第22話 魔法への道(6)
「魔力循環かぁ。地道に頑張ってるじゃない」
次の日曜日。例のごとく薬草摘みに出かけたところ、歩きながら魔力循環を試す俺に、孤児院出身パーティーポルセル兄弟のスサニタさんが声をかけてくれた。ちなみにポルセルとはこの街の名前で、ポルセル孤児院出身だからポルセル兄弟。略してエルマノスだ。なお孤児院出身の冒険者はいっぱいいるが、出世したら他の街に出て行ったり、もしくは廃業したりして、パーティーメンバーの入れ替わりは激しい。現在は剣士のサバスさん、槍術士のセベリノさん、ヒーラーのスサニタさんの三人。
「おい、歩きながら他のことに気を逸らすのはやめろ。転ぶぞ」
「そうだそうだ。魔法なんて、なよっちくてだっせえぜ」
「やっぱ男は衛兵だよな!」
前を歩くサバスさんから注意が飛んでくる。それに乗ってプリニオが調子をこき、ポンシオが公務員推しを挟んでくる。なんなんだ、その情熱は。
「なによ、ヒーラーはなよっちくなんかないわよ?」
「ロドリゴ。魔力循環じゃなくて、生命力循環を練習すればいいんじゃないか? それなら歩きながらでもできるだろう」
「そうかもしれません」
セベリノさんのアドバイスで、俺は生命力循環に意識を切り替える。とはいえ、魔力循環とやることは同じだ。ただ意識を臍の下に向け、力を集めたい場所へエネルギーを送る感じ。しかし魔力循環と同じで、俺はなにも感じない。才能がないんやろか。
「焦る必要はねぇぜ。どうせスキルの刻印を刻まなきゃ、生命力循環なんて意味ねぇしよ」
「はっ?」
「そうだそうだ。刻印もなしに生命力を操作してスキルを発動するなんて、お前、絵本の勇者にでもなったつもりかよ?」
えっ、なに。どういうこと?
「あら。その顔だと知らなかったみたいね。普通、魔力や生命力の流れを感じられるのは、魔法やスキルを使う時だと言われているわ。私も治癒術を覚えるまで、魔力の感覚なんてなかったもの」
「いや、そうでもない。俺は盾術を覚える前から、地脈から足裏を通って力が流れる感じは掴めていたぞ」
「だからぁ、お前は盾術の天才なんだっつの。早く金貯めて、ぶっ壊れた盾を修理してもらおうぜ」
「ははっ。ロドリゴ、訳がわからないって顔をしているね」
その後の話を整理しよう。そもそも魔力循環や生命力循環は、普通は魔法やスキルを覚えた後で感覚を掴めるようになるものらしい。例えば生活魔法レベルでは、魔力の流れが微弱すぎて、ほとんどの人がなにも感じないんだとか。そういえば「魔法を覚えるまで役に立たない」ってプリニオが言ってた気がするが、そういうことか。そして逆に、魔法やスキルを習得する前になにかしらのエネルギーを感じられる人は、かなりの適性と才能があるらしい。
「先に教えてほしかった……」
「でもほら、セベリノみたいに最初からわかる子や、冒険者の真似をしてる間に開花する子もいるから」
「何事も基礎は大事だよ。スキルを覚えてから取り組むより、普段から地道にコツコツ訓練を重ねる方が、後々役に立つわけだから」
「チ、面倒臭ぇ。そんなん冒険者になってからでいいんだって。焦るこたねぇぜ」
「そうだそうだ。カッケェ技を覚えてからでいいんだよ!」
「プリニオ、お前はちゃんと生命力循環に取り組め」
「うえっ、だってそんなのサバス兄ちゃんもやってねぇじゃん……」
「サバスもよ」
「うう……いいじゃんかよスサ姉……」
スサニタさんとセベリノさんがフォローしてくれる一方、サバスさんは投げやりだ。どうも基礎練習とかやってなさそうなタイプ。そしてサバスさんに同調してイキるプリニオ。こいつはこないだ初歩スキル強撃を覚えて調子に乗っているらしい。二人まとめてセベリノさんとスサニタさんからお説教を食らうがいい。
しかしそんな会話の中で、ふと気になったことが。
「そういえばセベリノさん。地脈から足裏に力が流れるっておっしゃってましたが」
「ん? そうだな。俺は足裏から力を巡らせるタイプだから」
「私、先日臍の下から力を巡らせると教わったのですが」
「俺はそのタイプだぜ。ま、体質によって分かれるみてぇだがな」
「体質っていうか、力の使い方の違いじゃない? 私は神殿で、頭の上から力を取り込むイメージで治癒術を使うって教わったわよ?」
「えっ」
なにそのバラエティ。俺が聞いたのと全然違うんですけど。
「トマスとトリニダードの言ったことは、間違ってはいないよ。学園や騎士団では、魔力は心臓、生命力は臍の下って学ぶそうだから」
「基本はそうよね。だけど実際に魔法やスキルを覚えたら、人によって力の流れる感覚が違うってだけのことよ」
「感覚は人それぞれだが、心臓や臍に多くの力が流れるのは確かなことだよ。ロドリゴが循環の訓練を積むのは無駄なことじゃない」
「はぁ……」
相変わらずスサニタさんとセベリノさんがフォローしてくれるが、フォローを受ければ受けるほど、魔力循環の訓練は無駄なんじゃないかと思う俺なのだった。




