眷属と親族
何度か見た光がどこか懐かしいのは彼女だったからなのかと望実は振り返る。
「……貴女はもうこの世界にいないの?」
『いいえ、違うわ。私はこの国そのものになったの』
ポメロの顔からただの目映い光に戻った彼女は望実と向き合っていた。
「私はこの世界でなにをすればいい?」
『ただ、貴女が思うことを』
温かいものに包まれている気がして望実は目を細める。彼女は自分にとって叔母と呼べる存在なのだろうかと望実もまた光に飛び込んで抱き締めた。
その時、望実にポメロの記憶が流れ込むようにして入ってくる。父と母の出会い、別れ、そしてこの国と神々の国でなにかが起きているのかも。
『貴女がお母様にそっくりで、あの人にもそっくりなことが嬉しいの。いつまでも見守っているから。この国を、リヤンをどうか守って』
「私にそれができるなら」
会話ができるのは母親が望実がそうとは気づかないうちに教えていたから、ゲームの内容がこの国と似通っているのは彼女もまたこの国にいたから……いやそれだけでは想像がつかない。この国を今の母は知らないし、子供たちは母がいた頃には全員は生まれていないのだ。
『それはいずれまた分かること。今すぐに大量の情報をいれると選択肢が狭まる。貴女が成長すれば必ずたどりつける』
「そうね。無理に詰め込むと感じなことが抜けていきそう。記憶力もあやしいし」
『望実。オランジュを、たった一人のあの子をよろしくお願いします。あの子が国を壊す訳じゃない。それにあの子が、初代の血を引く王がいなければ鍵は使えなくなり、扉は意味をなさなくなる』
「それなんだけど、どうして扉が無くても大丈夫だって言えないの?」
この国に来て疑問だったことのひとつだ。これだけ長い間大きな戦争はこの世界では一つも起きていない。それなら今更戦争をしようと思うのは馬鹿馬鹿しいのではないだろうか?
『それは……考えても見なかったわ」
「人は信頼できないかもしれないけれど、結構やるときはやるのよ。時折権力や欲望に負ける人が現れてもほとんどの人は穏やかな日常を愛しているはずだから」
『そうだといいと思う。すべてが報われないとしても、私が消えた意味があったと思えるから』
「ポメロ」
名前を呼ぶが彼女はもうどこにもいなかった。顔をあげるとエスクードと目が合う。
「私、ここにどれぐらいいた?」
「ほんの数分です」
石棺から出ようとすると抱き上げられる。どうしてだろう。もう、エスクードが怖いとは思えなかった。
「一生分いた気がする」
「先程の脱け殻は? どこに消えたのです」
こんな状況でも先生のマッドサイエンティストぷりは変わらないならしい。
「先生、彼女は私の中にいる」
「ということは、あのまま消えてしまったのですか? 最高品質の人形の研究ができると思っていたのに」
「そんな人に絶対渡すわけないでしょ。ほらたって、やることが沢山だしエスクードにも色々聞かないといけないけど、まずはオランジュを落ち着かせないと」
そう言えばと望実はエスクードを振り返り、全身全霊を込めて一度だけ腹に頭突きした。エスクードらしからぬ声がして望実はふんと身体の向き変える、
「オランジュをいじめた分。それで許してあげるから、ほらいきましょ」
「随分元気になりましたね。こっちはがっかりとげっそりでどうにも……妃殿下がさわる前に少しだけでも触らせていただくべきだした。そもそも妃殿下は妃殿下でないのですよね。ポメロ様でもないのですし、今後はどういたしましょう」
望実は踞っているエスクードと真剣にずれているノバを見て、ふっと笑った。
「妃殿下でいいわ。私、その呼ばれ方結構すきなの」
ポメロが大好きだった王様を思い出せるから。忘れずに覚えておきたいから。
「ねえ、そういえばエスクード。あなたポメロが好きだったの?」
「そうですね。人間として……というのはおかしいですね。彼女のあり方は尊敬していましたよ。そう言う意味では好きでした」
痛いというかのように腹をかばってわざとらしく歩くエスクードにこういうところは一生変わらないんだろうなと望実はため息をつく。
「何か聞けましたか?」
「聞くというより、感じれるといった方がいいかもしれない。今ならエスクードやイルがいっていた力の流れがなんとなくわかるような気がして、だからどこから歪みが出ているかもぼんやりとだけどわかる」
「それもまた訓練です」
「馴染むまではまだまだかかりそうだけどね。あ、エスクード。伯爵令嬢とあったのはオランジュなのね。結局、王子様と結婚して玉の輿を夢見てたとかなのかしら?」
エスクードはふと考えるような仕草をして首を振る。
「オランジュ殿下の世界は貴女です。だから貴女の話を聞きにいったのでしょう」
「ノバ、うじうじしないでしゃきっと歩いて。私の話? 私、ちっとも伯爵令嬢と気が合わなかったのだけど」
「貴女はグルナードといい勝負ですね。妃殿下と同じぐらいの年頃の身近にいないではありませんか、それで、おそらく背伸びした世界を垣間見られたかったのだと思います」
「そうなのかしら」
「妃殿下がそれほどまでにオランジュ殿下を心配なさるのと同じぐらいオランジュ殿下もまた妃殿下をご心配されていのですよ」
望実は背の高いエスクードを見上げながら「ありがとう」と頷いた。




