第47話 試作
「んで? 肉を糸で縛って、どうすんだ?」
「茹でるんだったかな……いや、焼くんだったっけ」
ラーメンを作っている様子は、動画で見たことがある気がする。だけど詳しい作り方までわからない。そういえば、一度角煮に挑戦して挫折したことがあったな。材料費と光熱費、そして難易度を考えれば買った方が断然安い。チャーシューなんてそれよりもっと難しいに決まってる。
厨房の一角で豚骨を煮ながら、俺はあやふやな記憶と共にペドロさんとチャーシュー作りに励んでいた。とにかく肉塊を薄切りにしたもので、というところまでは理解してもらえたが、どうせなら俺の好きなトロットロの丸い形のヤツがいい。それならいくつか試作してみるか、ということで、いくつかのバージョンを用意しているところ。
なお、こっちではまだ味噌も醤油も見つかっていないので、味付けは塩一本だ。スープは豚骨と鶏ガラの二種類。鶏ガラはペドロさんの店で毎日スープストックを作っていると聞いて、それを少し分けていただく。
「トロトロってんなら、それなりに長時間煮込まなきゃならねぇだろうな。逆に脂分の少ないチャーシュなら、オーブンで焼けばいいだろ」
「さすが宮廷料理人。やはり素人では、夢で見ただけの料理を再現するのは難しいです」
「そりゃまあなぁ。俺らはこれでメシ食ってんだからよ!」
ちょいちょいヨイショを挟むのを忘れない。ペドロさんがダンゴムシになったら、このプロジェクトは即座に頓挫するのだ。一度退化すると、人間に戻すまでかなりの手間と時間がかかることを、俺は昨夜身をもって知った。
しかし問題は、それだけではなかった。
「――ちょっと親方、いいっスか。その豚の臭い、こっちまで来るんですが」
「っあー、悪ィ。こっちの窓は全開にしてんだけどよ」
豚骨は臭う。その臭いがまたいいんだが、レストランにはそぐわないかもしれない。特にランチ営業は、お弟子さんたちの戦場だ。席まで充満したら、邪魔になるかもしれん。
「ロドリゴ。コイツが炊き上がるまで、あとどんくらいだ?」
「ええと、確か四刻(八時間)くらいだったかな」
取り掛かったのがだいたい八時半、一度下茹でしてから炊き始めたのが九時半くらい。出来上がるのは十七時半くらいの計算だ。
「夜営業にはなんとか間に合いそうだな」
「すみません」
「いや、材料費や監修料はペラモスの大旦那にもらってる。試作も食べられるし、アイデアも参考にできるし、こっちとしてはありがたいんだが」
「そう言っていただけると……」
だがお弟子さんたちは、そうは思っていない様子だ。厨房の向こうからは、鋭い視線と「一体いつまであのお遊びをやるつもりだ?」という小声が聞こえてくる。仕方ない、初手でちょっと失敗した気もするし、そもそも風属性の商人は土属性の職人からの心象がよろしくない。緑頭なんていう蔑称があるくらいだからな。
「……なんか、教育不足で悪ィな。うちの弟子たちも、頑固なのが多くてな」
「大丈夫です。うちの父や兄も同じような感じですので、慣れてます」
「まったく、ペラモスの大旦那もロドリゴも客人だってのに、アイツらわかってんのかね……」
ペドロさんのボヤキを聞きながら、俺は味見と改良に意識を向けた。




