第65話 寿退社を目指して
「というわけで、ポルフィリオさんには是非とも寿退社を目指していただきたいんだが」
「ロドリゴ。それ本気で言ってる?」
夜、寮室でペピトに相談を持ちかけてみる。案の定反応は芳しくなかったが、そんなことで挫けていては何事も成し得ない。
「いや、プロスペロさんがいなくて事務室がてんてこ舞いしてるって愚痴ってたのは、お前だろ」
「馬ッ鹿じゃね」
二段ベッドの上段から、プリニオとポンシオのツッコミが入る。いやそうなんだけどさ。
「ギスギスした職場は非常に効率が悪いだろ。生産性にも影響する。そしてそのギスギスの元凶たるポルフィリオさんが幸せになれば、彼も安泰、俺たちも安泰。Win-Winじゃないか」
「言いたいことはわかるけど、要は目の上のたんこぶを消したいわけだよね。だけどポルフィリオさんは契約魔法担当だし、外部に頼むと手数料も馬鹿にならない。書類仕事も完璧だ。多少部下への当たりがキツいってだけで、ペラモス商店としては手放し難い人材だと思うけどね」
「ちょっと。それって商店側が縁談を成立させないようにしてるってことか?」
「流石にそこまでは介入はしてないだろうけど……」
「おいロドリゴ、人の色恋ごとに口を出すなよ。そういうのは馬に蹴られるってスサ姉が言ってたぜ?」
「俺らだってサバス兄ィに散々諦めろって言ってっけどよ、そのたんびにゲンコツ食らうんだからな」
ああ。サバスさんの件は、やっぱ誰が見ても無理筋なんだ。
「まあ、俺はもうすぐ奉公明けだし、関係ねぇけどよ」
「俺も、事務室には用はねぇから知らね。おやすみぃ」
孤児院組は早々に離脱。まあ彼らの力を当てにしてはいないが。
「……僕ももう学園初等部に入学だから、関係ないといえば関係ないけど。どうしても介入したいなら、静寂の翼の二人にでも聞いてみたらいいんじゃない?」
そして頼みの綱のペピトも、毛布をかぶって背を向けた。そうだな。今のところ、それしかなさそうだ。
「はぁ? ポルフィリオの縁談をまとめるたぁ、また……」
「余計なことに首を突っ込んでるわねぇ」
水曜日。バイト終わりにいつものジューススタンドで、アラスの二人に「真面目な相談がある」と持ちかけると、トマスさんの耳が即座に光り、トリニダードさんのオーラが紫に変わった。しかし相談内容がポルフィリオさんの縁談だとわかると、それらはスンッと消え去った。
「いやもう機嫌が悪くてピリピリしてて、やりにくいっていうか」
「お前それ、贅沢な悩みだぞ。奉公人ってのは、十分に食事もなくて孤児院と変わらねぇ待遇のところも少なくない。使用人も同じだ。薄給どころか給料未払い、ひでぇとこだと鞭打ちなんかもあるからな」
「ウフッ。それ以下のところもいっぱいあるけど、お姉さんはあんまり言いたくないわぁ」
「ぐうブラック」
「まあ彼に関して言えば、今のところ相性のいい縁談に恵まれなかったってだけだな。あれほど有能な男だ、そのうちまとまるところにまとまるだろうよ」
「そうねぇ。全部が全部知ってるわけじゃないけど、アタシが知ってるのはこんなもんかしら」
トリニダードさんはポルフィリオさんのこれまでの縁談歴について、サラッと語った。なんで知ってんの。
「いや、こんな小さい街だ。知ってるヤツはみんな知ってるぞ」
「ウフッ。これくらいなら情報料は頂かなくてもいいわよ?」
うーん、さすが商業ギルドのお抱えエージェント。彼らの前では、プライバシーなどあってないようなものだな。




