我が国の宰相
「ノバ、オランジュを王の寝室につれてきてほしいのだけどいいかしら」
「分かりました」
エスクードが伯爵に人手を手配し終えるのを待って望実は一緒に部屋を出る。
「いつからどこまで分かっていたの?」
「ですから、何度もいっておりますが私とて分からないことだらけです。そもそもあの方と彼女を見送ったのはイル、グルナード、王だけです。私は王が帰ってくるまで知りもしませんでした。聖女候補と伯爵の行動は貴女が動き始めてからそれとなく注意をしていました」
そこでエスクードは言葉を止めて静かに望実を見つめた。望実も話し出すのを待つ。
「予測と理解を越えたのは貴女が動くからです。先代もそうでした。何をするのも無鉄砲というか無計画で説明などなくて、ただ一本筋だけは通っていた。不思議な方でした。グルナードが貴女を自由にさせているのはそのせいでしょうね」
「それはわかる。時々嫌な目をするなって思ってたから。死んだ人を見るみたいな目」
「本人が聞いたらショックを受けるのでお心に止めるだけにしてください」
「エスクードはポメロでないなら母が好きだったの?」
何を言い出すのかと苦笑いするエスクードを思わない望実は睨んでしまう。なんだか意味深なことをずっといっていったし、ポメロの記憶にもエスクードは度々出てくる。
「好きというよりも畏怖の方が大きかったので。妃殿下は……このまま呼ばせてください。妃殿下は考えもしないかもしれませんが、神殿で幼少期を過ごした私には恐れ多すぎてそのようなこと考えることすらなかったのです。あの方は贈り人ですから、この世界の常識とは違っているので、ああも真っ直ぐでいれたのでしょう」
「そうかもしれない。私の国は特に自由だから」
「神罰や戒めはないのですか?」
「そういう国もあるけど、たとえば地震や災害が起きたとしても今はそう呼ぶことはほとんどないわ。理由を科学者が見つけてくれるから」
「科学ですか」
難しい顔になったエスクードに科学という概念はあるのかと望実は驚く。魔法とかファンタジーと科学は並び立たないイメージがある。
「他国では科学者もいますよ。電気がある国もあります」
「なにそれ……文化的な差がありすぎない?」
「そうですね。始めてみたときは驚きました。ただ我が国では無理でしょう。基本はどうしても魔力だよりです。魔石では持ちませんし」
「そう思うととことん不自由なのね。この国は」
どこか遠い目でエスクードはここではない場所を見つめた。望実は思わずエスクードの服の裾を引っ張っる。
「不自由は自由なのです。国同士の戦はないですが小競り合い、革命、派閥同士の争いは依然ある。力を持ちすぎず、圧倒的な力に守られている我が国はどこよりも平和です。その変わり神に依存しているわけですが……ただそれも揺らぎつつある。昨今神殿への奉納や祈りを忘れる貴族も多い。だから皆、神罰だと思ったのですよ。心当たりがあったわけです」
「それならエスクードが病気にかかったのは理屈がつかないのでは?」
「予算を減らしました」
「えっと神殿の?」
「ええ、あの地で見たような腐敗した神殿へ出す金はないとイルともかなりやりあいましたが、正常に戻るまでは予算は戻さないとやり込めましたので」
イルがあまりエスクードをよく言わない理由がわかった気がする。
「そのせいだと見舞い客にまで言われましたよ。妃殿下のおかげでほとんどの理由がわかったわけですが……私が神罰ではないと思ったのは貴女が現れたからです
」
「私が?」
「神に祝福されない土地に贈り人が贈られるわけがない。だから……いえ、女神がいずともこの国はまだ神の国なのです。望実様」
エスクードが跪いて最上の礼をする。
望実ははっとして我に返りその敬意を受け取った。




