第53話 レベル上げ
俺は渋顔でみんなの後をついて行った。チッ、みんなして楽しそうにウサギを狩りやがって。だが、森を歩くだけでも十分な収穫は得られる。時々見かける貴重な薬草、石、木の実など。それから朽ちた魔物の牙や、巣の痕跡なんかも見つけた。第三の目()を使って辺りを見回せば、新たな発見の連続だ。
そして新たな発見といえば。
「ゴマミソォ、タンタン!」
「ゴマミソタンターン!」
「ゴマミソ、タンタン」
前に出てサクサクウサギを狩っていく、奉公人の同僚たち。彼らのオーラが、ウサギを倒すたびにどんどん濃く大きくなっていくのがわかる。
「よーしお前ェら、だいぶ板についてきたんじゃねぇか?」
「へへっ。当たり前だぜ!」
回数をこなせば身のこなしも様になってくる。サバスさんが板についたと表現したのはその通りだ。だけど俺の目を通して見れば、単純に生命力が上がって、技の威力が上がっているのがわかる。ううむ、これがRPGで言うレベルアップってことか。
「うん? ロドリゴ、レベ? なんだ?」
「いいえこっちの話です」
前世、うっかりブラック企業から離脱し損ねた俺。今世こそ過労死を避けてアーリーリタイアを実現したいところだ。そのためには、早急に不労所得を得なければならない。体が資本、その日暮らしの冒険者コースは考えていなかった。成り行きで薬草採集に誘われて、成り行きでオーラが見えるようになって、成り行きで戦闘スキルを真似したら、なんか出来ちゃったみたいな流れで。
しかし、実際にレベルアップするなら話は別だ。今俺は、無性にウサギを狩りたい。ただでさえこの見習い体験、森を半日歩いてウサギに出くわすのは数羽だけ。敢えてエルマノスさんが安全な場所を選んで歩いているせいだが、そんな調子ではいつまで経っても俺のレベルアップのチャンスは巡ってこない。
俺は知っている。オーラを手に集めるだけで、ただのウィンドが強力なブロワー、もしくは掃除機になることを。という事は、レベルアップしてオーラを強化すれば、それだけ清掃能力が増すということだ。この世界、なにが飯の種になるかわからない。なんとなく思い出したチャーシューメンが、この街一番のレストランを席巻しようとしているのだ。風の力で広範囲を一気に洗浄する能力、これはきっとビジネスチャンスに繋がるに違いない。
そのためにはウサギだ。俺はこの中の誰よりも早くツノウサギを見つけ、それを殲滅する必要がある。まだ剣術が身についていないから、なんて寝言は言わせない。要は見つけたもん勝ち、倒したもん勝ちだ。アーリーバードがキャッチザワームするのだ。ヨシ。
「……しっ。近くにいるぞ。動くなよ」
前を歩いていたサバスさんが俺たちを制する。俺も気づいていた。前方五十メートル付近に、黄色い魔力の塊が見える。
金曜日、ペドロさんの店に派遣されて気がついた。土属性の料理人たちは、目や耳、鼻など、五感にオーラを集めることで、感覚を研ぎ澄ませていた。しかし俺が同じことをすると、感覚が拡散するということを。これって索敵に最適過ぎじゃね? そりゃ風属性の冒険者が斥候に向くわけだ。今のところ第三の目()に気づいているのは俺だけみたいだが、元々風属性にはそういう適性があるんだろう。
その索敵を、普通の視力聴力だけでこなすサバスさんはすごい。さすが駆け出しとはいえ、本職の冒険者だ。しかし、既に正確な位置を掴んでいる俺には及ばない。
耳を澄ませながら、慎重に辺りの気配を探るエルマノスの皆さんと奉公人たち。しかし俺は、同じように周りを警戒するふりをして、一人じわじわとウサギの方へ近づいていく。
(こら、ロドリゴ! 離れちゃダメだ!)
殿を務めるサバスさんが、隊列を離れる俺に小声で注意を飛ばす。だがもう遅い。俺はここだぜ一足お先、光の速さでウサギへ!
「ゴマミソタンターン!」
「「「キキッ!!」」」
「だから! 勝手な行動はダメだとあれほど!」
「ずびばぜん……」
悲しい時。ウサギの群れに単独で突っ込み、一方的にボコされた時。手持ちの非常食だけ奪われ、さっさと逃げられた時。そしてせっかくエンカウントした五羽にあっさり逃亡され、みんなからコッテリ叱られた時。
その日の狩りはそこで中止となった。ツノウサギは警戒心が強く、警戒音を発しながら森に散り散りとなった五羽が、この辺りからウサギたちを遠ざけてしまった。今日はもう狩りにならないだろうということだ。
立ち止まった状態で二連撃を真似するのと、動くモンスターを相手にスキルを使うのとは、天と地ほどの差がある。俺はそれを、身をもって知ることとなった。ウサギに向かって飛び出した足はもつれ、ナイフが到達する前にズッコケた。そして腰の携帯クッキーだけをかじり取られ、無惨に敗北した。
「ホントよぉ、ちょっと齧られただけで済んで良かったわよぉ。アイツら雑食だから、ツノで突かれて首筋齧られてたら終わりよぉ?」
「うぐッ」
「まったく! 俺らがいたから死にゃしなかったけどよ、あれでも魔物なんだからな!」
みんながいたから生還しただけで、俺がソロで突っ込んでたらやられてたってことだ。森こっわ。ウサギですら死亡フラグとか。
「とにかく。もう無茶な行動はするんじゃないぞ。わかったな?」
いつもの如くセベリノさんに背負われ、俺はおめおめと街に戻ったのだった。




