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社畜に異世界は生ぬるい〜奉公から始まる楽勝平民ライフ  作者: 明和里苳


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第39話 胡麻味噌坦々

 チャーシューメンと胡麻味噌坦々に励むこと数日。


「胡麻味噌……坦々!」


 ヒョヒョン!


「チッ、俺も負けてらんねぇぜ。それっ、ゴマミソォ、タンターン!」


 ヒョヒョン!


 俺とプリニオは、箒を逆に持って素早く振る。うん、最初よりもだいぶん様になってきた。右上から袈裟懸け、からの左下から斬り上げ。両方とも軸がブレることなく、均等に振れてると思う。


「ちょっ、プリ兄ィまでゴマミソとかキモいってぇ」


「うるせえポンシオ! キモくたってなァ、これで二連撃をマスターしたらめっけもんだろ!」


 ついに一枚岩だった孤児院ペアが割れた。強さのためなら多少のキモさも厭わないプリニオに、あくまで男のロマンにこだわるポンシオ。てか胡麻味噌坦々はキモくねぇ。奥深き香りとコクでDOGEZAさせてやんぞ。


「それにしても、奇妙な掛け声と見よう見まねでスキルを会得してしまうなんてね」


 そして、胡麻味噌坦々を会得したのは俺たちだけじゃない。横で見ていたペピトもちゃっかり覚えて、軽やかにはたきを振っている。彼は戦闘職に興味がなかったようだが、目の前で棒切れを振り回されれば、自分だって振ってみたくなるものだ。


「ふん。そんなキモいゴマミソが、二連撃なわけねェだろ。ギルドで刻印してもらったわけでもねぇんだし」


「だけどポンシオ、考えてもみなよ。ギルドで刻印が刻まれるようになったのは、そんなに昔じゃないだろ。それより前は、刻印なんかなくともスキルを使えたはずだよ?」


「そんなこと言ったってよぉ、そのゴマミソナントカがちゃんと二連撃になってるかどうかなんて、俺らにはわかんねぇだろ!」


 確かに、ポンシオの言うことも一理ある。コンビニのシャケおにぎりと昆布おにぎり、外見は同じでも全然味が違う。オーラの動きと所作だけを真似しても、プロが見ればまったくの別物かもしれない。


「それはまあ、そうかもしれないけど」


「じゃあ今度、サバス兄ィに見てもらおうぜ。てか、刻印を買うにも金が要るしよ、俺はゴマミソが強けりゃなんでもいいぜ!」


 ヤバい。俺の胡麻味噌坦々が、ゴマミソで定着しつつある。




「いらっしゃいませ、胡麻味噌でお馴染みパロマ青果店はこちらです!」


「ロドリゴ、ゴマミソってなんだい」


 しまった。最近胡麻味噌に没頭しすぎて、呼び込みでトチった。今日のバイトももうすぐ店じまい、ちょっと気が緩んだかもしれない。


「あっえっと、最近新しいレシピに挑戦しようと考えてまして……」


「ああ、調味料を探してるって言ってたね。はい、銅貨三枚、おつりだよ」


 パロマさんがお客さんを相手しながら相槌を打つ。これで今日の果物も売り切れ、店じまいだ。バイト後にはペラモス商店に帰る前に市場を覗いて、味噌や山椒を探そうと思っている。


「アタシも市場は長いけど、豆を腐らせた調味料なんて聞いたことないねぇ」


「やっぱり、もっと大きい街の市場に行かないとダメでしょうか……」


 剣と魔法の世界に転生した日本人が、必ずブチ当たる課題。それは、味噌と醤油問題だ。あとは米に海苔に鰹節、それから風呂と水洗トイレと多機能便座。日本人の業の深さを思い知る。


 なお、このポルセルの街の中心部には側溝が張り巡らされていて、それが下水の役割を果たしている。なので、ペラモス商店を含む一等地の商店や邸宅は、悪臭に悩まされることがなく清潔そのもの。俺の実家の下町なんかは、汲み取り式の共同トイレだった。前世を思い出すのが奉公の前日で本当によかった。生まれてからこの方、あのトイレで問題なく過ごしてこられたのが信じられない。前世を思い出すのも良し悪しだ。


 思考が逸れた。


 というわけで、この世界に前世と同等の文化レベルを求めてはならない。物流などなおさらだ。味噌に醤油、それらが手に入るのは一体いつになるのか。当面の間は、それらを抜きにして似た味を追求しなければなるまい。ここでも新たな戦いが始まろうとしていた。男の人生は、戦いの連続なのだ。

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