ」
「「なんですって!!」」
女性陣はスープを一気飲みして「おかわりィ!」とボウルを差し出した。いや、塩分の摂りすぎはむくみますよ。
「おーこりゃ、確かに美味ぇな」
「骨だけでこんなコクが出るとは思えん」
「やっぱこのチキンが美味ぇんだよ」
「ウチの親方の腕のモンよ」
素直に感心するサバスさんとセベリノさんに、ぺぺ氏とパキト氏が我がことのように自慢する。
「そんでロドリゴ、ただ試食のために俺たちが集められたわけじゃねぇんだろ?」
「ああそうそう、そうでした。今回お集まりいただいたのは、結婚のご予定のない淋しい独身の皆さんのために是非出会いの場をと」
「はぁっ?!」
「淋しくねぇし!! てか、スサ姉は渡さねぇぞ!!」
「待ってくださいサバスさん、ここでスサニタさんに男性を紹介しようという趣旨じゃなくてですね」
「なによぉ、淋しい独身なんて失礼しちゃう」
「俺はちょっと淋しいがな……」
「「親方?!」」
ああもう。トリニダードさんがお怒りになる一方で、ペドロさんに流れ弾が当たってる。ペドロさんって独身なんですか。
「いえちょっと、そういうんじゃなくて。皆さんご存知の通り、弊社のポルフィリオが婚活に苦戦しておりまして。できれば私が直接出会いの場を設けることができればよかったんですけども、残念ながら力及ばず、こうして試食会を兼ねて皆様にお知恵をお借りできればと」
「おい待てロドリゴ。俺はそんなこと頼んでないぞ!」
「いいえポルフィリオさん! もしあなた自身に解決能力があれば、今ごろ可愛い女性と恋愛結婚をされていてもおかしくないはずです! ですが安心してください。チャンスは人を介してやってきます。この場にお集まりの皆さんのお知恵をお借りすれば、きっと道は開けるはず!」
「俺を残念な男扱いするのはやめろ!」
ええ……。十分残念ですけども?
「というかロドリゴ。ポルフィリオさんに限らず、ここにいるのはみんな女性に縁のない男性ばかりだろう。女性を紹介できる甲斐性があるなら、今日ここに集まっていないんじゃないのかな」
「それなー。てか俺らまだ未成年だしィ、婚活とか関係ねぇしィ」
「そうだそうだ。そんなのいいからもっと食い物よこせよ!」
ペピトの鋭いツッコミに、やる気のないプリニオとポンシオ。コイツら、置いてきた方が良かったかな。
「お前ら。婚活はずっと先だと思ってるだろうがよ、本当にあっという間だぜ。そんで金のねェ下積み時代にゃ女に見向きもされず、宮廷料理人になった途端に群がって来やがってよォ。やっと身を固めたと思ったら『忙しいアナタとはやっていけない』っつって金目のモン持ってトンズラだよ。……なあおい、なぁにがすれ違いだよ。宮廷料理人なんかよォ、二十四時間三百六十五日、忙しいに決まってんだろうがよォ!!」
「「お、おう……」」
あ、なんかいきなりペドロさんが闇堕ちし始めた。
「んで蓋を開けてみりゃ、最初っから若い間男とデキててなァ……いや間男は俺の方か? それとも単なる金ヅルかァ?」
「ちょっと親方、今はそういう話じゃ……」
「いいかお前らァ、女なんかクソだぜ。なぁにが婚活だ、なぁにが合コンだァ! どうせ行き先はなぁ、地獄に決まってんだよ。ヒャハハハァ! ……うっうっ」
「あ〜あ。お前ら、親方はこうなったら面倒臭いんだからよ、不用意なこと言うんじゃねェよ」
「だ、だってそんなの知らねェよ。俺はただ婚活なんて関係ねぇって言っただけで……」
「俺は食いもん出せって言っただけだしィ……」
狂気で泣き笑いを始めるペドロさんを宥めるぺぺ氏、そして引き金を引いたプリニオとポンシオにボヤくパキト氏。てか、「未成年だから婚活は関係ない」のどこが引き金だったのか。人間ダンゴムシ以上に面倒臭いトランスフォームを果たしたペドロ氏に、列席者みんながドン引きするのだった。
おまけ・試食会兼合コン参加者一覧
冒険者パーティーエルマノス(サバス、セベリノ、スサニタ)
冒険者パーティーアラス(トマス、トリニダード)
ペラモス商店店員(ポルフィリオ、ピオ)
ペラモス商店奉公人(プリニオ、ペピト、ポンシオ、ロドリゴ)
レストラン料理人(ぺドロ、ぺぺ、パキト)
うち女性は、スサニタさんとトリニダードさんのお二人だけです。
なんすかこの地獄。




