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社畜に異世界は生ぬるい〜奉公から始まる楽勝平民ライフ  作者: 明和里苳


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第56話 決定! プラシドの栄光

「ってわけで、そろそろ大旦那にチャーシュメンのレシピを提出しなきゃなんねぇんだが」


 ランチ営業をやっつけた後。厨房では、チャーシューメンこと「プラシドの栄光」の完成レシピを巡って意見交換が図られた。


「やっぱ豚スープがいいでしょうね」


「いやパコさん、チキンの方が再現性があっていいっスよ」


「チャーシュって肉のことなんでしょ。じゃあ肉が盛り盛りじゃないと」


「いや、この際ガツンとボリュームで勝負っス。野菜マシマシはインパクトデカいっスよ!」


「ダメだろトニョ、ニンニクが効きすぎたのは紳士淑女にはウケないって」


「ふむ。小生はやはり、シンプルな細麺と豚のコクに魅力を感じますな」


 うん。試食の段階から予想はしてたけど、見事に意見が割れたな。まずペドロさんの一番弟子、パコは鶏スープが好きじゃなさそう。しかし逆に、二番弟子のぺぺは鶏ガラに中太麺推し。末弟子のパキトはひたすら肉推し、特に鶏チャーシューに並々ならぬ情熱を抱いている。


 そして昼バイトのティトは二郎系沼にドボン。逆にトニョはニンニク嫌い。まあ彼らは、夜はバーテンとして働いてるらしいからな。彼ら自身のエチケットはもちろん、客のナイトライフをアシストするのも彼らの役目だ。男も女も、ニンニク臭いのはモテないだろう。気軽にニンニクを勧められない事情はわかる。あと、ティモテオさんは細麺の豚骨ラーメン推しだ。来世は九州に生まれたらいいと思う。


「ハァ、まぁこうなるとはわかってたがな。しかし困ったな、これじゃ大旦那に回答できねェぞ」


「土壇場に来てロドリゴがトッピングなんて言い出すからよ」


「うぇっ?」


 いや、好みがバラバラなのは仕方ないにしても。なんか俺のせいにされてる?


「ふむ。こうなったらこの四種類をプラシド様に召し上がっていただいて、どれが最もお口に合うか決めていただくべきでしょうな」


「そうだな。材料費もそうだが、金曜日からこっち、かまどにも火を入れっぱなしで薪代もバカにならねぇ。いくら開発費はペラモス商店が全部持ってくれるったって、限度ってもんがあるだろ」


 なるほど、そう言われれば。庶民は寒い時期でも薪をケチって、ボロ布をかき集めて厚着をして凌ぐものだ。スープを煮出すだけのために何時間も竈に火を入れ続けるなど、ペドロさんの店のような一流店でも贅沢なこと。開発にそう時間をかけていられないのもわかる。




 というわけで、早速翌日火曜日。ランチ営業の後、プラシド様による試食会が行われた。そして悩みに悩まれた結果、「プラシドの栄光」は豚骨に中太縮れ麺、しっかりチャーシュー、ほうれん草、玉ねぎのみじん切りの組み合わせに決まった。


「やった! やっぱりプラシド様の舌は、コイツを選ばれると信じてたぜ!」


 最も家系を推していた一番弟子のパコさんが、天井に向かって拳を突き上げている。いや、別にお前の功績じゃないっつうか。


「それでは『プラシドの栄光』はこちらのレシピで登録手続きを進めさせていただくといたします」


「うむ、任せた。しかしあのスープパスタがこのような料理に化けるとは、想像もしていなかったぞ!」


「まったくです、大旦那様。――ペドロもよくこの味を引き出してくれた。ロドリゴの突拍子もないアイデアには、我らも常に振り回されてばかりだからな」


「いえいえ、プロスペロ様。突拍子もないのは今に始まったことではありませんが、その成果がこれですから。振り回され甲斐があるというものです」


 あれっ。大旦那様についてきたプロスペロさんとペドロさんが、お互いを称え合いながらしれっと俺をディスってる。なぜ。


「まあまあ、先駆者というものは常に理解されにくいものですよ。それではロドリゴ、あなたもこちらの書類にサインしていただいて。あと他に、レシピに申し添えたい内容はありますかな?」


「あっじゃあティモテオさん、後は海苔を添えていただけると完成形になるかなって。それからカエシの塩だれのところ、豚を煮た煮汁だけじゃなくて、魚介の旨みも足しときたいですね。それから醤油やみりんはまだ手に入らないので、ラーメンの味を邪魔しない酒だけでも」


「待て待て待て」


「おい、なんだノリとは。それから、魚介の話など聞いておらんぞ」


「プラシド様。ノリというのは海中の藻を板状に乾燥させたものらしく」


「そういえば、しばらく前からラーメンという名称がちょくちょく出てくるが、ラーメンとは一体なんなんだ」


「えっプロスペロさん、そこからですか? いや、チャーシューメンはラーメンの一種でして、チャーシューがいっぱい乗ってるラーメンがチャーシューメンっていうか」


「「「なんだと!!」」」




「ほら見なさい、チャーシュメンに肉が乗っておらずとも、ラーメンとしては成立していたのです!」


「そんなん知るかよ! 俺ァチャーシュメンを作れって言われたから作ってただけでよォ!」


「やっぱ肉ですよね、親方!」


「いいや、山のような野菜にドロッドロの脂! これこそヌーベルキュイジーヌってヤツですよ!」


「もっと美味いレシピがあるなら初めからそう言いなさい! ええい、プラシドの栄光に一点の翳りもあってはならぬ!」


 ヤバい。さっきまで大団円のうちに話がまとまりそうだったのに、どうしてまたこんなカオスに。


「なに他人事みたいな顔してんだ! 全部お前のせいだろうがよ!」


 ペドロさんが頭を抱えている。いや、ラーメン道に終わりがないのは俺のせいじゃない。恨むなら日本人の飽くなき探究心を恨んでいただきたい。

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