第21話 魔法への道(5)
それから俺は、ことあるごとに魔力循環と生命力循環を試してみた。せっかく金を払ってまで習ったんだ、モトを取るまで使いこなしてやる。タダで魔力循環を教わった孤児院組には正直思うところがないでもないが、前世で読んだ気がする。タダで得たものは身につかないと。大金を積んだ俺だからこそ至る境地があるはずだ。そうでも思わなければやってられん。
だがしかし、魔力とか生命力とかビタイチわからん。少年漫画とかだと、普通こう、温かいエネルギーを感じるとか出てくんじゃん。そんで、生活魔法が劇的に強くなるとかさ。あと気の巡りをマスターしたら、屋根までピョンとジャンプできるとか、手から気弾が撃てるとか、そういうロマンが。
くそっ、転生に気づくのが遅すぎたか。こういうのは赤ん坊の時に覚醒して、親にバレないように魔法を使ったり気を練ったりして、幼児のうちから無双するものだ。そして人知れず魔物を狩り回り、空間魔法で大量の素材を集め、成長と共に順調に成り上がり……ッ!
いや待て、まだ焦る時間じゃない。そもそもこの世界では、神殿で洗礼を受けない限りは属性が確定しない。たとえ生まれた時には赤髪に見えても、土属性と判明してから髪色が茶色に寄っていくとか、よくある話だ。そして生活魔法を除き、自分の属性以外の魔法を覚えることはできないから、これでいいのだ。神殿で属性が判明した直後、奉公に出される前日に前世を思い出す。俺の歩みに遅れはないはずだ。
「なにをブツブツ言ってんだ。洗濯は終わったのか?」
「あっはい、この通り」
「いい加減諦めろよ、ロドリゴ。俺たち風の使徒は魔法使いなんかなれないんだぜ?」
「そもそも魔法使いになろうと思ったら、学園に行かなきゃなんないだろ。お前、学園は嫌なんだよな?」
「そうなんですけど……」
朝の掃除当番のプリニオ、そして皿洗い当番だったポンシオが、通りがかりに俺を咎める。これから勉強部屋に行くところだ。別に勉強時間には間に合っているし、咎められる理由はないんだが、これまで手際よく仕事を進め、余った時間で彼らを手伝っていたから不満なのだろう。
「まあまあ、ロドリゴが学園に行くか行かないかは何年も先の話で、まだ決まったわけじゃないよ。それに補助魔法だって立派な魔法だしね」
「まあそうだけどさぁ」
「だから言ったろ、衛兵がいいんだって」
ポンシオ、不動の衛兵推し。公務員志向はわからなくもないが。
「魔力循環か。私も昔は憧れたものだな」
午後。事務室で書類仕事の合間の休憩時間、番頭のプロスペロさんが俺に声をかけた。最近、彼の態度が軟化している。最初ここに来た時は、ほとんど顔も見ずに奉公人たちにスルーパスされたのに。まあ、あの時は商会全体が立て込んでいて、新入りの奉公人にいちいち構う余裕がなかったという事情があった。後で知った。そして現在は、俺の作るなんちゃってスイーツに魅了されているらしい。プロスペロさん、甘党だった。
「誰でも一度は憧れますよ。こう、バーンと魔法を放ってみるとかですね」
「ピオ。その割にはお前、勉強は嫌いだったな」
「仕方ないじゃないですか、学園に行けるほど頭がよくなかったんですから。チッ、藪蛇だったな。倉庫行ってきま〜す」
「まったく、調子のいい奴め。――それにしても、今日のこれは素晴らしいな。玉子と砂糖のために食堂の予算を増やすよう、旦那様に進言しておこう」
そう言いながら、モフモフとおやつを口に運ぶプロスペロさん。今日は蒸しパンにカスタードを挟み、有名土産菓子をイメージしてみた。本当は覚えたばかりのウィンドを華麗に使いこなし、魔法でチャチャッとメレンゲを作る予定が、結局うまく行かずに泡立て器で力技。しかも途中で力尽き、ほとんどパウリノさんの苦労の賜物となってしまった。しかし舌の超えたプロスペロさんのお墨付きなら、レシピ登録もクリアできそうだ。今の俺の貴重な資金源である。
「魔素が感じられないのは普通のことだ。私も未だにわからん。逆に、最初から魔力循環ができるようなら、本格的に学園入学を視野に入れ、魔法学者を目指すべきだろうな。まあ、魔法のことならばポルフィリオに聞くがいい。私と違って次席で卒業した秀才だからな」
そのポルフィリオさんは、涼しい顔をしてお茶を啜っていた。プロスペロさんには目礼したが、俺には一切目を合わせようとしない。なんなんだろう、このヘイト。
「ふん。甘味でプロスペロさんに取り入ったからと、いい気になるな」
そして案の定、廊下で睨まれたのだった。




