第57話 栄光の後
「酷い目に遭いました」
水曜日の午前、パロマ青果店でのバイト終わり。最近は果物の売れ行きが好調すぎて、バイトが捗って仕方ない。パロマさんが朝七時に農園で仕入れた果物は、八時から店頭に並べ、十時には売れてしまう。付近に競合店がないのもいいのだろう。オレンジクレープシュゼットもどきであるパロマの雫、そしてタルトタタンもどきのペネロペの薔薇。この二つのレシピが、庶民でも手の届くスイーツとして広まった結果、果物の消費増大に貢献できたと自負している。
だがそのレシピ開発で、今回は大きな心のダメージを負った。大旦那プラシド様は、自分の名前を冠したレシピは至高の一品でなければならないと言い張り、月曜日にせっかくまとまりかけたレシピの提出はお流れに。仕方がないので翌日火曜日、現段階で用意できる全ての種類のスープに麺、トッピング、カエシを用意して、大旦那様に好きなように試食してもらうことになった。そんで結局、月曜日に選んだ家系統と同じ組み合わせに落ち着いたんだから笑えない。これより美味しい組み合わせができたら、「プラシドの栄光スーパー」とか「極」とか、「アルティメットプラシド」とか付けたらいいじゃないか。そう提案すると、やっと納得してくれたんだが。
「まあ、お貴族様やお金持ちは名誉にこだわるもんだよ。名誉じゃ腹は膨れないけど、お金はあの世に持っていけないからね」
「そんなもんですかね……」
「それよりロドリゴ、あんたはレシピに名前が乗らなくてもいいのかい?」
「いえ、俺もそういうのはどうでもいいですね。有名になると、有名税みたいなのが付いて回りますし」
「ははっ、違いないねェ」
勢いでクレープシュゼットもどきに「パロマの雫」と名づけた結果、パロマさんは一躍有名人となり、オレンジが飛ぶように売れるようになった。しかし「あれがパロマの雫の店主だ」と注目を浴びるようになり、彼女はこれまでよりも身なりに気を遣うようになった。まあ、パロマさんに関しては良い方に作用したが、「ピオの綿雲」で名前を刻まれたピオさんは、魔法使いに絡まれるようになってしまった。そして俺も。
「あぁらロドリゴ。バイトは終わったぁ?」
「パロマさん、調子はどうだい。今日も終わりかい?」
来た。トマスさんとトリニダードさん、商業ギルドの手先ペア。
「それにしてもロドリゴ、本当にお前は話題に事欠かねぇな」
「あっはい」
「やぁだ、嫌そうにしないでよぉ。私たちはロドリゴの味方よ?」
連れて行かれたのは、いつものジュース屋台。ここのジュースもパロマさんの店の果物を使っているので、実質バ先の延長線上だ。
オーラが見えるようになってしばらく、俺は気づいてしまった。彼らは商業ギルドのお遣いのような、なんでも屋みたいな仕事をしているが、実際は結構な凄腕だ。だってオーラの量が半端ない。特にこうして何気ない雑談をしているようで、トマスさんのオーラは辺り一体に薄く広がって周りを警戒している。トリニダードさんのは紫色に変色して、テントみたいに俺らを覆っている。
エルマノスの三人と比べても、彼らのオーラの総量は半端ない。しかも普段は、その膨大なオーラを綺麗さっぱり引っ込めて、一般人と見分けがつかないくらい。不気味だ。底が知れない。親しげな笑顔が余計に胡散臭い。
「……ま、聡いお前なら勘付いているかもしれんが、俺らはボディーガードだ。敵じゃねぇのは確かだぜ」
「そうよぉ。あんた、なんだかすんごいレシピを開発したそうじゃない。ワルい大人にバレた日には、誘拐監禁待ったなしよぉ?」
「ヒッ」
これだよ! 一番嫌な有名税は。てか、仕方ないだろ。棒を振り回す掛け声はチャーシューメン。そしてチャーシューメンが美味いのは日本の常識。俺が悪いんじゃない、ラーメンが悪いんだ。
「まぁ、その辺はギルドや領主様も厳密に隠蔽するように動いてる。だが、お前が関与した噂を消す前に、俺らがそれとなく護衛につくのは仕方ねぇな」
「大丈夫、これまで通り普通に暮らしてればそれでいいのよぉ。だけど、予定外の外出や突飛な行動だけは避けてねぇ?」
「ハハッ」
誘拐を狙われて、なにが大丈夫か。まったく安心できない状況に、有名にだけはなりたくないと心に決めた、俺なのだった。




