第24話 エネルギー循環(2)
「ふぅん。職業による、か。興味深い話だね」
「あるいは、属性による説もあるかもです」
そう。今のところ、俺の中ではそれが一番有力だ。なんせ父と兄は土属性、足裏から力を回すセベリノさんも同じ。そして母と姉は、スサニタさんと同じ水属性だ。ただし、ヒーラーはみんな神殿関連施設で治癒術を学ぶ。スキルを教わる場所が同じなら、魔力の感じ方も似通ってしまうのかもしれない。師匠と弟子でもある父と兄も同様だ。そして、たまたまセベリノさんが足裏方式だっただけなのかもしれない。いずれにせよ、サンプルが少ないので推論の域は出ないが。
「ふふっ。結局のところ、君の魔力感知には当てはまらなかったわけだしね」
そうなんだよ。土と水は足裏と頭上かもしれないけど、じゃあ風属性はどうなんだって話だ。トマスさんとトリニダードさんが推奨した胸と臍は、空振りだったわけだし。
「てか、ペピトさんは気にならないんですか。魔力循環」
「まあ、焦っても仕方ないだろう。どうせ僕はもうすぐ学園で魔法を学ぶことになるし、回路が刻まれれば勝手にわかるようになるだろうしね」
「ぐぬぬ……」
じゃあ、大枚叩いて魔力循環の情報しか引き出せなかった俺は、完全な敗北ということか。
そんなこんなで午後、そろそろ引き上げの時間。合流した孤児院組は今日もウサギや小型の魔物を狩り、プリニオとポンシオはご機嫌だ。特にポンシオ。
「このウサギは俺が血抜きしたんだぜ!」
「ポンシオはなかなか筋がいいぞ」
セベリノさんに褒められて有頂天だ。衛兵は血抜きなんてしないんじゃ。てか、そう言えば聞いてなかったな。
「プリニオはもうスキルを覚えたそうですが、その力はどこから?」
「おっ、気になる? 俺はケツの穴だぜ!」
「け……えっ」
お前は一体なにを言っているんだ。
「ちょっとプリニオ、スサ姉の前で!」
「なんだよ。サバス兄ィが教えてくれたんだろ」
「えっとその、サバスさんもケツ穴から?」
「ロドリゴ! ケツ穴言うな!」
そしてなぜだかサバスさんが慌てている。スサニタさんに聞かれるとまずいことでもあるんだろうか。
「ふふっ、サバスは意外とシャイなのよね。小っちゃい頃はオムツだって替えてあげたのに」
「スサ姉、いつの話だよ!」
「意外に思うかもしれないけど、骨盤に意識を向ける冒険者も少なくないよ。俺も足裏から尻を締めて踏ん張る感覚があるし」
「そうそう、キュッと絞まる感じするよな!」
おお、これは有益な情報だ。火属性のサバスさん、風属性のプリニオ、土属性のセベリノさんが共通して感覚を得るところ。これはもしかして、武術系スキルを扱うのに重要なポイントかもしれん。確かに、尻を引き締めたらなんとなく力が入りそうなイメージがあるし、なによりいつでも練習できそうだ。
「ありがとうございます。お尻ならいつでも練習できそうです!」
「よかったわね。参考になったみたいじゃない?」
「お、おう……スサ姉が喜ぶならいいがよ……」
そっぽを向いて耳を赤くするサバスさんに、俺を除く全員から生温かい視線が送られる。思春期か。
――いや、ちょっと待て。尻、臍、心臓、頭上。ピンと来てしまった。
「これってチャクラじゃね?!」
「「「チャク……?」」」
そうだ。少年漫画かなにかで見たヤツだ。体にあるエネルギーセンターに接続して、いろんな技を使うっていう。なんだよ、この世界はチャクラシステム搭載か?!
「ふおおお、胸熱……ッ!! そうなれば、あとは第五チャクラと第六チャクラ!!」
「……ロドリゴ。変なキノコでも食ったのか?」
「年頃の男の子にはよくあることでしょ」
うるさい、俺はこの世界の真実に気付いたんだ。外野がなんか言ってるが気にしない。とりあえず第五チャクラの喉からか。
「あ、あーあーテステス。本日はお日柄もよく。アメンボ赤いなアイウエオ」
「どうしたロドリゴ。確かに天気は良かったけど」
「アメンボは赤くないぞ」
うーん、怒涛のツッコミしか返ってこない。ハズレか。ならばこれでどうだ……!
「魔観光撮砲!!」
「どうしたロドリゴ、頭が痛いのか」
「疲れたのか。おぶってやろうか?」
額に人差し指と中指を当てたところ、疲労による偏頭痛に見えたようだ。失敬な。
だが、見えたのは俺も同じだ――見える、見えるぞ。周りを取り囲む孤児院組にペピト、全員の体の表面にうっすらと光が見える。
「キタキタキター!! 第三の目、からのオーラ!!」
「セベリノ、おぶってやれ」
興奮冷めやらぬまま、俺はセベリノさんに背負われてポルセルまで帰還した。
「見えたんです! 本当です!」
「あーわかったから。体を拭いてさっさとお休み」
しかし悲しいかな、誰も俺の覚醒に耳を傾けなかった。エルマノスのメンバーには可哀想な目つきで「無理させちゃったかな」「来週末はお休みで」と言われ、プリニオとポンシオにはあからさまに気味悪がられ。ペラモス商店に戻った後も同様だ。パウリノさんにはさっさと飯を食えとどやされ、ペトロナさんに食堂から追い払われようとしている、なう。
あの時、確かに見えたんだ。サバスさんは赤、セベリノさんは黄色、スサニタさんは青。そして残りは俺を含めて緑色。体の表面をうっすらと覆う光の膜が。
「いや、属性なんてだいたい髪色を見ればわかるしね?」
「それはそうなんですけど!」
滅多なことでは動じないペピトが、非常に残念そうな目で俺を見る。俺も残念だ。だってペラモス商店に帰れば、ここには風属性しかいない。第三の目に力を込めたところで、みんな緑色の光を纏っているのだ。
「まあ、あれだよ。疲れたんだよ。今日はゆっくりお休み」
サバスさん以上に生温かい気遣いを向けられ、俺は憤慨したままベッドに入るのだった。




