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社畜に異世界は生ぬるい〜奉公から始まる楽勝平民ライフ  作者: 明和里苳


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第45話 出向

 一夜明けて翌朝。


「いいなああ! お前だけ美味いモンにありつけてよ!」


「そうだそうだ! ゴマミソタンタンを流行らせたのはプリィだっつの!」


 食堂でプリニオとポンシオに絡まれる。昨日は夕方急に呼び出され、帰りは遅かった。いい服を着せられて大旦那様に美味しいものをご馳走になった俺を、孤児院組はしつこく妬む。いや、上司の接待なんてそんないいもんじゃない。いくら奢りでも御免だ。


「ふふっ、うんざりした顔だね。ペドロはあれで面倒な男だからね」


「まったく、面倒なんてもんじゃなかったですよ……」


 ペピト、知ってたんなら先に教えといてくれよ。オッサン二人に削られたMP(メンタル)は、一晩寝たくらいじゃ回復しきれん。


「ほれアンタたち、さっさと食べて仕事だよ。大旦那様の言いつけじゃ、仕方ないじゃないか」


「試作ならここの食堂ですればいいじゃねぇか!」


「そしたら俺たちだっておこぼれをもらえるじゃん!」


「ここには複雑な料理を作るような設備はねェんだって。試作で厨房を使われんのもウンザリだし、俺らとしちゃ願ったり叶ったりだな」


 ペトロナさんとパウリノさんが孤児院組をいなし、上手い具合に食堂から追い出してくれる。それはありがたいのだが。


「ロドリゴ、厨房の料理人ってなァ、気難しいヤツが多いモンだ。まぁしっかりやれよ?」


「はい……」


 俺はもそもそと硬いパンを齧り、水で流し込んだ。




「おはようございます! ペラモス家具店から参りました、ロドリゴと申します! 今日からよろしくお願いします!」


 指定の時間に、ペドロさんのお店の裏口を叩く。挨拶は最初が肝心だ。持てる力を爽やかな笑顔に全振りして、いざ出陣。


 しかし。


「「「……」」」


 厨房の中は、すでに料理人たちが下ごしらえに取り掛かっていた。そして誰一人、俺に返事する者はいない。


「あのう、お忙しいところ失礼いたします! 今日からお世話になります、ロドリゴと」


「ええい、やかましいガキだ。ただでさえ忙しいってのに、お前なんかに構ってられるか。おい、パキト。適当に相手してやれ」


「ええ……俺も忙しいんスけど。……家具屋の奉公人がなにしに来たのか知んねぇけど、せいぜい邪魔しねェで見とけよな」


「はぁ……」


 あれっ。俺、めちゃくちゃ歓迎されてない感じ? 確かに大旦那様が無理やり捩じ込んだ感はあったけど、あの場ではペドロさんもノリノリで了承してたと思ったんだがな。まあ大旦那様はお得意様だ、社交辞令ってやつだろう。だが、俺はここでチャーシューメンを完成させなければならない。いっそ適当ぶっこいて、ペドロさんが作ったそれっぽいものをチャーシューメンと言ってレシピを提出してしまおうか。しかしそれでは、チャーシューメンに対する冒涜だしな。やはりチャーシューにはロマンがある。


「……お前。さっきからブツブツうっせぇけど、邪魔するんだったら出て行ってくんねぇかな」


「おいパキト、手ェ止まってんぞ! 皮剥きあと二箱、さっさとやれよ!」


「わかってますよ! まったく、オーナーもこんなチビの面倒を押し付けてくるなんて……」


「ああそのガキ、なんかオーナーがパルラモンのボンボンに呼び出されて、菓子を発明した時のナントカってヤツだったか。へっ、どうせそんなのペドロさんが全部やったに決まってんだろ?」


緑頭ミドリアタマは黙ってお行儀よく突っ立ってることもできねぇのか?」


「やっぱ商売人連中はダメだな。職人技なんて理解できるはずがねェ」


 うーん。独り言を漏らしただけでこの言われよう。まあ確かに忙しそうではあるけども、この時間に来るように指定したのはそのペドロさんだぞ。


「えっと、私にもなにかできることはありますでしょうか」


「おいおい。お前みたいな素人のチビに、大事な食材を触らせられると思ってんのか?」


「あー、なら野菜の泥落としはどうだ。水遊びくらいはできるだろ。な、坊ちゃん?」


「……」


 一番下っ端と思われるパキトという少年が、足元の木箱を指差す。彼が皮剥きを命じられた野菜たちだ。彼の手は、冷たい水で赤くなっている。水仕事が辛いのは俺にもわかる。


 まあいい。どうせ黙って立ってるのも暇なんだ。ここに出向していなければ、掃除か洗濯で俺も水仕事をしていたところだ。このくらいの野菜の泥を落とすくらい――


「エアーダスター」


 ヒュゴオオオ。

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