第62話 事務室
「ふん、次から次へと問題を起こしおって。お前のせいで商店の業務がめちゃくちゃだ」
月曜日の事務室、ポルフィリオさんの安定の嫌味。しかし俺は知っている。こうして悪意を顔に出してくれるような雑魚など取るに足らない。世の中、もっと怖いヤツはいっぱいいる。彼のボヤキなど、そよ風のようなものだ。
先週から番頭のプロスペロさんが事務室を不在にすることが多くなった。なんでも先々代が「プラシドの栄光」ことチャーシューメンを本格的に磨き上げたいとのことで、ペドロさんの店や商業ギルドを巻き込んで、大プロジェクトを立ち上げようとしているらしい。
しかし困ったことに、誰もそれを止めようとしない。先々代の大旦那様がノリノリなのは致し方ないとして、料理人のペドロさんたちも商業ギルドの偉い人たちも前のめりで進んでいるらしい。そりゃそうだ、あの夕方の給仕のティモテオさん、彼はギルドでも結構な偉い人らしい。お忍びに定番の一流レストランなんて、政治やカネが動く現場だからな。さしずめ日本で言う料亭みたいな感じ。
さらに、実務班として振り回されているはずのプロスペロさんもラーメン道にハマり、嬉々としてプロジェクトを先導しているそうだ。現在は街はずれの物件を借り受け、ラーメン開発専門機関「プラシド研究所」の発足のために奔走しているらしい。これには領主様も一枚噛んで、官民一体事業として大規模に推進していく方向なのだとか。
しかし社外で新プロジェクトが進行しようと、通常営業は変わらないわけで。今やペラモス商店の事務は、次席のポルフィリオさんの肩にずっしりとのしかかっている。実質彼の一人負けだ。
「誰が一人負けだ! いいか、今は俺が番頭代行だ。くだらん無駄口を叩く暇があれば、手を動かせ!」
「あっはい」
「おいロドリゴ、ポルフィリオさんは婚活連敗で気が立ってるんだ。余計なこと言うなよ」
「ピオ! お前もだ!」
「やっべ」
ピオさんが肩をすくめて書類に目を落とす。だけど、わざと聞こえるか聞こえないかのボリュームで俺に告げ口をするあたり、コイツも食えないヤツだ。
しかし婚活連敗ってどういうことなんだろう。平民ながら特待で学園を卒業し、ペラモス家具店の若手幹部として働くポルフィリオ氏。いろいろ拗らせたプライド野郎だが、実際エリートなのは間違いない。なんせペラモスは、この辺では結構な大店の一つ。今代の当主が王都の老舗織物店の娘と政略結婚し、王都に支店を構えるほどだ。なお彼らは王都に住んでいて、俺は会ったことがない。
顔は整っていると思う。てか、風属性は他の属性に比べて外見に恵まれる傾向にある。まあ人の好みはそれぞれだ、男臭くて筋肉モリモリが好きなら火属性か土属性。水属性は柔和な感じ。細身でシュッとしていて、一見して人目を惹きつけるのが風属性だ。ポルフィリオ氏も例外じゃない。
「契約魔法も使えるし、一生食いっぱぐれなさそうな優良物件だと思うんですが……」
「ホラやっぱ、人柄は大事っていうか」
「お前たち! 手を動かせと言っている!」
「やっべ」
番頭気取りでふんぞり返るポルフィリオ氏に、全然やべぇと思っていないピオ氏。これはしばらく波乱が続きそうだ。
14話と27話「パロマの涙」を「パロマの雫」に訂正、その他誤字を修正しました。
いつも皆様からの誤表記や誤字報告などに本当に助けられております。
温かいご厚情、心から感謝申し上げます!




