第20話 魔法への道(4)
「ああ、僕らは野営の仕方なんかは孤児院パーティーのエルマノスに教わってるから。ロドリゴ、彼らにはなにを教わりたい?」
「俺らが教えられるのは、斥候術、弓術、補助魔法くらいか。だがさっき言った通り、斥候術はお勧めしねぇなぁ」
「弓術も弓矢がいるしね。じゃあ簡単な魔法にしましょうか」
うおっ、早速魔法キター!
「だけど私が教えるのは基礎の基礎よ。使えそうなら冒険者ギルドで習うことね」
「ありがとうございます!」
「まず生活魔法のファイアとウォーター、ライトは使えるわね?」
「大丈夫です」
「じゃあそれと同じよ。みんな使わないから知られていないけど、風魔法にもウィンドっていうのがあるの。こうよ」
トリニダードさんが差し出した手のひらからそよ風が起こり、俺の前髪を揺らした。
「おお!」
「あとはちゃんとした魔術師に師事して、聖句を刻印してもらうことね」
「刻印ですか」
「ふふっ。ロドリゴ、君はこないだの授業でポルフィリオさんが使った魔法の聖句を覚えて、後でこっそり唱えていただろう。だけどあれは、ちゃんと学園で回路を刻んでもらわないと使えないのさ」
なにそれ。あれか、魔法屋で魔法を買うシステムか? RPGでよくあるやつ。
「あとは迷宮でスクロールや魔導書を拾ったり、買ったりするくらいか。ああいうのは自己判断で使うもんじゃねぇぞ。自分の力量に合わねぇモンを取り込んだ日にゃ、魔素切れで気を失うのはまだマシなほう。常時魔素消費魔法を制御できなきゃ、一生魔力を吸われて廃人。さらにもしアイテムに呪いでもかかってりゃ、命を落とす可能性もあるからな」
「ヒェッ」
「そうやってスクロールや魔導書から発見された魔法を解析して、安全に使えるようにしたものが、回路と聖句よ。習得するのにはそれなりの対価が必要だけど、いかがわしいアイテムを使うよりはずっと安価よ」
なるほどな。なおスクロールや魔導書はいい値段で取り引きされるが、買うのはもっぱら研究機関や魔法学者らしい。冒険者にとっては、単なる換金アイテムといったところ。
「まあ、私が教えられるのはこのくらいかしら。だけど時間が余っちゃったわね。せっかくだし、簡単な魔力循環でも覚えていく?」
「それじゃあ俺は生命力循環だな。どうせ坊ちゃんについて行商に行くんだろ?」
「いえ、それは」
「ふふっ、トマス。それはまだ先の話だよ」
「まあそんなことはいいじゃない。ほら、胸の上に手を当ててみて」
「あっはい」
なんか濁された。まさかこれ、ペピトと一緒に行商人ルートのフラグなのか? しかし、魔法の基礎となる魔力循環と、スキルの基礎である生命力循環の魅力には抗えない。俺は、二人の教えに真剣に耳を傾けるのだった。
「心臓から左手に、左手から右手に……」
寮に帰ったあと、俺はひたすら魔力循環を繰り返していた。地道に繰り返していれば、後々魔法を買った後にスムーズに発動するらしい。そしてなにより、めっちゃワクワクする。俺もいよいよ剣と魔法の世界の一員だ。
木を抱き抱えるように両腕を輪にして、その輪を魔力が巡るようにイメージする。うん、なにが魔力なのか全然わからん。だが繰り返していれば、きっと開眼する日が来るはずだ。なんせ魔力循環は異世界転生の基本だからな!
しかし、寮室にはプライバシーなどなかった。二段ベッド二台の四人部屋、上段を占領する孤児院組が無遠慮に俺のベッドを覗き込む。
「お、魔力循環か。俺もスサ姉に教わったぜ!」
「俺も〜!」
「えっ」
「なんか魔力をグルングルンするヤツだろ。どうせそれ、魔法を習うまで役に立たねぇから忘れてたわ」
「だよな〜。だし俺、衛兵になるし、魔法はいっかな〜」
ちょっと待って。今日、俺にしては大枚を叩いてトマスさんとトリニダードさんに教わったんだが、もしかして孤児院の先輩パーティーに聞いてれば、無料だった……?
「ふふっ。冒険者が手の内を見せるのはあくまで信頼と厚意によるものだよ。何事にも適切な対価が必要だと思わないかい?」
向かいのベッドで、ペピトがニヤニヤしている。いや、それは確かにそうなんだが。その夜、俺はなんだか釈然としないまま寝落ちした。




