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社畜に異世界は生ぬるい〜奉公から始まる楽勝平民ライフ  作者: 明和里苳


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第29話 薬草ハンター

 草むらを掻き分けて半刻(一時間)。小ぶりのバスケットが一杯になって、俺はようやく我に返った。そうだ、ここはみんなの森。採り過ぎはよくない。必要部位だけ採取して、株を枯らさないように心がけてはいるが、他の冒険者や子供たちのために残しておかなければ。


「やっと落ち着いたかい」


「あ、えへへ」


 ペピトが呆れて腕を組んでいる。俺が猛烈に薬草を摘んだせいで、彼の出る幕がなかったようだ。今日の分は十分に確保できた。後は休憩でいいだろう。


 それにしても、この世界の色鮮やかなことだ。普通にしていればなんの変哲もない草むらなのに、眉間に意識を向けた途端にあらゆるものが光を帯びる。街の中だとこうはいかない。石壁や木の床なんかと違い、全てのものが生きてるって感じがする。


 パロマ青果店では、生命力の強い果物の方が強く光って見えた。その法則が、まさかここで活かされるとは。しかも、強い光を放つのが薬草とか。いや、逆に考えたら当然か。傷を癒やす力のある草が、他の植物よりも生命力が少ないのはおかしい気がする。


 草だけじゃない。森の木々も、光の強いのと弱いのがある。よく見ると、地面もそうだ。黄緑の光点が集まる場所、言い換えれば薬草が群生している部分は、草を掻き分けると地面自身が光っている場合がある。傷薬の薬草がよく生えている場所はうっすらと黄色く、毒消しが茂るところは水色っぽい。土地の魔力というか生命力が、植生に影響を与えているのかもしれない。


「ふふっ。急に薬草摘みに夢中になるなんて、まるでなにか見えてるようじゃないか」


「へ? あ、ああ、あの、薬草摘みの楽しさに目覚めたといいますか……」


 あれからペピトが頻繁にニチャついてくる。元々、さっぱり爽やかというより腹黒そうなヤツだったが、そのいやらしい嗤い方やめろ。せっかくの感動が台無しだ。


「俺、薬草摘みで生きていけるかもしれないです」


「なるほど、奉公後の進路かい?」


「こんなチョロ……楽しいなら、きっと続けられるかと」


「ふぅん。それは僕としても都合がいいかな」


 そういえば彼は、神殿に管理される前に薬草が確保できるルートが欲しいとか言ってたっけ。そうだな。この第三の目(仮)があれば、森の入り口で日銭を稼ぐだけでなく、指名依頼で珍しい薬草をゲットする薬草ハンターとして大金を得られるかもしれない。そうすればあっという間に大金持ち、からのアーリーリタイアコース。あると思います。


 というわけで、残りの時間は薬草を摘むことをやめ、観察に回すことにした。草だけじゃなく、地面にも魔力の濃淡があることだし、ということは虫にも固有の魔力があるかもしれない。さっきからいっぱい目に入っていたはずが、意識を向けないと見えないものだな。注意深く観察すれば、うっすらと魔力を纏っているような。一目見てはっきりオーラが認識できるほどの力は、持ち合わせていないようだ。


 そうして草を掻き分け掻き分け、この草は薬草ほどじゃないけど結構パワーあるなとか、逆に全然オーラねぇなとか、魔眼全開でジリジリと周りを観察していたところ。


「おっ」


 めっちゃ水色に光る地面がある。なんだここ、新種のパワースポットか? ウヒョッ、お宝発見!


 クチャァ。


 しかしそのパワースポットはグニャリと形を変え、俺の指にまとわりついた。そして呆気に取られている間に、指先がピリピリしてくる。これがハンドパワー……?


「ちょっとロドリゴ、なにやってんの!」


 俺の異変に気づいたペピトが慌てて飛んできて、木の枝でお宝を殴りつけた。するとお宝は急速に光を失い、地面に消え去った。


「もう、スライムを素手で触るなんて。馬鹿なのかい?!」


「えっ」


 お宝はスライムだった。ピリピリした指は、ハンドパワーではなくただれていた。うーん、酸が効く。

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