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現世の英雄  作者: ぱっと見アラサーの高校生
第2章 万正、理想へと進み
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第三十三話「結集」

タラスクの顕現と同時に空には暗雲が立ち込め月夜が閉ざされた。

地中から現れる魔物の姿に、戦場に立つ皆が恐怖を感じる。

震える手で各々が武器を持ち己を奮い立たせんと守るべき物や負けられない理由を思い出す。

最初の1歩は実に重い。そんな中騎士団1の大男が前に出た。



「怖気づくなぁ!」

「!」



バヤールの声だ。都市中に響き渡る声でバヤールが叫ぶ。



「今更引き下がることは許されない!貴様らが本当の騎士であるのなら、己が力を!己が栄誉を!己が永木を持ってその武器を取れ!

 さぁ!奴を倒した者こそ英雄と呼ばれるだろぉ!!」

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」



バヤールの鼓舞が騎士たちを奮い立たせる。雄叫びと共に騎士たちが踏み出した。

勇者たちの進行がタラスクへと迫り皆がその刃を向ける時。閉ざし続けていた目を覚ましたタラスクが天を仰いだ。

自身を産み落とした其への嘆きなのか、それとも不完全に生み出されたことへの怒りなのか。

空気を揺らす轟音がタラスクより解き放たれた。



「ゔぇあああぁぁぁああぁぁあ!!」



空気が揺れる。どころではない。空気が轟いた。

あまりの風圧に騎士たちは足を止めざる負えない程の風が都市に流れ、湖を揺らし、避難所にまで届く。

その存在を知らずとも今も鳴り響く悍ましき声を聴きさえすれば恐怖からは逃れられない。

避難所の避難民も都市の咆哮を見て恐怖に震えていた。



「な、なんだあれ!」

「ばけものだぁ!」

「皆さん落ち着いて!」

「今騎士団が対処に向かっています!」



恐怖により混乱する避難民たちを配置されている騎士団員が対処に当たる。

しかし人数差によってその声はうまく通らない。避難所から逃げ始める物まで出始めた時、都市の市壁から光を纏った何かが流れ星の様に避難所の前に降り立った。

シノンだ。



「皆さん大丈夫です!必ず僕たちと騎士団が倒して見せます!」



喰蝕者との戦闘から直行したシノンの姿は手負いも手負い、頭から流れる血は服にまで届き一部を赤く染めている。



「お前子供だろ!子供に何が言えるって言うんだ!」

「そうだ!騎士団だってあんなのに勝てる訳ねぇ!」



やっぱり混乱している。その上こんな子供が来ればそうなるよな。

予想していた避難民の反応としては妥当も妥当だ。


前もってこの状況を予想していたシノンは深く頭を下げ願うように声を上げた。



「皆さんの心配はよく分かります。

 ですがどうか、僕たちを信じてくれませんでしょうか!

 皆さんに信じていただけるのなら僕たちも勝利を!いや、あの暗雲を晴らした先の星空を約束することができます!」



声を張ったシノンの願いが、避難所に響き渡る。

彼の目と声に宿る覚悟が嘘ではないことなど誰もが分かっていた。誰よりも傷つきボロボロになりながらもここへ来た姿こそが何よりの証明になっている。

先程まで抗議していた者たちは口を閉ざし、知り合いか家族が諫めた。



「もう辞めないか。あんな小さな子供があそこまで言ってくれてるんだ」

「そうだよ。あの姿を見な。私らは守って貰ってるんだよ」



諫める声が増えると、抗議の声は途端に消え避難所の喧騒も落ち着いていった。

シノンはその様子にほっと胸を撫で下ろす。



「それでは騎士団の方々に任せます」



そう言い残しシノンは再び跳び立ち都市の中へと戻っていった。


どういう訳か、総量も出力も上がってる。そのまま戦場に向かいたい気持ちはあるけどこの状態はフローと同じだ。一時的に本来のポテンシャル以上の実力を引き出せているに過ぎない。

ランスさんの元へ寄って回復を──


都市へ戻ったシノンは真っ先にランスやジャンヌの待機する大聖堂に向かった。

都市の中央へ目をやればまさに激戦、タラスクへと多くの生跡、や剣が撃ち込まれている。

大聖堂へと到着したシノンは扉を開けて中に入った。



「ランスさん急ぎ回復をお願いします」

「シノンさん!何故もうそこまでボロボロに!」

「説明は終わってから今は回復を」

「は、はい」



シノンはランスの元へ向かい傷の治癒を願いながら何かを探すように大聖堂を見渡してからより真剣な面持ちになる。

シノンの怪我について質問した気持ちを抑えつつランスは急かされながら生跡での治癒をシノンに施す。

そうしていると屋内が気になったのか屋上からジオが下りて来た。



「シノン、また変な事してきたね。

 それにその姿と魔力…」



階段を降りて来たジオはシノンの今の姿を見て少し驚いた顔になる。



「英気に入ったんだんだね」

「英気?」

「魔力の極限的な集中状態のことさ。君は今出力と総量が上昇しているはずだ」

「ああ確かにそう感じる」



やっぱりフローに似た物だったようだ。と言うかほぼフローの魔力バージョンって所か。

確かに勝つために全神経を戦闘に使っていたし、入ってもおかしくはなかった。



「それより、()()()()()()()()()()()()()?」

「もって1刻が限界だね。そこからは徐々に高度が下がる」

 


1刻──約2時間か。未知数の敵にどれくらい対抗できるだな。



「シノン、一応忠告だ。

 英気に入った者のポテンシャルの上昇には個人差があるけど、君のそれは異常だ。

 最悪自分の魔力で自壊することも有り得るよ」

「望む所だ」



自分の魔力で自壊か。そういえば似た様な経験があったな。

生跡が目覚めたばっかりの時も俺は英気に入っていたのか。



「そうだシノンあとこれ」



ジオは思い出したと懐から取り出した青い鉱石をシノンに渡す。



「なんだこれ?」

「風聞晶だよ。離れていても片割れと会話ができる伝達用のアイテムさ。

 騎士団に貰ってね」

「ほぉそりゃ便利だ。貰っとくよ」



シノンはジオから受け取った風聞晶をポケットに入れた。



「シノンさん、これで十分だと思います」

「ありがとうございます。ランスさん」



体の回復を十分に終えたシノンは立ち上がり、戦場へ向かおうと大聖堂の扉の前に立つ。

扉に手を掛けたシノンは一瞬動きを止め、ジオの方へ振り返った。



「そうだジオ、やっと旅の目的が決まったよ」

「!…そうかそれは良かった」



優しい笑顔で送りだすジオに背を向けてシノンは戦場へと駆けて行った。

ジオはシノンの言葉を受けて、どこか安心した様な顔でシノンを送り出す。



「償いの旅じゃなくなってくれて良かったよ。シノン」



ーーー



「退くな!白装束が来るぞぉ!」

「タラスクの攻撃がくる!防御班構えろ!」

「おう!」



互いに声を掛け合いながら騎士団たちは白装束とタラスクを相手に退くことなく攻防を繰り広げている。

タラスクはその巨体を動かすだけでさえ攻撃となり防ぐのには数10人を必要とする。

それに加えて背中の棘を射出する攻撃や尻尾の蛇の広範囲の毒液による攻撃は騎士団に手を焼かせていた。

しかし、苦戦を強いられているこの状況でも一切億す事なく立ち向かう者たちがいる。



「来るぞオリヴィエ!」

「分かっている!」



タラスクの攻撃を回避し、防御し、戦場を駆け抜ける2人の姿が騎士たちの目に留まる。

戦場内で最速を誇る俊足を持つオリヴィエは難なくタラスクの攻撃を回避し、全ての能力において万能と言える程の力を誇るローランはタラスクの顔へカウンターをお見舞いする。



「うっわ全然通らない!」

「馬鹿!ローラン迂闊に近づきすぎ!」



全力で振り抜いたローランの一撃でさえタラスクの皮膚の表面に多少跡を付ける程度、空中で身動きの取れない状況のローランは攻撃を仕掛けたことでタラスクに発見された。

タラスクの巨顎がローランを捉え閉じかけた時、ヒッポグリフに乗ったアストルフォがローランを掴み抜け出した。



「助かったぞアストルフォ、やっぱりあの化け物レベルが違うな」

「それ確かめるのに死にかけないでよ。アレのやばさは見ればわかるよ。

 まだ()()()()だから誰も死んでない。少しでも本気になれば抑えきれないよ」



ローランの言葉にアストルフォは騎士として真面目な意見を述べる。

アストルフォは正しい。タラスクは未だ実力の3割までしか出していない。それは眼前の塵芥を未だ敵と認識していないからである。

タラスクの目にはローランでさえ羽虫程度にしか映っていない。



「聖剣は見つからなかったし、シノンもいない。このままじゃ押し切られるな。

 その前に──」

「駄目だよローラン。勝ち筋見えない内はローランの()()は使わない」

「…ああ。分かってる」



心が揺らぎ、生跡を使おうと魔力を高めたローランへアストルフォが警告する。

ローランはその言葉で後1歩の所を踏みとどまる。



「トゥルパンは何を?」

「反対方向で戦ってる。白装束の掃討は終わりそうだけど、戦況が動くかと言えばそうじゃないよ」

「っアストルフォ来るぞ!」



ヒッポグリフに捕まりながら戦況を整理するローランはタラスクが甲羅へ魔力を集中している事に気付く。咄嗟にアストルフォへ知らせた次の瞬間、タラスクの甲羅に生えた棘が射出される。

山なりに射出され地面へと突き刺さる棘はその内に内包した魔力は爆発として放出した。

その攻撃に棘の回避だけに気を取られた多くの物が爆撃を喰らうことになる。



「アストルフォ俺を下ろせ!」

「君が行ったところで何になるのさ!それに、次が来る!」



地上へ降りようとするローラン、しかしアストルフォはそれを良しとはしない。

棘の爆撃により混乱が増した戦況をタラスクがさらに歪める。蛇の尾を地面へ叩きつけ毒液を吐きながらの360度回転。

タラスクの誇る巨体のみで多大な被害を生む攻撃に加え、さらに毒液の攻撃により攻撃範囲は2倍以上に広がる。



「駄目だ。降りる」

「え!?ちょ、ローラン!」



ヒッポグリフの足の拘束を振り払いローランは地上に降下する。毒液によって溶解された都市は言わば地獄。それすらも目に止めずタラスクは蹂躙を辞めることなく暴れ続ける。

地上に着地したローランはタラスクの元へ直行、全方位範囲攻撃によって後退、ダメージを負った戦線をカバーしようとしていた。

その横に攻撃の回避に成功していたオリヴィエが現れる。



「無策ではないだろうなローラン」

「これ以上黙って見てられるか。使わせてもらうぞ」

「!──まさかお前!?」



タラスクの瞳が、城へと続く大通りで立ち止まるローラントオリヴィエに向く。

ローランは自身の胸に手を当て目を閉じて集中をする。

すると、ローランの体から炎が現れる。炎は段々とローランの体全体を包み、髪の毛の先から爪先にいたるまでが炎に包まれた。



「|不滅の余燼《ㇾテルニテ・オルランド》」

「なんだ、その姿は…!?」

「俺も、まだ成長できるってことだよ」



何度も見たであろうローランの生跡を見て、オリヴィエは驚愕する。

それは自身が見て来た姿とはあまりに異なる姿をしていたからだ。

以前のローランの姿は体は光に包まれどこか神々しさを宿した姿だった。しかし今の彼はどうだ。

心臓を中心に火を灯し、四肢の部分は黒くなりひび割れその間から微かな余燼の明かりが見える。


深化──それは生跡そのものの進化現象。明確な条件が発見されていないが本人の精神性に大きな成長があった際に確認される。

効果としては、生跡の成長や性質変化が見られ、ローランの深化は後者を強く引き起こしていた。



「だがお前1人ではどうにも…」

「遅れました皆さん!シノン・ウィットミア現着です」

「「シノン!」」



ローランが覚醒したとはいえ1人でタラスクの相手をすることはできない。

そんな時、後方から回復を終えたシノンが現れる。



「お前、どうしたその馬鹿でかい魔力?」

「事情は後で!バヤールさんに行って一般団員を都市の末端まで避難させました。

 白装束の掃討は終了、ここからはタラスクを倒すため少数精鋭で向かいます!」



何度目か分からないシノンの魔力へのリアクションを受け流しつつローラントオリヴィエに状況を伝える。

道中2人の元に向かうまでにシノンはバヤールを見つけ騎士団員の各班へ風聞晶で撤退を要請させた。

今都市中央にいるのはシノン、ローラン、オリヴィエ、トゥルパン、アストルフォ、バヤール、リネファ、ジオ、そして──



「皆さん!」

「今度は誰だって、嬢ちゃん!?」

「何故来たジャンヌ、お前はっ…」



ジャンヌの登場に再び驚く2人、その中でもオリヴィエは2人で話すことも多く妹の様に思っていたこともあり、ジャンヌが戦場に立つ現状に酷く動揺していたが、彼女の瞳を見て口を綴んだ。



「…戦う覚悟はあるのか?」

「勿論です」

「そうか。ならいい」



ジャンヌの思いを認め、オリヴィエはタラスクへと視線を向ける。

役者が揃い。意志が揃った。決戦が本当の意味で始まった。


これより半刻後、英雄と聖女が都市に戦跡を刻む。

描写捕捉 

シノンが大聖堂で探していた何かはジャンヌの事ですね。そしてシノンが到着する前にジャンヌは大聖堂をランスにバレないよう飛び出してます。

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