第17話 魔法への道(1)
でもまあ、ポルフィリオ氏の言い分もよくわかる。というのも、彼が得意とする風魔法は学園でしか学べないものだからだ。いや、学園でしか学べないというのは語弊がある。こないだギルドから派遣されたパスクワラ先生、ああいう魔術師に金を積んで師事するというルートもある。ただどちらにせよ、大金はかかる。金のない庶民がああいった防音魔法やら契約魔法やらを習おうと思えば、後ろ盾を得て、推薦をもらって、わずかな特待生枠を勝ち取って、学園に行くしかないのだ。
こないだパスクワラ先生がここに来たのは、既に学園かどこかで魔法を習った者に対するメンテナンス講習みたいな感じだ。初心者に手取り足取り最初から教えてくれる性質のものではない。もちろん、稀に先生や先輩が魔法を使うのを見て、見よう見まねで習得しちゃう奴もいるらしいが、そんな天才は魔術師見習いとして逆にスカウトがかかるそうだ。先生が派遣されるのは、そういう隠れた逸材を見つけるためでもあるらしい。こええな。
というわけで、こと防音魔法とか契約魔法など、およそ金になりそうな魔法は、学園やギルドなどが緩やかに秘匿独占している。仕方ない、それで飯を食ってる人もいるわけだから。
「ふぅん。なら君も学園に行けばいいじゃないか」
「そうは申しましても」
夜、奉公人の寝室で。ペピトに相談すると、想像通りの答えが返ってきた。
「学園は多少窮屈かもしれないけど、一流の人脈を得る又とないチャンスだ。金は金を持ってる奴の間を流れる。それこそ、早期リタイアに必要な経験だと思うけどな」
「いやしかし、その人脈や仕組みにガッツリ巻き込まれるのが困るって言いますか……」
ブラックに使い潰された前世。俺は自分の境遇が碌でもないとわかっていても、転職をあと一日、もう一日とずるずる引き延ばした結果、儚くなってしまった。取引先とのアポが、とか、社外コンペが終わったら、とか、取るに足らないしがらみに囚われていたと思う。そんなもの、転生した今から振り返ってみれば、本当にどうでもいいものだ。とても若さと健康を費やしてまで守るべきことではなかった。いや、逆に気力体力を根こそぎ奪われていたため、転職するエネルギーすら枯渇していたと言うのが正しいか。
低賃金でこき使われていると自覚していた前世でこれだ。あの時はまだ、転職や引越しの自由はあった。しかし、今度は身分格差のある世界。一度上流社会に囚われてしまっては、どこにも逃げ場はなくなるだろう。権力をかざされては、平民は太刀打ちのしようがない。
「下手に目をかけられると、馬車馬のように使い潰される姿しか思い浮かびません。かといって無能だと評価された日には、それはそれでゴミのように消費されて打ち捨てられる未来しか」
「うーん、君の想像力はすごいな。一体どこでそんな情報を?」
「そうだぞロドリゴ。お貴族様や商人なんてみんなそんなもんだ。やっぱ冒険者しかねぇぜ!」
「そうだそうだ!」
孤児院組の二人が俺たちの会話に参戦する。しかし、冒険者だってその日暮らしの使い捨て。体を壊して働けなくなったら終わりだ。若いうちに一山当てるか、どこかで堅気に戻って慎ましく暮らすしかない。
いや待てよ、冒険者か。
「そうだ。冒険者ってどこで魔法を習うんですか?」
「お、冒険者を目指す気になったかよ?」
「俺は衛兵だけどな!」
プリニオとポンシオがベッドから身を乗り出してきた。いや、冒険者にも衛兵にもなる気はないけども。




