わたしの子
「私になにか伝えたいことなどあるのでしょうか」
「オランジュ、貴方を守ってお父上は亡くなったのよ。そんな風に言わないで」
オランジュは望実を見上げ首を振る。何もかも諦めているような少年らしからぬその瞳に望実は膝をついて目を合わせる。
「なにか見たの? それとも言われた? 迷っているなら言った方がいい。もちろん私を信頼できるならだけど」
「母上を信頼しないわけがない」
そう力強く言ったはずなのにオランジュは目をそらす。今更何を言われても驚けそうにないのだけれど、望実にとってはそうでも、オランジュにとっては違うのだろう。
「ここぞという時がいつでもあるわけじゃない。私もこっちに来てから何度もそう思った。だから口を開けるなら言えばいい」
「……私は父上の子ではないからです」
「そうなの……そ、えええっ」
「なので言いたい事とはそれだと思います」
母親は彼女なのかを聞くのは躊躇われた。それに頭上に何も言わなくても答えがある気がする。
前に聞いたではないか。塔に閉じ込めるのは誰にも渡したくないからだと。
王様は塔から彼女を出すことができなかった。王様亡きあと彼女の養父は尽力したがそれでも彼女とオランジュを連れ出すことは叶わなかった。
少し視点をずらすだけでちがう物語が見えてくる。
ペッシュが主人公なのと見ラベルが主人公なのでは同じ相手でも違う面が見えるのと同じように、オランジュの中で作り上がっているストーリーと望実が今見えているシナリオはまた違う。
「なんっていったらいいのか……王様ってこんな優しさと慈愛溢れる笑顔なのにオランジュの母上と相手に恨みにでも思ってたのかしらね」
「……そうだと思います」
「ええ。そうでなければ二人を一緒にして寝室に飾るなんてできないって。私なら無理よ。何かしないと気がすまない程に腹をたてていたか……それとも本気で二人とも大切に思っていたかのどちらかではないかしら」
望実はオランジュの手を握る。小さくて温かい手だ。分からないことだらけの異世界生活で唯一分かっていたのはこの子を救いに言ったのだけは正しかったのだと言うこと。
「誰が親でも、誰の子でも、オランジュ……私にはどうでもいいことなの。だって私はこの世界の人ではないし、王族でも、王妃でもない。贈り人だから。あなたの小さな声を聞いてこの世界に送られたのなら、それでいい。ねえ、オランジュ。私はあの塔からあなたを連れ出せたからこの世界にいてもいいのだと思えたの。それぐらいは信じてくれないと困る」
オランジュは床に突っ伏して声をあげてないた。
聡明で理解力があるとはいえオランジュは幼児だ。誰かに言われなければここまではたどり着けないだろう。そして、それは公爵ではない気がした。彼は真の王に仕えているのだろう。それが正しいか正しくないかはこの際置いておく。
「オランジュ、あなたに最初にこの話をしたのは誰なの?」




