第16話 その後の事務室
連載再開いたします。
遅くなって申し訳ありません!
いつも読んでくださってありがとうございます。
「ペピトに目を付けられたようだな」
顔合わせの翌日、事務室で検算の仕事中、番頭のプロスペロさんに声をかけられた。
「あっ、えっと」
「別に咎めているわけではない。パルラモン商店とペピトとも話はついている。うちではレシピまでは手が回らないからな。彼らの助力を得たのは正しい判断だ」
「あ、ありがとうございます?」
よかった。ペラモス家具店で奉公をしながら、別商店の手先になったことを非難されるかと思った。いや、それならレシピ開発の段階で横槍が入っただろうか。
「早期リタイアやら不労所得やら、なにを生き急いでいるか知らんが、お前はまだ子供だ。いろんな経験を積んで、幅広く学んでいきなさい」
「あ、ありがとうございます……?」
なんだこの番頭。いつもしかめ面で客の前でしか笑わないのに、とんだナイスガイかよ。
「すごいな、ロドリゴ。プロスペロさんは滅多なことで人を褒めたりしないぞ?」
「えっ。ピオさん、私、褒められてたんですか?」
「ふん。ロドリゴのレシピには奥様も大変お喜びだからな。ペネロペの薔薇とは憎いネーミングだ」
「それは、いつもお世話になっておりますので……」
ちょっと媚び過ぎただろうか。だが受けが良かったんなら問題ないだろう。
「それにしても、それだけの計算能力に貪欲な知識欲。お前、本当に学園に行く気はないのか?」
「ええまあ、私には分不相応ですので」
「まあ、お前の人生だ。自分で好きに決めるといい。日々の仕事さえおろそかにしなければ、私はなにも言うまい」
「あ、ありがとうございます……」
ペピトのスカウトの件は、これで一段落した。
とでも思っていたのか。
「番頭とパルラモンに目を掛けられただけで、いい気になるな」
「えっ」
事務室を出たところで、不意に背後から声をかけられた。若手のエース、ポルフィリオさんだ。
「ガキのくせに学園を辞退するとは生意気だ。あそこは俺たち庶民にとって、成り上がるためには通らなければならない登竜門。ただ一握りの勝者だけが通うことを許されるのだ。この俺のようにな」
「はぁ」
おっと。これまで滅多に話す機会がないから知らなかった。こいつ、こんな面倒臭い性格してたんだ。
「まあいい。どうせお前のような底辺の職人の倅など、まぐれ当たりで小遣い銭を稼ぐのが関の山。学園など高望みもいいところだがな。せいぜい番頭に媚を売り、一生へいこらと地べたを這い回ることだ」
最後はふん、と鼻を鳴らして去っていった。ちょっと、学園を目指す話を受けて欲しいのか断って欲しいのかわかりません。
まあどこにでもいるよな。学歴厨というか、拗らせたやつ。まさか異世界で序盤に出会うとは思わなかったが、そういえば俺の父や兄だって「職人最強」を拗らせていて、俺なんか視界に入ってなかったな。あの家で俺を気遣ってくれたのは、母と弟たちのみ。てか、弟たちは元気だろうか。今度まとまった金が手に入ったら、絵本か菓子でも送っておくか。




