第38話 チャーシューメン
結局その日は、森の浅いところを歩くだけで終わった。仕留めた獲物も、ウサギが五羽のみ。しかし、入り口の草むらと違い、森の中にはもっと貴重な薬草がいっぱい生えていた。休憩時間に少し採集しただけで、ギルドのカウンターではこれまでの四倍くらいの値がついた。
「ありがとう、寄付してくれて助かるよ」
「それじゃあロドリゴ、ちゃんと素振りしときなさいよ〜!」
「くそッ、次はスサ姉にくっつくんじゃねェぞ!」
薬草代について、ちゃんとお礼してくれたのはセベリノさんだけ。だがいいのだ、薬草代よりも貴重な経験をした。興味がなかった戦闘スキル、俺も習ってみてもいいかもしれない。
「チャー、シュー、メーン!」
ブオン。
下半身にエネルギーを集め、箒を振り抜く。大丈夫、もう掃き掃除は済んでいる。多少土埃が舞い上がるくらいは、ご愛嬌だ。
「ご愛嬌じゃねぇよ! せっかく掃いたのに!」
「なんだよチャーシューメーンって。キモッ」
プリニオとポンシオ、安定のツッコミ。もはやこれがないと物足りないまである。しかしチャーシューメンを冒涜するのはいただけないな。いつか開発した暁には、ポンシオにだけは食わせないと心に決めた。
「棍術の真似事かい。スサニタさんが喜びそうだね」
「棒状のものなら武器になるっていうのは心強いですよね!」
ビジネスパートナーのペピトだけは、俺の試みに多少の理解を示す。そうだ。商売っていうのは、どのアイデアが突破口になるのかわからないもの。現に俺は、素振りの真似事からチャーシューメンを思い出したところだ。ヤバいな、また儲かってしまう。
「へっ、棍術なんてダッセェぜ。やっぱ男は剣でもってよう――強撃!」
ヒョン!
プリニオが箒を逆に持って、柄の部分を剣に見立てて振り下ろす。すると箒は、小気味良い風切り音を立てる。力一杯振り回したのとは違う、明らかにスキルを使いましたって感じ。
だけど悲しいかな、彼の強撃にはサバスさんやセベリノさんのような力強さがない。エネルギーを下半身に集め、全身をバネのようにして剣に乗せる流れはうまくいってるんだが、なんというか重さが足りないのだ。
これは自分で箒を振るいながら、薄々気づいていた。スサニタさんの動きと生命力の流れを真似てはいるものの、あの下半身を重くして踏ん張る感じがまったく再現できない。それどころか、自分の生命力を下に集めれば集めるほど、足元がふわふわと軽くなる感覚まである。
どうもこれは、風属性の魔力(=生命力)の性質のようだ。土や水みたいにずっしり下半身を固定するんじゃなく、火のように力を爆発させるんじゃなく。俺たちの加護は、軽さが持ち味なんだから仕方ない。
「ううむ、チャーシューメンではダメか……」
「ちょっおまっ、俺の強撃を見た感想がそれか?!」
「だからチャーシューメンってなんだよ!」
風属性の俺では、力強さを真似るのは無理だ。だがこの軽さを活かして、素早い攻撃なら真似できるかもしれない。サバスさんのあの二連撃とかどうだろう。リズムは――そう。
「胡麻味噌……担々!」
ヒョヒョン!
「はぁ?! お前、それ二連撃?!」
「てかゴマミソタンタンってキモッ!」
「キモくねェし!!」
「ちょっとアンタら、なに騒いでんだい! 掃除が終わったんならさっさと勉強部屋へお行き!」
俺が必殺技を編み出した瞬間。それはペトロナさんにどやされ、感動はかき消された。そしてポンシオ、お前には絶対に胡麻味噌担々を食わせてやらない。




