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社畜に異世界は生ぬるい〜奉公から始まる楽勝平民ライフ  作者: 明和里苳


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第48話 調理中

 寸胴の中でグツグツ煮えるスープ。オーブンで焼かれるローストポークタイプのチャーシュー。なにが言いたいかというと、やることがない。夜の仕込みをするペドロさんと雑談をしながら、俺は厨房の中を見回す。


 ペドロさんを含め、この店の料理人は全員土属性だ。彼らは総じて職人気質で、高い器用さと集中力を誇る。第三の目()を通してみると、体を覆うオーラが目、耳、鼻、手元に集まってほんのり輝いていて、手元の皿や鍋に注がれている。彼らがいかに五感を働かせて料理に取り組んでいるかがわかる。


 これは実家の父や兄も同じだった。彼らは家具職人として、一日中ずーっと飽きもせずにノコギリを引いたり、ヤスリをかけたり、ノミで削ったりしていた。同じ姿勢で体が痛くならないんだろうか、手が痛くならないんだろうかとか不思議だったが、こうして土属性のオーラを見るとなるほどな、と思う。


 俺には真似はできないだろうな。風の魔力と他の魔力との性質の違いは、「チャーシューメン」のくだりで身に染みた。風の魔力で回転撃を繰り出そうとしても、ふわりと軽くなるばかりでうまくいかなかった。試しに彼らと同じように耳や鼻に意識を持っていくと、感覚が集中するどころか拡散というか、広く周りの音や匂いを拾いにいく感じがする。


 彼らはよく俺たち風属性のことを緑頭ミドリアタマと呼ぶが、これは風属性に対する蔑称だ。落ち着きがなく集中力に欠ける風属性のことを、彼らは軽く見ている。いや、土属性の自分たちが、火や水などの属性と比べて地味で目立たないことに対するコンプレックスを、同じように不遇とされている風属性にぶつけているだけなのかもしれない。そして主に彼らの作ったもので莫大な利益を上げる俺たちに対して、ズルいというやっかみもあるだろう。


「んでよぉ、その『ピオの綿雲』ってヤツなんだが」


「ああ、『黄金のプロスペロ』の時にも説明しましたが、風をこう細ーく出すんですよ」


 ガラスのコップに入った水に、細い風を噴射する。我ながら上手に視覚化できていると思う。この方法を、寮の厨房でああだこうだやってる時に思いつけばよかった。しかしまだまだ透明なガラスが高級品なこの世界、一般家庭にガラスのコップなんて置いてない。ここが一流レストランだからこそだ。


 あまりに有用性に欠けるため、ほとんど誰にも知られていない生活魔法ウィンド。日常的に使われている生活魔法のライト、ファイア、ウォーターと違い、手から風を出す感覚に慣れないペドロさん。わかるよ。俺も風属性のくせに、ついこの間まで知らなかったしな。


 だが、手から風を出す感覚を掴んだ後は早かった。さすが器用さと集中力の土属性。「おっ」「こうか?」とか言いながら、俺よりもずっと細い風を何本も操っている。


「ふむ、やっぱな。出せることは出せるが、どうも風の加護持ちほどの力は出ねぇ」


「精度はペドロさんの方が格段に上なんですけどねぇ」


「一皿一皿の仕上げには使えるだろうが、大量の生地を一気に泡立てるってのは無理そうだなァ」


 そう。生活魔法は自分の属性でなくとも使える、いわばお試し版みたいな魔法だ。しかし例えば火属性の者がファイアを使うとき、もっと魔力を込めれば他属性の者よりも大きな炎を出すことができる。水属性がウォーターを使うときも同じだ。ソースはエルマノスのサバスさんとスサニタさん。俺がエアーダスターやハンディクリーナーのパワーアップを果たしたのも同じ理屈。


「親方ァ。その緑頭の変なスキルより、やっぱ身体強化使ったほうが早いですって」


「こらお前、客人に向かって緑頭とか言うな!」


 相変わらずお弟子さんからの風当たりは強い。チャーシューメン完成への道のりは険しい。

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