第50話 試作品第一号
おおおお! これこれ。豚の味がガツンとくる濃厚な風味と食べ応え。敢えて麺の茹で時間を短めにしてもらって、プリプリに仕上がってるのもいい。パスタではゴワゴワ食感までは再現できなさそうだが、これはこれで……!
「……おい、ロドリゴ。どうなんだ、出来栄えは?」
「もっもっ……ペドロさんすごいっス……! インスパイアの孫請けって感じ!」
「あ? インス?」
「そんなことより食べてみてください!」
素人の俺が食レポするより、直接食べてみたほうがいいだろう。ペドロさんと三名の弟子は、脂ギトギトの豚の沼を目の前にして慄いているが、大丈夫。ちょっと底なしなだけだから。
「じゃあまあ一口……お前らも、ホラ」
「ウェッ……」
「臭いんだけど……」
「仕方ねェ……」
「なああんだこりゃあ!! こんッッな美味ェモンが身近にあったとはああ!!」
「豚の脂、肉、臭気までもッ!! すべてがクリーミィ……!!」
「にぐッ!! にぐだァァ!! 柔いのから固ぇのまで、ンゴッ」
「ハフハフッ、ズルズルズルッ!!」
やっべ、厨房の四人が全員覚醒した。土属性の彼らの黄色いオーラが背後で爆発して、スーパーナントカ人みたいになってる。髪は逆立っていないが。
「コレだ! 俺が求めていたガツンとくる新しい味は!! ロドリゴ、今日からコイツがウチの看板料理だ!!」
「はっ?」
「済まなかった、緑頭! どうせ小狡い商人から寄越された頭の悪いガキだろうと思ってたが、こんなぶっ飛んだアイデアを思い描いてやがったとは!!」
「仕事の邪魔してクッセェ臭い撒き散らしやがって、なんて思ってたがよ! お前マジ天才だな!!」
「最初泥を撒き散らした時にはブッ飛ばしてやろうかと思ったけどな!!」
おいおいお前ら、着せようぜ歯に衣。そしてそうこうしているうちに、裏口のドアが開いた。
「お疲れ様ですオーナー。この臭いは?」
「ははぁ。昨夜ペラモスの先代から依頼された料理がこちらですか」
「そうだぞティモテオ! コイツは今日からウチの看板料理だ。な、ロドリゴ?」
「うぇっ?」
おいちょっと待って。この街一番のレストランが、豚骨ラーメン屋になっていいのか。
「ふむ、なんとも斬新なスープですな。オーナーの意気込みもわかります。しかし今日のお客様全員の分には、いささか足りないのでは?」
「お、おう」
「しかも今夜は領主様のお嬢様が里帰りでお越しになる日。ポルセル鹿を楽しみになさっていたのではありませんかな?」
「そう、だなァ」
だんだんトーンダウンしていくペドロさん。そういや朝から鹿肉を仕込んでたもんな。てか、このティモテオさんって昨日給仕してくれたおじさんだ。さっきラーメンの仕込みをしながら、ここのホールスタッフは商業ギルドからの派遣で賄っていると聞いたが、オーナーのペドロさんを易々と説き伏せられるのも、外部スタッフだからかもしれない。てか、ここの弟子たちは風属性嫌い過ぎて、直接雇用はトラブルになるだろう。賢明な選択だ。
「しかしそうですな。オーナーのようなお方がそこまでおっしゃるのでしたら、口直しに少量のスープをお付けしてみるのも良いかもしれません。お客様によって好みがあるでしょうから、チキンと新作で選べるようにお出ししてみては?」
「なるほどなァ。じゃあそれでいくか……」
今夜のディナーコースの方針が決まったところで、俺はおさらばだ。なおお弟子さんたちは、居残りで夜の部の仕事に突入。昼休憩が長いとはいえ、早朝から夜遅くまでお疲れ様。労働基準法万歳。
「ハフッ、こっちのチキンは普通だな。美味いけどよ」
「そうですかパコさん? 俺はこっちのほうが好きだな」
「なんたってこの肉がスゲェっス」
前言撤回。もうすぐ客が入るのに、お前らまだ食ってんのかよ。
「しかし、それが昨晩おっしゃっていた『プラシドの栄光』とは。私の想像とかけ離れておりました。少々粗野な香りが致しますが、皆様が美味しそうに召し上がるのを拝見すると、私もご相伴に与りたくなりますな」
「いいぜティモテオ。客に出すんだ、試食しといてくれ。――んじゃロドリゴ、お疲れさん。コイツはこっちでレシピにまとめて大旦那に出しとくからよ。後の手続きはペラモスで頼むって、ロドリゴからも伝えといてくれや」
「えっ、いいんですか孫請けで?」
「はっ?」
いやいや。確かに、ラーメンを見たこともない人間が初見でここまで似たものを作れるのは、すごいことだと思うけど。なんつーか、依然としてうどんとフォー、洋風カレーとタイカレーみたいなコレジャナイ感がある。
「うーん、やっぱ『似てるけど違う』っていうか……」
「「「なんだと!」」」
「うまーいッッッ!! なんだこれはァァ!!」
料理人たちとティモテオさんの絶叫の中、俺は次の週もペドロさんの店に派遣されることが決まった。




