第15話 手駒
しかし、レシピ販売はいいことばかりではなかった。
「どうだい、僕に協力したくなっただろ?」
「レシピを売ったんだか魂を売ったんだかわかりません」
ニチャつくペピトに、眉を顰める俺。なんかうまく乗せられ、転がされてる感がすごい。そもそも、薬草摘みに誘われたタイミングからして怪しい。俺がいくつかレシピを披露した直後だ。根回しもレシピ登録への流れも完璧だった。ずいぶん前から罠を張られていた気がしてならない。
俺が手にしたレシピ使用料、その半分をペピトに山分けしようとしたのだが、彼はそれを頑として受け取らなかった。その代わりに、学園在学中に駒として働けってことだ。くそっ、端金で首輪をつけられた気分。
「商売はノウハウとコネ、そして戦略だよ。僕にはそれがある。君も僕を利用すればいいじゃないか」
「利用される未来しか見えないんですが」
まったく困ったことになった。彼のしたことはあくまでレシピ登録の仲介で、直接利権に絡むことではない。彼から仲介手数料を求められるならまだしも、あくまで良心でやったことだと言われると、こちらから無理に謝礼を押し付けるのは無粋だ。かといって、彼から受けた恩義を無視することは、信用に関わる。ビジネスは信用が命だ。ペピトはレシピ登録の際、ペラモス商店や料理人のペドロさん、バイト先のパロマさんを巻き込んでしまった。みんな俺が彼の世話になったのを知っている。そんな中、仮に俺が彼に不義理をすれば、周囲からの信用を一気に失うだろう。
「ははっ、そう難しく考えないで。君に損をさせるつもりはないよ」
「どうですかね……」
薬草摘み、レシピ登録と慌ただしく過ごした後の、とある火曜日。
「ロドリゴ、こちらがテオバルドさんとトビアス、それからトマスにトリニダードだ」
「よろしくな」「よろしく」
午後、ペラモス商店の許可を取って店を抜け出し、俺はとあるカフェにてペピトの知り合いに紹介されていた。彼の懇意のギルド職員、実家の商店関係者、それから冒険者二人。
「手駒の皆さんですね、初めまして」
「ははっロドリゴ、なにを言ってるのかな?」
「ペピト坊ちゃん、まだそんなことおっしゃってたんですか」
「今更誰も驚きませんよ」
驚かないんだ。うっそ。
「さて些細なことは置いておいて。みんなにはかねてより伝えておいたけど、彼はペラモス商店内の重要な工作員だよ。これからよろしく頼むね」
「工作員」
「すみませんロドリゴさん。坊ちゃんはちょっと表現が特殊でして」
「トビアスさん、教育係のあなたが刷り込んだんでしょう。まあちょっと変わってますが、パルラモン商店の優秀な御曹司ですよ。仲良くさせていただいて損はありません」
目の前で勝手に話が進んでいく。初対面の人間ばかりで、内容がちっとも頭に入らない。この雰囲気はアレだ、新入生を強制的にサークルに加入させる流れ。もしくは宗教の勧誘か。
「おいおい坊ちゃん、坊主が目を白黒させてんぜ」
「そうよ。ロドリゴ、あなた訳もわからず連れて来られたんでしょう」
フォローしてくれたのは、意外にも冒険者たちだった。
「おや心外だな。僕が君たちを集めたのは、ロドリゴのためだよ。僕が不在でも円滑に回るようにね」
「改めまして、私はテオバルド。先日のレシピ登録以来だね」
まず商業ギルド職員のテオバルドさん。深緑の髭を綺麗に整え、髪を後ろに撫でつけたイケオジだ。こないだはカウンター越しに事務的な応対しか受けなかったが、ペピトが呼び出せばこうしてカフェに顔を出すくらいには仲が良いらしい。
「私はトビアス、ペピト坊ちゃんの教育係を務めております。なにかお悩み事がありましたら、なんなりとご相談に乗りましょう」
トビアスさんは緑髪にグレイヘアの混じった紳士、緑の瞳が温厚な雰囲気を醸し出す。しかし、よく観察すると目が笑っていないような。ホワホワした外見に惑わされてはならない。
「俺はトマス、そんでこっちが相棒のトリニダード。俺らはまあ、なんでも屋みたいなヤツだ」
最後に冒険者ペア。彼らはこのポルセルの街の商業ギルドと契約していて、ちょっとした護衛や荷運びなどをしているらしい。二人とも風属性らしく、緑の髪に軽装備をしている。
「僕が学園に通っている間、新しいレシピやビジネスアイデアがあればテオバルドさんやトビアスに相談してくれ。僕も協力するけど、二人が直接動いたほうが早いだろう。それからもし急ぎのものや要件があれば、トマスとトリニダードに調達や伝言を頼むといい」
おお。思ったよりまともな顔合わせだった。




