たどりついた答え
世の中には似た人が三人いるなんて事を聞くけれど似た人どころではない。けれどどこか望実とは違う雰囲気を感じる。もっとおしとやかそうというか、大人しそうというか、お嬢様な感じだ。思わず口元に手をあて息をしていないことに気づく。
「ポメロは死んでいるの?」
望実がこの世界に来た時にはもうすでに亡くなっていたのだろうか?
「ポメロ様は……なんと言えばいいのでしょうか……女神の力によって動いていた人形というのが近いかもしれません。貴女がこの世界に来ても来なくても時たてば動かなくなるそんな存在だと思っておりました」
「まって、伯爵令嬢の元に現れたのは彼女なの?」
「そんなはずはない。確かに神が作ったとしか思えない作品だが、この人形は魂をすでに失っている。動かせるとは思えない」
「ええ、きっと彼女の眷属の仕業なのでしょうが」
眷属とはなんだろうとエスクードを見つめるとエスクードは望実を静かに見つめ返す。
「この国では妖精は力を失い。魔物も存在を許されない。ありとあらゆる魔が封じられ、唯一宝玉のみが力を持っているのです。宝玉は人に力を与えるものです。では逆に宝玉に力を集めることができれば人も動かせる。ノバが言ったことはほとんどが正解なのですが、正確には貴女が作った人形と原理は一緒です。ただ、彼女はこの国そのものの力を吸って動いていた」
「じゃあ流行り病も、セミノールのような子が生まれたのも私のせいなの?」
「いいえ」
「ペッシュの村は? まってそれなら王様、王様とオランジュの母親を殺したのも……」
「いいえ。妃殿下……いいえ。贈り人様。違います。違うのです。私からは説明できない事が多い。だから貴女の力が目覚めるのを待っていました。このまま力を先程の扉にしたように」
望実は震える指先をぐっと丸めて力一杯握りしめ、ゆっくりと開いていく。物言わぬ人形の今にも開きそうな唇に触れそこから首元にかけて指を下ろしていく。冷たい皮膚そして動くことのない心臓。そこに掌を望実はそっと置く。
「先生はここまで知っていたの?」
「まさか、むしろなにも知らず驚いています」
「これも全部エスクードの作戦通りってことかしら?」
エスクードは苦笑いをすると首を振った。
「本当は恐らく扉が開くときに貴女の力も開くはずでした。この世界の力あるものの力がもっとも強くなる日に。なにもかもうまくいくことなんて無いのです。それはこの世界の神も同じ」
皮肉げに自嘲するエスクードの声に意識が向いた瞬間ずんと何かに引っ張られる感覚に望実は思わず手を放しそうになる。ビクッと全身が震える。手に触手のような動く糸が絡んでいる。黄金の糸はやがて望実の腕を飲み込むように動き、望実の脚が浮く。
「ちょっと、なにこれ」
ずるっと全身がポメロの中に飛び込むように吸い込まれていく。
行ってらっしゃいと誰かの声が聞こえた気がした。
『この世界にいる限り普通の生き方はどちらにもできないの。わかっているでしょう? 貴方が一番』
どこかで聞いたことがある声が耳に飛び込んでくる。望実は目を開けて辺りを見渡す。お城の中庭だろうか? 何度か来たことがある場所は望実が覚えている中庭とどこか違う。
『俺は今でも帰りたいと思っている。だからついてきてくれと頼んでいる』
『貴方の願いを使っても無理なのよ』
顔が隠れて見えないが二人とも豪華な衣装を着ているので貴族なのだろう。
『この子はきっと想定外になる。姉達の子供がどう扱われているか私はずっと見てきたからわかる。お父様に預けるべきなのかもしれないけれど』
『それでは元に戻るだけだろう? とんでもない願いを叶えてかっさらった会いたくもない男に今更会ってくれるわけがない』
『それでもこの子のためにお願いしないと』
いつまでもここにいてはいけないと望実が動くと二人の間に輝く光が見えた。その眩しさに望実は思わず目をつぶった。
次に目を開けると今度は城の中に戻っていた。
『私の可愛いポメロ。お願いがあるの』
『主様。なんでも申し付けください。必ずやこの身をかけて叶えましょう』
『もしかしたらこれはお父様に逆らうことかもしれない』
『今更なんですか。貴女の願いを叶えることが私の幸福なのです』
『いつか、私の娘がこの世界に訪れるかもしれない。来ないかもしれない。その時まで貴女が私のそして、娘の代わりを努めてくれないかしら』
『な、なにをいっておられるのですか』
『貴女と私は双子みたいなもの。ちょっとした違いが身分をへだてたけれど私にとって貴女は本当の姉妹以上に大好きな妹だった。こんな、あてもないひどい置き土産しか残さない姉など嫌いになるかも知れなけれど』
『……様。嫌いになるわけないじゃありませんか。そのようなお顔をされなくてもポメロは分かっております』
はっと望実が息を飲むと光の塊でしかなかったものが望実そっくりなもっと幼い少女に姿を変える。
これは過去なのだろうか?
『もうよろしいですか?』
そう声をかけて奥から歩いてくる男性を望実は見たことがあった。王様だと息を飲む。
『彼女を頼む。おまえの望みがなにもかもうまくいくように願っている』
『よろしくお願いいたします。私のことはお構い無く。あまり存在を知られたくないので大人しくしておりますので』
『彼女と俺の子供の力をわけたから俺達の子供みたいなもんだ。おまえの愛する人との障害を取り除く盾になってくれることを願っている』
『ありがとう。ポメロ様、よろしくお願いいたします』
『王がそのように膝をついてはいけません』
『結婚の約束をするとき人々はこうやって申し込むのですよ。ポメロ』
『そうなのですね』
ポメロと王様はこうやって婚約して結婚したのかと望実は瞬きする。また目を開けていられないほどの光に飛び込まれ望実はぎゅっと目を閉じる。
『なぜ、壊れる速度が早い。もしかしてあの方が……いえ、それなら私も消えるはず』
『……ポメロ』
『王。いかがなさいました』
『病に……彼女もかかっているようだ。もし万が一のことあれば息子だけは』
『もちろんです。けれど、まずはお身体を』
脚がもつれ転げそうになった王を抱き締めたポメロの手が恐ろしいほどに光輝く。
『……ポメロ』
『な、なぜ。いらない。こんなものいらない。かえって元にもどって』
『落ち着くのだ。大丈夫だ』
『だ、だめです。私から離れて。今すぐ私を塔に閉じ込めてください』
あれと望実は首をかしげる。王様が塔に閉じ込めたのは王妃ではなくオランジュの母親のはずだ。
『そんなことできるわけないだろう。あの方に頼まれたのだ』
『触れないで。ただでさえ、弱っているあなたの力を奪うなどできない』
自分の状況もまだわからないままだったが、望実は泣きそうになりながら二人を見つめる。これだけはわかった。ポメロは王様を愛しているのだ。役目と自分の命と王様を天秤にかけ何を選ぶべきか悩んでいる。
『ラトナプラにいった二人がいつ戻ってくるのかさえわかれば。王城にそなた一人を残すのは忍びない。イルとエスクードには頼んである。グルナードはそなた付きだ。なんでも相談するといい。まあ、あれと話すことはあの人の話ぐらいだろうが』
『私の命を使ってくださいませ。お二人が残したお子の力を残滓にこの器は動くことはできなくとも存在はできます。今、王が亡くなれば残される殿下はどうなるのですか』
『よき家臣に恵まれた彼らに任せよう』
ポメロは手を伸ばし手に力を込めて王の心臓の辺りに力を流し込む。この国では力は使えない。神でない限りは。
『や、めろ……』
『いえ。やめません』
『あいつ、にもうしわけが……たたな』
『愛しているのです』
二人が見つめあった瞬間なにかが飛び込んできた。
『家族として。王の妹のように思っておりました。私の姉のような方と同じぐらい大好きです』
泣きじゃくる美しい女性の肩に手をおいて望実は力を流し込もうとする。
『おかしいですね』
『……あなたが嫌いです』
『そんなことはどうでもいいのです。王と貴方に一から力を送り込まねばお二人はこのまま』
『貴方が奪ったくせになにを』
突き飛ばされたポメロと共に望実の意識も飛ぶ。




