第27話 パロマ青果店
「えー、いらっしゃいませ、いらっしゃいませ! パロマの涙でお馴染み、パロマ青果店! パロマ青果店はこちらでございます!」
水曜日。いつものパロマさんのお店で絶賛バイト中だ。先日、商業ギルドでクレープシュゼットもどきをパロマの涙という名前で登録して以来、オレンジがバカ売れするようになった。そして、これまで全く化粧っ気のなかったパロマさんが口紅をさしてくるようになった。こういう変化、やっぱいいよね。
パロマさんは、早朝に果樹園から果物を仕入れ、重い荷車を引いて市場までやってくる。お昼近くになって、果物がほとんど捌けたら店じまい。気楽に見えるかもしれないが、ご主人を早くに亡くされてからずっと女手一つで頑張ってこられたとか。お子さんが独立してやっと楽になったわと言っていたが、仕事の後は普通に家事がある。以前は育児も内職もやってたっていうんだから、世の中のお母さんってすごい。
俺が奉公に出たあの日、パロマさんは俺の生まれた町ルバルカバに嫁いだ娘さんの家からの帰りだったそうだ。それがご縁でこうしてバイトさせてもらえてるんだから、なんとなく運命を感じる。
そしてこのバイト先でも、第三の目(仮)は役立った。仕入れた果物の生命力が見えるのだ。俺が見たところ、農作物はうっすらと黄緑の光を帯びている。人が纏う赤、黄、緑、青とは違うんだな。最初あの草原で第三の目(仮)が開花した時には、孤児院組やペピトにばかり気を取られていて気が付かなかった。もしかしたら、他の生物や場所には他の色のオーラが見えるのかもしれない。
その黄緑のオーラだが、果物によって若干の強弱がある。オーラの強いものを店頭に並べていると、パロマさんに褒められた。
「おやロドリゴ。あんたもそろそろ品の良し悪しがわかってきたみたいだね」
「あ、ありがとうございます!」
羊頭狗肉ではないが、やっぱりお客さんにアピールするなら活きのいい品物を全面に押し出すべきだろう。あ、もちろん売るときは良い品から出していくぞ。これはパロマさんの方針だ。そして最後は、元気のないおつとめ品が残るというわけ。これがバイド後におまけとして下げ渡される。もっとも、前回は一個も売れ残らなかった。パロマの涙効果で、あっという間に全商品売り切れてしまったためだ。
そして今日は、前回のラップタイムを更新した。開店後一刻(二時間)も経っていないのに、そろそろ店じまいだ。俺が店番をしている間にパロマさんの時間に余裕ができるという名目で始めたバイトなのに、忙しくてパロマさんは結局休憩に行けなかった。
二人してせっせと店じまいをしていると、背後から声がかかる。
「いらっしゃいませ、残念ながら本日はもう品切れでして――」
「よ、ロドリゴ」
「相変わらず精が出るわね」
「トマスさんにトリニダードさん!」
パロマさんは気を利かせてバイトを早上がりさせてくれた。しかも売れ残りが出なかったので、バイト代にちょっと色をつけてくれた。俺は仕事の途中で立ち寄ったトマスさんとトリニダードさんに誘われて、近くの屋台でジュースを奢ってもらった。
「あのパロマの涙ってのは美味いな。屋台でも食ってみたけどよ、こう素朴な感じでもイケるっつうか」
「あたしはカフェで食べたペネロペの薔薇ね。リンゴケーキなんて珍しくもないけど、あの果肉のギッチリ感が病みつきだわ」
「あは。お口に合ったのなら良かったです」
どちらもバイト終わりのおつとめ品をどうにかして甘味にして食べたかった俺の苦肉の策だったが、こうも面と向かって褒められると悪い気はしない。オレンジとリンゴのシーズンが終わったら、また新作を考えなければ。
――と、相槌を打ちながら思考を逸せていたところ。
「ところでこないだの魔力循環、アレは役に立ったかい?」
「そうそう。正規の依頼を受けて、アレだけしか教えてあげられなくて悪かったわね?」
「あっ、えっと」
いきなり彼らの纏う雰囲気が変わった。トマスさんの耳が緑色に光り、トリニダードさんに至っては右手の人差し指が紫色に変わっている。いや指だけじゃない、体全体のオーラが紫色に――あれっ、この人、風属性のはずじゃ?
「どうした、ロドリゴ。なんか不可解なことでもあったのか?」
「ふふっ、動揺しちゃって。アフターサービスよ、なんでも相談してごらんなさい?」
微妙に距離が近くなる二人。てか、トリニダードさんの指先が怪しく光ってる気がする。ヤバい。
「あのっ、あの後エルマノスさんに色々教えてもらったんですけどっ、結局なんにもわからなくてっ」
「ほう。なんか見えたって聞いたけど、気のせいだったのか?」
「は、はひっ。プリニオがそのっ、スキルを覚えたって、羨ましくてですねっ」
「うふふ。なぁに、動揺しちゃって。そうしてると普通の子供みたいよ?」
「えっと、なんか恥ずかしかったって言いますか……」
顔を覗き込んでくる二人と目を合わせちゃダメだ。特にトマスさんの耳とトリニダードさんの指を見ちゃダメだ。演じろ。無能な子供を演じるんだ。
「あっそうだ! あのっ、ウィンドが進化したんですよ!」
「えっ」
「こう、ストローみたいに細ーく出すとですね! シュッと!」
「進化、なのかしら」
俺が編み出した必殺エアダスターを披露すると、二人の関心がそっちに向かったらしい。トマスさんの耳の光が消え、トリニダードさんのオーラが緑色に戻った。よし!
「これでインクが早く乾きますよ!」
「お、おう」
「すごいわね」
嘘をついたり、なにかを隠蔽するのは難しい。しかし、得意分野ならばいくらでも語れる。これぞ陰キャの真髄だ。
「風量自体は変わらなくとも、運用次第では無限の可能性を感じます! 例えばこう、平らに噴出するとですね」
「わ、わかった。さすがペラモスの新星だな!」
「あら、私たちもう行かなきゃ。じゃあ、ロドリゴ。またね」
「あっ、ジュースご馳走様でした!」
慌てたように立ち去る二人。どうやら危機は回避されたようだ。




