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現世の英雄  作者: ぱっと見アラサーの高校生
第2章 万正、理想へと進み
34/37

第三十二話「蹂滅顕現」

決戦があと少しで始まらんとする中で都市中央に構える1つの建物だけが喧騒に包まれていた。



「ゔぁぁぁぁぁ!」

星穿の矢(ボア・アルテミア)!」



その建物の中ではけっせにょり一足早く激戦が繰り広げられていた。

粒子で作り出した紡錘状のドリルをシノンが放つも、人の姿を捨てたロペスピエール──喰蝕者(しょくしょくしゃ)は体を捻り腰に生えた尻尾で弾く。



「くそっ」



あの尻尾、他の部位より格段に硬い。だが星穿の矢をあそこだけで弾くってことは他の部位なら通るってことだ。だがそれ以上に──


シノンの頭から血が流れる。息も荒くなり始め世写の四肢(ウィガール)重装(アルマトラン)の制御も難しくなり段々と粒子が維持から外れていく。

勝機を探り続けたシノンだが、その度にダメージと疲労を負っていた。



「星穿の矢!」



結果は変わらず今回も攻撃は弾かれる。

シノンの魔力は膨大だ。同年代、大人と比べてもその魔力量の差は数倍に及ぶだろう。

現在も多くの技を行使して尚シノンの魔力は半分も消費していない。


喰蝕者の接近、シノンは距離を取ろうと後ろに下がった時だった。段差に躓き一瞬動作が送れた。


しまった。さっきの踵落としで作った凹みか!



「くっ!」



動作が遅れたことで回避が不可能となりシノンは体を喰蝕者の巨腕に捕まれる。肥大化した巨腕は容易にシノンの膝から肩までを包み、行動の一切を封印した。

シノンは拘束を解除させようと遠隔で粒子を操るが如何せん攻撃力が足らず、再生力に上回れてしまう。



「星穿のっ!がはっ!」



搔き集めた粒子で1つの星穿の矢を作り出すが放つより速く喰蝕者により壁に叩きつけられる。

身体強化だけでは避け切れない程の衝撃にシノンの背骨に罅が入る。

喰蝕者はシノンの拘束を解かず、壁に圧しつけながら擦り下ろすように壁際を駆け回る。

部屋中を駆け回り幾つもの抉れた跡ができた時、ようやくシノンは拘束を解かれた。


叩きつけられた瞬間にどうにか再構築(ディフトロシア)を使い壁と背中の間に粒子を挟んだがダメージから逃れられた訳ではない。上半身、それも背面の骨が悉く損傷を受け、頭部に受けた衝撃で脳震盪を起こしている。


落ち着け。魔力を練るんだ。まだ、俺には勝ち筋がある。

立て!立つんだ!



「あ…!」



幾ら心が奮起していても、肉体が付いて来ることはなかった。立ち上がろうとした膝が崩れシノンは地面に手を着いた。


くそ!肉体の限界か!

脳への負荷より先に攻撃を受け過ぎた体に限界が来た。

やばい。もう、足が動かない。頭も上手く働かない。



「ゔあぁぁぁ」

「っ!」



自身の目の前にまで接近した喰蝕者へ視線を写したシノン、その巨腕は高く掲げられ今にも身動きの取れないシノンへと振り下ろされんとしていた。

回避か防御、どちらの選択肢も今のシノンには実現ができない。

振り下ろされる拳を前に、シノンは着撃地点に魔力を集めるしかできなかった。


無慈悲な重撃がシノンへと振り下ろされる。シノンはダメージを覚悟し、それを最低限にするために着撃点へ魔力を集中、粒子のクッションを生成する。

しかしそれらを易々と貫通し巨腕はシノンに直撃し、裁判所全体を震わせた。



「おい、おそこ何か変じゃないか?」

「何言ってるんだ?いつタラスクが来るか分からないんだから集中しろ」

「いや、本当に…」



あまりの衝撃と振動に、近辺に配備されていた騎士団員すらも微弱に余波を感知した。

しかし、その先で今何が起きているのかを知る者はいなかった。


地面から話された巨腕から小粒までに粉砕された石が零れ落ちる。

巨腕によって潰された床にはシノンと消えゆく粒子が落ちていた。

絶え絶えの呼吸、激痛の走る体、自身の命が確実に弱まる感覚をシノンは感じ取っていた。


肺がやられた。骨も追加で数本逝ったな。ここからどうやって勝つ?

生跡も上手く維持できない状態で戦えるのか?いや──無理だろうな。

約束したんだ。それなのに…動けない!


為す術なく負けた。約束を叶えられなかった。多くの無念をシノンは嘆いた。

意識を手放すシノンの瞳から1粒の涙が零れる。



ーーー



明かりは灯されず、陽の光だけが照らす病室。

一ノ瀬シンは病室のベッドで横になる少女の隣に座っていた。

酸素濃縮器と長いチューブ、輸液ポンプなどが配置されている。



『先輩…いるっすか?』

『ああ、いるよ』



少女のか細い声にシンは泣きそうな声で答えた。

その光景を果の見えない暗い空間で1人、床に座ったままシノンは見ていた。


また、この記憶か?でも前と違う。まるでスクリーンを見ているような視覚だ。

死に際だから見せられたって言うのか?



「おそらくそうだろうね」

「!」



いつの間にか現れた自分と瓜二つの金髪の少年にシノンは驚く。



「どうして──」

「あの金色の世界もここも、僕と君の精神世界さ。どっちの空間にどっちが現れても不思議じゃない」



どうしてここに居る。そう聞こうとしたシノンよりも早く金髪の少年が答えた。

少年はそれ以上の事は言わず、シノンんの横に座って唯一この暗い空間を照らす記憶を写した画面を指さした。



「君は今僕じゃなく、これを見るべきだ」



シノンは彼の存在について思うことがありながらもそれらを抑え少年が現れた時から時間が止まっていた画面へと目を向けた。

シノンが観測を始めると同時に画面に映し出された記憶も綴られた物語を再生する。



『目が見えなくなるのは、苦しいですよ。先輩の顔、見れないじゃないですか』



少女が光を失った虚ろな瞳でシノンを探す。

シノンたちから、シンの様子は背中以外見ることができない。それでも十分にシンの視線が少女を見れていないことは分かった。



『アイゼンメンジャー症候群でも、稀らしいな』

『もう、ここ来るたび、ずっと、泣いてますよ先輩』



病院の床にシンの涙が零れる。少女の言葉からシンが何度もこの病室へ、少女の元へ訪れているのは明白だった。



『結局何もできなかった。救うと決めた人1人にすら、俺は何もできなかった』



無力感から来る悔しさから、シンは制服を千切れんばかりに強く握る。

傍らで眠る少女が居なければ、きっとシンは今にでも暴れ出してしまうだろう。

そんなシンの頬を見えているはずのない少女の手が触れた。



「!」

「泣か…ないで、ください…」



少女が言葉を絞り出す。心電図機械の画面に映る心電図が弱まり出す。

少女の命は残り僅かだった。

少女の願いのような声とは裏腹に少女の消え入りそうな声にシンの涙は勢いを増す。



『先輩…手ぇ、握って、貰えますか?』

『!』



シンの頬に触れていた少女の手が少しだけ離れる。

シンは震える両の手てで今にもベッドへ落ちそうな少女の手を握ろうとした。

最後の言葉を告げた後に──



『▯▯…俺は、お前が──』



言葉を言い切り、握ろうとした少女の手はシノンの手をすり抜けた。

シンの告白を聞かず、最後の願いを叶えられず、病に伏した少女はせの生を終えた。

そこまでで写された記憶は終わり画面は真っ暗になった。照らす明かりが消えた空間は果ても始まりも分からない程暗く染まる。



「あの少年は、過去の君なんだね」

「ああ。でも俺にあの時の記憶はないよ」



今なら分かる。あれが理由で俺は東京に引っ越し、転校をした。

高校2年生の夏から転入した学校で俺は失い、埋めた記憶の上で生きていた。



「そうか。俺はまだ逃げ続けてたんだな」



とことん自分が屑だと分かる。

好きだった相手に思いも告げられず、最後の願いも叶えられず、約束も果たさず。

また俺は、現実から目を背けた。自分が最低すぎて笑えて来るよ。



「こんなんで、何が臆病じゃないだ!

 俺は逃げてばかりだ」



一度だってその場で向き合ったことなんてない。全部が遅い。全部にもう手が届かない。

こんな俺がどうして英雄に──



「シノン」

「!」



シノンの心が陰る程に闇が侵食していた空間が少し晴れる。



「遅くないよ。まだ遅くない」

「何、言って…過去になんて戻れないのに」

「記憶を失うのは、その時の君が今じゃ受け止めきれないから閉ざしたんだ。

 でも今、一端であれど君は記憶を思い出した。まだ遅くないよ。

 受け止めるのに時間が掛かっただけだ」

「でも死んだあの子は──」

「どの道、彼女死ぬしかなかっただろう。なら受け止める時に遅いも早いもない」



本当にそうなのか?それが今俺に記憶を思い出させた意味なのか?

受け取るのが遅くないとしても、生きている彼女に何もできなかったのは事実だ。

俺が無力だったことに変わりはない。



「…少し、待てるかい?」

「?──何を…?」



シノンに一言告げ、少年は集中するように目を閉じる。数秒、眉間に皴を寄せ考え込んだ後に少年は目を開いた。



「シノン、君は今から僕を()()()事ができるか?」

「ま、待ってくれ。何をするって言うんだ!?」

()()。聖女の定めを知った今ならその言葉の重みが分かるはずだ」

「!」



運命──前世ではまるで不確定、頼るだけ損をする存在だったそれも、この世界では大きな意味と力を持つ。

きっと目を瞑る動作で何かを観測したんだろう。

説得するために運命という言葉を使うのならそれなりの説得力を得る。だが俺は彼が何をしたのか分からない。それを度外視にして新次郎と言うのは少し難しい。

でも今、それしかないのなら──


シノンは顔を上げ少年の目を見返す。

2度顔を合わせた間柄の相手の言葉を信じる。それはとても難しいことだ。

だがシノンが縋る者はそれしかない。

大きく深呼吸をして、シノンは答えた。



「ああ、信じる!」

「ああ。それでいい。

 君は旅を続けるんだ。何があっても、何を失っても。

 その先に必ず夢とは違う。()()()()()()()がある」



あやふやで、不確定で普通の人間が聞けば売らない程度にしか思えない言葉でも、今のシノンを照らすには十分な光だった。

シノンを照らす光が、上から降りる。



「時間の様だね。君との繋がりが強くなり僕も君を通して少しだが外の世界を知れるようになった。

 あの少女を助けておいで。それが今の君にできる事だ」

「ああ、ありがとう」



シノンの体が蛍の光の様な粒になって消えていく。

消えゆく体を見て、シノンは思い出したように少年に聞いた。



「そういえば名前、教えてくれないか?

 俺の名前は知ってるんだろ?」

「そうか。名乗りがまだだったね。

 僕はルキウス。今は取り合えずそう呼んでくれると嬉しいよ」



ルキウスと少年が名乗り終わった時、シノンの体は消えた。

消え去る前、シノンは彼の名を聞き笑みを返して去っていった。



ーーー



勝利を確信した喰蝕者、完膚なきまでに捻じ伏せ、文字通り叩き潰した少年に、もう起き上がる力はないと判断し背を向け、穴の開いた壁へ1歩踏み出した。

シノンから目を外してたった1歩を踏み出しただけだった。その1歩で喰蝕者は右手を失った。

驚きの余り振り返り距離を取る。瞳に移るシノンは見違える程の魔力を迸らせていた。



「不思議と、気分がすっきりしてる」



喰蝕者に目も呉れずシノンは感覚を確かめる様に手を握ったり広げる。

喰蝕者が目の前のシノンを先程とは別物だと認識したことで向けられた殺意にシノンはようやく喰蝕者へと視線を向ける。



「そろそろ復活の頃か。ここは危険だ。少し移動するぞ」

「!」



喰蝕者へ視線を写したシノンは次の瞬間には距離を詰め頭を掴み穴の開いた壁から外へ飛び出し空高く跳躍しする。

余りの高さに本人でさえ少し驚くもシノンは冷静に喰蝕者へ自由落下の速度を上乗せした剣を振り下ろし地面へと叩きつける。

着地と同時に巻き上がった砂埃から抜け出して周囲を見回すとシノンはその場所に既視感を抱いた。



「ここは、孤児院…」



降り立った孤児院を見渡しても喰蝕者が何かを感じる素振りはない。

魔物へとなり下がった喰蝕者は目の前に立つシノンという驚異の排除以外の思考を捨てている。

獣の様に走り出し、シノンへと拳を振るおうとしたがその体はシノンの目の前で止まる。

粒子による四肢の拘束、喰蝕者は体の自由を奪われた。



「せめて、その顔は傷つけずに終わらせましょう」



掲げられた剣が膨大な魔力を帯びていく。

喰蝕者の目は圧倒的な魔力に畏怖し、何かを叫ぼうと口を開く。



「どうか安らかに」



しかし、その叫びが轟くよりも速く。シノンの剣が自身の体を断った。

右肩から左腰に掛けての両断、生跡を使わず剣であるにも関わらず膨大な魔力がそれを可能にした。

切り捨てた体が地面へと転がる。



「貴方がしたことは許されざる事だ。

 ですがその根底にあった信念は称えられるべきものだ」



そう言い残して、徐々に崩れ行く喰蝕者の体を孤児院においてシノンは立ち去った。



ーーー



避難所に、先生の姿がなかった。

どれだけ探しても、振り絞った声で名前を呼んでも先生が見つけることも、声が返って来ることもなかった。

だから門の前に居た警備兵さんにバレないように忍び込んだ。



「先生…先生!」



願いを込めて走り続けた。忘れ物をして孤児院に取りに行っているのかもししれない。

それ思って孤児院まで向かった。

どれだけ息が切れても危険だと分かっていても足を止めずに走った。

その先に見た物がこんな光景だなんて思わずに。



「せん、ぱい?」



やっとの思いでついた孤児院には、変わり果てた姿の先生を剣で切った先輩がいた。

何を言っているか分からなっかったけど、先輩は先生に何かをいって跳んでいってしまった。

私は先生の元に駆け寄った。



「先生!先生!」



体を揺らしても、反応はない。それどころか体の端から徐々に崩れ始めていた。

私は冷静ではいられなかった。どうして先生がこんな姿になっているのかとか、どうして戦っていたのかとか、そんな事を考える余裕はなかった。

私の中で出た考えは只1つの事実だった。


()()()()()()()()()


その事実を噛みしめた時、沢山の悲しみが溢れて、私は先生の死体を抱いたまま全てが塵になるまで泣いた。



ーーー



「余興は終わったね」



大聖堂屋上、ジャンヌが聖女として覚醒するまでの監視を任せられたジオが都市の中央に聳え立つ城を眺めて言った。

今も大聖堂の中でジャンヌが窓から戦いが始まる光景を見ている。



「…時間だ」



ジオの言葉と同時に、都市全体が光り出す。

都市全体を使用した魔導陣の発動に、作戦に参加している全ての者が武器を抜く。

魔導陣の光が強まり、それを吸収するように都市の中央へ光が集まる。

魔導陣を照らした光の全てが都市の中央へと集まり飲み込まれる。光も音も収まり流れた静寂は揺れる大地によって破棄される。


ミラーナを囲む湖さえも波打つ揺れと共に、崩落し出した城の地下から目覚めし魔獣が地へと這い出る。

獅子と竜を混ぜ合わせた顔、棘の生えた甲羅、鋼鉄の如き鱗、6本の足、蛇の体を持った尾。

異形という言葉の体現。魔の醜悪を凝縮した存在。

誰もが言う。魔物とはまさにこの魔獣言うと。



「猖獗を極め、雷霆を飲み込む暴嵐より生まれし蹂滅の代行者よ。

 再び、我らが人類に試練を」

実際シノンの魔力は頭おかしいくらいある。

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