第104話 偽物
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奥方の実家、キケロ織物店で取り扱う繊細な模様の丈夫な織物。コイツをペラモスの上質な家具に組み込んで売り出したところ、王都の貴族に大当たり。それが王都支店のフラッグシップモデル、「ペネロペの薔薇」シリーズだ。火属性特有の鮮やかな赤髪を持つペネロペ奥様、その赤にあやかって、代表作は華やかな赤薔薇模様となっている。
かつて俺が、リンゴを使った焼き菓子を「ペネロペの薔薇」としてレシピ登録したのも、この商品のプロモーションのためにプロスペロさんに勧められたからだった。その節は、奥方様から直々に手紙が届いたっけな。思えばあの頃から、バネサお嬢様の婿候補に上がっていたのかもしれない。
ペラモス王都邸の応接室は、その赤薔薇模様の「ペネロペの薔薇」で統一されており、太客向けのショールームも兼ねている。まさかそこに偽物が紛れているなんて、誰も思わないだろう。
「お手柄だよ、ロドリゴ。君には本当に驚かされるね」
「いえ、その」
商談から急いで帰ってきた旦那様も加わって、一緒に夕飯。いや、もう就業時間外ですやん。おうち帰りたい。
「まったくですわ。土台の家具のみならず、布張りの布地の真贋まで看破してしまうなんて。ロドリゴ、明日はキケロ商店までついてきてもらいます。いいわね?」
「あっはい」
「なによ、お父様もお母様もロドリゴばっかりチヤホヤしちゃって。そんな冴えない平民、どこがいいんですの?」
「ああバネサ、ヘソを曲げないでおくれ。婿候補を抜きにして、彼は実に有用な社員だ。わかるね?」
「良き働きに報いるのも、人の上に立つ者の仕事なのですよ?」
昼間、経営者としてちょっと見直した奥様。しかしバネサお嬢様とセットだと、バカ親にシフトチェンジしてしまう様子。てか、プロスペロさんによれば旦那様はペピト寄りの腹黒とのことだが、この茶番は一体どこまで本気なのか。
「そういえばロドリゴ、出先で面白い話を聞いたよ。君たちが奇妙なスキルを使って倉庫整理をしていたと」
「あっはい。あれはキーンとエアーダスター、ハンディクリーナーと申しまして」
「うん。エアーダスターとハンディクリーナーについての経緯は、父上からの書状で聞いているよ。だが本来武器に付与するべきエンチャントを、家具にかけて動かすとは」
「はい、それは王都に来る途中に編み出したと言いますか」
「まあっ、道理で家具を易々と運ぶと思っていましたわ?」
「なによそれ、聞いてないわよ!」
「お嬢様?」
「アンタ、奉公人のくせに生意気よ! 便利なスキルがあるなら、ケチケチせずに教えなさいよ!」
「えっとバネサ。彼が使うスキルには、風の加護が必要で」
「ひどい! ロドリゴだけお父様に褒められて、アタシには使えないなんて!」
「あの、お嬢様。火属性は身体強化と相性がいいので、そっち系のスキルを取られたらいいのでh」
「ひどいわ! どうせ火の加護持ちの女は凶暴って言いたいんでしょ! お母様、アイツが侮辱するのよ! 許せないわ! うわあああん!」
「あらあらバネサ。今日もちょっと疲れているのね?」
うーん、なんだろうこの地獄絵図。強制的にマナー講習に駆り出され、偽物の家具を見つけただけなのに、俺は一体なにに巻き込まれているんだ。
翌朝。俺は疲れた体を引きずって、キケロ織物店を訪れた。ペラモスの邸宅から馬車で一緒に行こうという申し出は、ありがたくお断りした。支店からあまり離れていないということもあるし、なにより精神的ダメージを回避したかった。
そもそも、ペラモス王都支店を牛耳るのはバレリオ氏やビダル氏たち、ペネロペ奥様がキケロ商店から連れてきた人々だ。邸宅の使用人たちもそう。俺に対して非常に塩対応、ということは、これから向かうキケロ商店は俺にとってスーパーアウェイということだ。胃が痛い。大旦那様やプロスペロさん、本店のみんなに迷惑をかけるのでなければ、さっさと奉公を放り投げて逃亡してしまいたいレベル。
「おはようございまぁす。ペラモス商店より参りましたぁ……」
「おう坊主か、入りな。ピオから聞いてるぜ」
しかし想像を裏切って、俺を出迎えてくれたのは気の良さそうなオッチャンだった。
「あのキーンを思いついたのが坊主だって聞いてよォ。ありゃ最高だな!」
「え、あ、あざす……?」
おいちょっとピオ氏。俺の知らないところで、なに俺の個人情報売ってんの。だがしかし、俺は今日この瞬間ほど、彼の有用性を実感したことはない。ピオ氏、ナイスアシスト。




