第59話 銀級冒険者
「それっ、トリプルシュート!」
パシュシュッ! ドサッ。
「もうトマスさん。私たちの出番がないわ?」
「ハハッ、すまんすまん。今日はこっちの薬草採集に付き合ってもらってるからな、こんくらいはさせてくれ」
「レッサーコカトリスを一撃なんて、さすが銀級だぜ!」
「俺たちではリーチが足りなくて、手も足も出ないですよ」
「ふふっ、逆よぉ。アタシらじゃ麻痺させられたら終わりだものぉ、先制攻撃しかないのよぉ。今日はヒーラーのスサニタと一緒だから、心強いわぁ?」
「まあトリニダード! お姉様とお呼びしても?!」
さっきから魔物と遭遇するたびに即キル。相手に気付かれる前に、トマスさんが全部撃ち落としてしまう。浅層のウサギは譲ってもらったが、さすがに中層のモンスターは俺たち見習いには歯が立たない。それどころかレッサーコカトリスは、遠距離攻撃の手段を持たないエルマノスでさえ荷が重いモンスターだ。銅級と銀級、階級としては一つしか違わないが、駆け出しと熟練の実力差を思い知らされる。
「俺……弓術士に転向しようかな……」
「なんだよプリ兄ィ。男は黙って剣士なんじゃなかったのか?」
「ハハッ。弓術もいいが、矢の消費が痛いからなァ。今のまま剣術を磨くのも、悪くない選択だと思うぜ」
「トマスさん、マジか!」
「それより、俺の本当の強みは索敵だ。相手より先に気づけば、戦いを有利に進められるし避けることもできる。斥候術はなにかと忌避されるが、せっかく風の加護があるんだ。索敵くらいは覚えておいた方がいいぜ」
「やるやる! 俺、索敵覚える!」
「俺も!」
ヤバい。孤児院組が、どんどんアラスに取り込まれていく。トマスさんの強みは索敵なんかじゃない。真の脅威は心理戦だ。
そしてその索敵だが、どうもあのジュース屋でのアレと同じっぽい。彼は時々立ち止まって周囲に目を配るんだが、その時トマスさんの耳がぼんやり光り、オーラが薄く広がっていくのが見える。
あと、矢を放つ時にも光を乗せてるのが見えた。あれはペドロさんのところの料理人と同じだ。彼らはナイフにオーラを纏わせて食材を綺麗に切り分けていたが、見た限り理屈は同じっぽい。あれはいわゆるエンチャントなのだろうか。あれってチャーシューメンや胡麻味噌坦々みたいに、真似できねぇかな。
しかしもっと気になるのが、トリニダードさんのスキルだ。
「あらっ、うふふ」
シュタン!
投げナイフが木に当たる音がしたかと思うと、小さなヘビがポトリと落ちてきた。
「ヤドクヘビ! 危なかったわ」
「解毒はできるけどぉ、爛れちゃうでしょ? 可愛いスサニタちゃんのお肌を傷つけるわけにはいかないわぁ」
「あぁん、お姉様!」
トリニダードさんとスサニタさん、紅二点がちょっと百合百合しい。だが問題はそこじゃない。俺は見たんだ。ナイフが木に到達する前、すでに紫色のオーラがヘビを射抜いていたところを。
「さすが風の加護持ち。投げナイフの命中率も凄まじいですね」
「まぁねぇ。扱う武器が軽いなら軽いなりに、工夫しなくちゃね?」
スサニタさんとじゃれ合いながら、セベリノさんにウィンクを投げよこすトリニダードさん。ベテラン冒険者のはずなんだが、まるで少女のような妖精みたいな魅力の持ち主だ。しかし彼女の戦いを観察していると、ずっと紫色のなにかがモヤモヤしている。彼女は本当に風属性なのか?
「お、ロドリゴは投げナイフが気になるのか?」
「投擲術は便利よぉ? いざとなったら、その辺の石ころを投げても武器になるんだからぁ」
「いえあのっ、俺は冒険者は目指してないっていうか」
「なんだ。斥候術も投擲術も、いざとなれば護身術になって便利だぜ?」
「なぁに、なんか気になることでもあるぅ? お姉さんが教えてあげるわよ」
「いやっ、別にトリニダードさんに質問があるわけではっ。強いて気になるといえば……年齢とか?」
「「!!」」
俺はその後、トリニダードさんとスサニタさんに無言でゲンコツをくらい、泣きながら後を歩くことになったのだった。




