第37話 出会った
「来たぞ! セベリノ、右だ!」
「引き受けた。強撃!」
「あたしは左よ。回転打!」
「うおお、食らえ! 二連撃!」
ある日、森の中。ウサギさんに出会った。だがウサギはウサギでも、ツノの生えたウサギだ。うおー、ファンタジーによくあるヤツ。テンション上がる! エルマノスの皆さんは手際良く役割分担し、あっという間に三羽のホーンラビットを狩ってしまった。
「ふおお! ふおおお!!」
「おいロドリゴ、前に出るなと言ったろう!」
「だってすごいですよ! 色違いになると睡眠魔法かけてくるヤツ!」
「ちょっと、この森にそんな危ない魔物は出ないわよ?」
「どこで聞いたんだ、そんなガセネタ」
仕留めた魔物を早速血抜きしながら、セベリノさんからお小言をもらう。そしてこの森には、色違いのホーンラビットはいないようだ。残念。
「まあ気持ちはわかるけどな。やっぱサバス兄ィはカッケェぜ!」
「槍の方が遠くの敵に当たるじゃん! やっぱ俺、槍にしようかな……」
サバスさん推しのプリニオと、セベリノさん推しのポンシオ。二人とも奉公で得た小遣い銭を貯めて、剣を買うのを目標にしている。ポンシオは槍と迷い中。二人とも今はナイフ装備で、血抜きに参加中だ。
「二人とも、最初は剣にしとけ。剣術スキルはナイフでも使えるし、衛兵試験にも剣術の実技があるからな」
「はっ、男ってこれだから。最初っから剣なんて高いものに手を出さなくても、まずは棍術になさいって言ってるでしょ?」
「いや、そうは言うけどなぁ……」
「スサ姉の仕留めたウサギ、売り物になんねぇじゃん……」
そうなのだ。エルマノスの三人が仕留めた魔物のうち、左のウサギだけが無惨に叩き潰されて「見せられないよ!」状態に。
「なによ。皮は綺麗に剥げばなんとかなるし、肉は売らずに孤児院で食べるでしょ?」
「やだよスサ姉。砕けた骨の混じったスープ、美味くねェんだって」
「うるさい。つべこべ言わず感謝して食べる!」
和気藹々とウサギを解体するエルマノスと孤児院組。なるほど、打撃で仕留めた獲物は中身が損傷して、食用に卸すには問題があるらしい。
しかしそれよりも、彼女の打撃技だ。全身の生命力が足腰に集まり、全身でメイスを振り抜いていた。まるでゴルフのティーショットのようだ。あんなので打ち抜かれたら、ウサギはおろか狼や熊だってひとたまりもないだろう。
そう。ホーンラビットの実物よりも、俺が最も興奮したのはそこだ。彼らが放つ武術スキルを生で見られたのは、途方もない収穫だった。以前魔力循環について相談した時、彼らは足裏から力を巡らせるとか、尻を引き締めるだとか言っていた。それが、第三の目()を通してはっきり視認できたわけだ。
セベリノさんが腰を落として構えたとき、確かに足元から黄色い光がのぼってきた。黄色は土属性のオーラだ。地面からなんらかの加護を吸い上げて、パワーに変換しているらしい。それから、尻を締めると言っていたサバスさん。彼は全身の赤いオーラが一旦骨盤に集まり、それが二度、ボンと爆発するように全身に巡っていくのが見えた。
三人に共通するのは、彼らの生命力がすべて下半身に集まっていたことだ。上半身は支えるだけ。そして上半身を支えるために、臍の奥にも光が灯る。なるほど、生命力循環に臍を意識するというのは、あながちガセネタじゃなかったんだ。
「なるほど……基本は下半身なわけですね」
「あらっ。ロドリゴ、わかってるじゃない。そうよ、遠心力を利用してこうっ、ね?」
「おいロドリゴ、スサ姉にベタベタすんな!」
「ちょっとサバス、あんたは解体に集中しなさいよ! せっかくロドリゴが棍術の良さに目覚めたんだから」
「スサ姉。ロドリゴは風の加護持ちだから、重い武器は向かないんじゃ……」
「そんなの、鍛えればどうってことないわ! いい? 棍術は極めればその辺の棒っきれでも戦えるのよ。剣だの槍だのにうつつを抜かすより、絶対棍術がいいわ!」
「あ、はい」
ヤバい。俺は踏んではいけないスイッチを踏んでしまったらしい。そういえば実家において、母が箒を持って仁王立ちしていた時には、父は黙って小さくなっていた。こないだ修道院から帰省した姉も、兄のイタズラに同じ威圧を放っていたような。あれは気のせいじゃなかったんだ。彼女らには、熊を叩きのめせるだけの戦闘力がある。
俺はその後、ニッコニコのスサニタさんの隣で、木の枝を振り振り森を歩くことになったのだった。




