隠された宝
流行り病が出ていたせいもあり、望実は城の中全てを見たことはない。こうしてみたこともない廊下を歩き、知らない階段を下りていると好奇心が擽られる。
「ここは王の寝室の真下の部屋です。普段は使われておらず、王宮のほとんど使われない資料が保管されています」
エスクードが古そうな鍵を使って開いた部屋は埃がまっていてカビ臭く、思わず望実は口元を押さえる。それをみてエスクードはそっと望実にハンカチを渡す。ハンカチを持っていないのがバレているのも、胸元にしまっていたハンカチを使うのもなんとなくもやっとしたが、ハンカチに罪はない。口元に当てて部屋にはいる。
ふと横を見ると布を口に巻いていつの間にかゴーグルのようなメガネをかけているノバが目に映る。なぜこんなに完全装備なのだろう。これから行くところはこれ以上に酷く汚れた場所なんだろうか?
不安になって思わずエスクードの服の裾を掴む。エスクードはそれを咎めることなく少しペースを落として歩いてくれる。
「何があるの?」
「会えば分かるかと」
それだけ言うと一番奥の本棚からごそっと本を出しエスクードは何かを引っ張った。
ごごごっという地鳴りのような音が響き図書室の暖炉のように地下へ続く階段が現れる。
「あまり驚かれないのですね。もう見つけた後ですか」
「知ってるの?」
「何をでしょう」
にっこりと口元を歪めて笑う男にそう言えばこういう男だったと望実は裾をぱっと放す。
「暗いのでよろしければお手を」
ランタンに火をつけるとエスクードは階段を一段下がり望実に手を差し出した。
「大丈夫。先生にしがみついていくから」
「なぜです。歩きにくいのでエスクードに頼ればいいでしょう?」
「先生の声を聞いているとなんとか頑張れそうな気がするの。エスクードじゃダメなの」
「それは残念です」
ちっとも残念そうではない声で残念そうな顔を見せてエスクードが進んでいく。からかわれているのか遊ばれているのかモヤモヤしながら望実はその後をノバの腕にしがみつきながらゆっくりと進んでいく。
「あと三段ほどです。足下に気をつけて」
「わかった」
「妃殿下、体重をいきなりかけないでください」
「お、乙女に重いとか言ったら犯罪なのよ」
「乙女というのはもう少ししおらしく『抱き抱えてくださいませ。怖いのです』と言うものでは? ですから騎士も哀れに思って仕方がない背負ってやろうとなるのです」
百年以上生きているからか発想が古いなと可哀想な目をして望実はノバをみる。ノバはぎゅっと望実の頬を引っ張った。
「痛いじゃない!」
「それだけ大声を出せる元気があるなら結構です」
先生は厳しいとぶつぶつ望実が愚痴を言えば、嫌ならエスクードに抱えられればいいのですとノバが返す。
「お二人はいつの間にそのように仲良くなられたのですか?」
「最初から仲良しよ。ね、先生っ」
「なぜそうやってわざと誤解を招きかねない事を言うんです! 表情は見えないが私にはわかる。物凄い顔してる宰相が前にいるのが」
「エスクードも仲良くしたいならこれぐらいストレートに言えばいいんじゃないの?」
遠間しな嫌みではなくと望実は鼻を鳴らして言う。
「では、仲良くしてください」
急に立ち止まったエスクードが望実の耳元でそっと囁く。変な色気のある声音に望実は鳥肌が立つのを感じた。
「ちょっと、それはやめて」
「妃殿下は声に弱いのですね」
ディオールでなくてもいけそうですねえ。と楽しそうに言うエスクードの脛を蹴ると望実はふんと顔を背ける。
「私から言わせればあなた方も十分仲良しですよ」
疲れきった声でぼそりとノバが呟いた。
石に囲まれた廊下を歩いていくと行き止まりにたどり着く。ペッシュと歩いた神殿の奥のようだと望実はそっと扉に触れる。
「鍵はないの?」
「鍵は貴女です」
そんなこと言われてもと望実はあちらこちらに触れてみるが何も起きない。
「妃殿下、ウェルテクスの家でやったように」
「ええ、やってみるわ」
自分の中に力が流れているのを想像する。次に掌にその力を集中させていく。そのままゆっくりゆっくりと扉に力を流し込んでいく。
「妃殿下、いったいこの光はなんなのですか……」
「これはもう聖力といえるものではないな」
扉は眩い光を放っていく。望実は少しずつ力を込めて前へ進んでいく。扉が人が通れるぐらいに開いたのを見て望実は扉から手を離す。
「ふう、開いたわよ」
「ええ。ありがとうございます」
ランタンをもったエスクードが先に入り望実はその後に続く。
「随分大きな空間ね。どこかに似ているのだけれど」
「何度か足を運ばれた場所に似ているはずです」
昔、テレビで見たピラミッドの内部のような石作りの空間を眺めながら望実は呟く。
「不思議。なんだかとても懐かしい気がして……」
神殿の内部に似ているのだ。イルと何度か行った贈り人が送られてくると言われている部屋とよく似ている。
「ここは贈り人が帰られる場所です」
「……えっ?」
「贈り人は様々な国に送られますが、帰るために我が国にたどり着かなければいけません」
「私の父がここに来たのって」
「お察しの通り来た場所へ帰るためです」
なら父と母もここに来たことがあるのかと望実は冷たい石の壁に触れる。
「でも父は帰らなかった」
「ええ。あの方はこの場所に来なかったのです」
「なぜ?」
「それを知る鍵はただ一人」
中央にある棺のような石の蓋をエスクードが押していく。開いた石の中を恐る恐る望実が覗くと誰かが眠るようにその中におさまっていた。
この顔、見たことがある。この子を知っている気がする。望実は目を擦ってもう一度彼女を見つめる。
そんな望実を見つめながらエスクードは低い声で囁いた。
「この方こそポメロ・リヤン。王妃にして贈り人と女神がこの国に残した最後の贈り物です」
知っていて当然だ。
眠る少女は望実に瓜二つだった。




