第49話 ランチ営業
そうして過ごすこと半日、店はランチ営業で戦争のような忙しさに突入。ホールには風属性のウェイターが二人入り、客を次々と回していく。日替わり固定なのが功を奏しているのか、調理もスムーズだ。なんか雑魚が無限湧きするタイプのボス戦みたい。
前世、学生時代にホールのバイトはやったことがある。俺も手伝おうかと思ったが、生憎いつもの奉公人スタイルだ。ペドロさんも気持ちだけ受け取っておくと言った。まあそうだな、六歳児に注文を取りに来られても困るよな。たまたま馬車で一緒になったってだけで、俺をバイトに雇ってくれるパロマさんが大変ありがたい。
「あいつらが忙しそうにしてるから、落ち着かねェのはわかるけどよ。下手に手ぇ出したら、あいつらのためになんねェんだよ」
ペドロさんもただ放置するんじゃなくて、目的があってそうしているようだ。いつかお弟子さんがお店を持った時、自分の裁量でお店を切り盛りする経験が支えてくれるんだと。
「ああ、わかりますよ。あん時あんだけ苦労したんだから、このくらいの忙しさだったらへっちゃら的な」
「お前、この六年でどんな人生を送ってきたんだ」
大丈夫、部活も飲食も、どこの会社のどの部署も同じだ。結局縦社会の脳筋な要素、どこにでもあるよな。
「そんじゃま、お疲れ様っした〜」
ランチ営業が終わると、ホールのバイト君たちがそそくさと帰っていく。とてもドライだ。まあペドロさんのお弟子さんたちは、みんな風属性を毛嫌いしているようだから仕方ない。
「それにしてもそれ、ずっとクッサいんですけど」
賄いを食べながら、一番弟子のパコ氏が悪態をつく。
「うっさい、黙って食べろ。内臓の煮込みだって臭うだろうがよ」
「そんなこと言ったって親方! 臭いが料理の邪魔になって仕方ないっスよ!」
「臭いくれェで自分の料理が出来ねェくらいなら、料理人やめっちまえ」
「……大店の気まぐれで振り回されちゃかなわねェんだよな。こちとらあそびじゃねェんだ」
「おい、パキト。なんか言ったか?」
「……」
二番弟子のぺぺ氏、末弟子のパキト氏も撃沈。てか、ペドロさんが庇ってくれるのは嬉しいけど、このギスギス感はどうなの。
「あーロドリゴ、気にすんな。ウチはいっつもこんな感じだからよ。職人の世界てなァ、ズバッと言ってやらねェとなんねェんだ。まぁまぁね、とかよく出来ました、じゃあ通用しねェんだ」
「はぁ」
なるほどな。なんかわかる気がする。うちの親父も兄貴もそういうタイプだった。そして思い返せば、昔の取引先の部品工場なんかも。職人芸ってのは、愛想とかそういうのを超えたプライドが支えてるところがあるよな。
「お前ェらはまだまだひよっ子だ。俺の料理をしっかり盗んで、舌に叩っ込まなきゃなんねェ。だがな、いつまでも同じ技に囚われてちゃあそこまでだ。新しい味を探求してこそ、一人前っつうモンだろ」
「「「……」」」
三人はまだなにか言いたそうだ。しかし、その先を言わせないペドロさんの雰囲気に呑まれ、黙ったまま賄いを口に運んでいた。なにこの昭和の熱血先生みたいな流れ。ドラマならいいが、その場に居合わせると非常にいたたまれない。
「ふむ。そろそろ頃合いか」
そうして夕方、そろそろ寮に帰らないといけないんだが、ようやく豚骨が仕上がってきた。骨髄がスープに溶け込んでいい感じだ。
「そうそう。パスタはこう、まっすぐになるように麺線を整えてもらって」
「麺線」
今回、俺は二種類のパスタを用意してもらった。一つ目は、チキンスープに合わせるための細麺。昨夜と同じスパゲッティーニだ。そしてもう一つは、豚骨用に中太麺。手打ちパスタを事前に手揉みして、縮れ麺風に。それぞれ塩で味を調整したスープを掛け、
「そしていよいよ、チャーシュートッピングです!」
今回用意したのは、糸で丸く整形したもの、塩だれで煮たもの、オーブンで焼いたもの。丸いやつは下茹で中心のトロトロのやつ、塩だれで煮たのは赤身中心の固めのヤツ。そしてオーブン焼きは、この辺りで一般的に食べられているローストポークだ。これらを適宜スライスして、麺の上に乗せる。
「チキンの方は昨日作ったのと大差ねェ感じだが、本当にローストポークと合うのか?」
「多分赤身の薄切りのヤツと合うと思いますね。それよりこっちです」
独特の臭気を纏う、コッテリ脂の浮いたスープ。豚骨と一緒に煮出す香味野菜は、青ネギと生姜をメインにしてもらった。コイツにトロトロチャーシューが合わないわけがない。
「フハッ、これぞチャーシューメン……いただきまーす!」
ズゾゾゾッ!
2026.05.28
長い間コメントに返信が行き届かず、大変申し訳ございません。
この度、全てのコメントに対してお返事をお返しすることを断念いたしました。
皆様には大変不義理を致しまして、心からお詫び申し上げます。
連載も途切れ途切れ、Xもずっとお休みで大変申し訳ございませんが、限られたリソースを出来るだけ執筆に回すことで皆さまのご厚情に報いることができればと存じます。
いつもありがとうございます。




