知らずにいたい真実
「見てください。これを。王族が元々聖力が高い事を考慮しても飛び抜けた数値が出ています。オランジュ様が神殿に入ることは無いため、確認したことはないでしょうが、成長すれば宰相と同じぐらいになるかもしれません」
「かといってこの国では宝の持ち腐れなんでしょう?」
魔力の元があって資質があってもこの国では発揮できないと何度も言われた。ペッシュとオランジュ両方が高水準のスペックがあるとしてもやっぱり凄いな主人公達はぐらいにしか思えないのだ。
「そうなのですが、まずは子供に時折起こる枯渇という状態についての話をしましょう。その後流行り病について続けさせて頂きます」
まずノバは貴族の子供がまれになる聖力がほとんどなくなる病について話した。セミノールのように器が大きいゆえに穴だらけの状態で生まれる子供は飢餓にあったかのように力尽きて亡くなってしまう事があるそうだ。国外では親も力があれば成長するまで供給し、その後訓練で穴をふさぐことを学ぶことによって完治する。
「まさか、オランジュもその病に……」
「いいえ違います。むしろオランジュ様はまれにみる頑丈な器でおられる。ご安心ください」
次に貴族から始まった流行り病についての説明が続けられた。望実が知っている中でははしかによく似ているが全く違うものらしい。病原体があるわけではなく、聖力が薄くなり足りなくなったことから起こる枯渇症状の始まりだとノバは言った。
「王や殿下の母上がお倒れになった時には思いもしなかったのです。いえ、妃殿下が動かれなければ我々は未だに何もわからずただ隔離と安静を進め、膏薬を出すことしかできなかったはずです」
「ならなぜ人から人へうつってしまうの? 聖力が薄くなるだけならその人だけの問題では?」
「枯渇を誘発させるなにかがあったことは間違いないと思われます。それが神からの裁きなのか偶然にしょうじた何かなのかはまだわかりません。ただこの流行病は人から人へうつしていたのではなく、知らずに奪っていたのが原因です」
身体がだるかったり、熱が出ればだいたいは風邪だと思うはず。まさか自分の中のエネルギー的なものが急に減っていってるからとは思わないだろう。
「過剰に減った聖力に身体が反応しまずだるさや吐き気が起こります。熱や咳が出ることも。子供が助かっているのはおそらく基本的にまだ器が小さいからでしょう。隔離することで薄い聖力になれ子供はそれでも動くことができるようになる。けれど、大人はそうはいかない。何かで継ぎ足すかやがて枯渇し亡くなるかどちらかです。これは諸国でもそうなのですが、大人から子供への力の譲渡は容易ですが、逆の例はほぼありません」
「では兄が助かったのは? 私は聖力がほとんどないが、兄は大司祭と並ぶ量を保有しているはず」
エスクードはグルナードに同意するように頷く。
「おそらくはその大量とも言っていい聖力が貴方を助けたのです。妃殿下がおっしゃる通りに人と触れあわなければ奪い合うこともない。消耗が押さえられれば症状はやがて止まります」
「ふむ、言われてみれば。扉越しに話すことはあっても直接触れ合うことはなかったはずだ。あとは妃殿下がくださったという飲み物を飲んだからかもしれない。身体が動かせるようになったのだ」
確かにここまでの話はなんとなくつじつまがあっていると思う。
「先生、なぜ先生は大丈夫なの?」
「……私は用心深いたちですから、そもそもこの国を出れば追われる身です。常に一定量の魔石を補充できるようにここに身に付けております。この国でも宝玉を使えば魔道具は使えますので」
そういってノバは腕をめくり七つの石が光る腕輪を見せた。エスクードはちらっと見るとああと頷いた。
「それが今もかの王族が探しているという国宝か」
「……国宝?」
「この男はあちらこちらで詐欺と窃盗を繰り返しているのですよ」
近づくのはだから止めなさいと窘められている気分に望実はなる。子供は扱いはしないでほしいのにとムッとするとオランジュに袖を引かれる。
「ははうえもあくとうが好きなのですか?」
「え? あ、え……いえ、私は普通の人が好きよ」
「サガが女って悪い男が好きなんだぜといっていたのです」
「あいつは少し早い中二病……コホン。誠実で真面目な人が一番だと思うな。オランジュがそうだもの」
「ほんとうですか。うれしい」
さすが殺伐とした荒涼の中の私の癒しと望実はぎゅっとオランジュの手を繋ぎり二人はくるくると回り出す。そんな二人に生暖かい視線があちらこちらから注がれる。
ノバはそんな空気も何のそので引き続き話を進める。
「オランジュ殿下が病から回復されたのは妃殿下が無意識に聖力を注ぎ込んだからに間違いありません」
「ん?」
あれっと望実はストップしオランジュを抱き止めてイルに言われた言葉を思い出す。
「私、聖力はないはずなんだけど」
「いえ」
今度は熱弁を振るっていたノバがストップし望実を見つめる。
「聖力や魔力と呼ばれる力と似た力を貴女は持っているのです。それゆえにこの世界から奪われることもなく減ることもない。聖女候補とあった後何度か倒れたのは彼女がこの国の持つ聖力ではなく、貴女から力を無意識にもらったからです」
「ちょっとまって……無意識の行動まで罰せられるなら今回病気になった人全員が罰を受けなければいけなくなるじゃない」
「それは私の管轄ではありませんので。ともかく、聖力には聖力を、あの鉱山からでる宝石や鍵の力を使えば皆が助かると思われます。ひとまず私の話はここまでです」
治る見込みができたのはよかったが、そんな過激なことを皆にされても困ると望実はエスクードを見る。彼はなんだか嫌な顔をして、少しだけ口の端を上げていた。
「私としてはこの病がいつからどのように始まったのか思い出し始めたところです」
なんとなく嫌な予感がして望実はオランジュをエスクードから隠すように抱き締める。
「王と王族の方々、そして貴族全てが集まった一番新しいパーティーは何のために行われたか」
「オランジュ、聞かなくていい。エスクード!」
「器が強く、壊れることなく、枯渇しているなら母の胎からも奪い続けたのでは?」
望実は強引にオランジュの耳を塞いで叫ぶ。こんなこと優しいこの子に聞かせていいわけがない。
「そんなことない。もうやめて」
「王族が一人一人亡くなられる中で王は隔離され、殿下とご母堂は塔に。けれど王が塔に一日と空けずに通っていたのは公然の秘密でした。王が亡くなり、母からも乳母からも奪ってなお飢えたまま放置されていたとしたら。何かに願ったはず。この渇きを、飢えをどうにかしたいと。だから貴女はここにいるのです。妃殿下として」
耳を塞いで、目を塞いで、きつく抱き締めても聞こえてしまっているかも知れなかった。だから望実は痛いと抗議するオランジュを更に強く抱き締める。
「貴女が知りたかった事ではありませんか?」
そうだ。ずっと知りたかった。
どうしてこの世界に来たのか?
なぜ王妃なんてとんでもない状況で過ごすことになったのか?
何かにかられるように必死になってしまうのはなぜなのか?
いつ帰れるのか? 帰れないのか?
そして自分が何者なのか……
「わざわざこんな状況を作って私のために?」
「いいえ。違います。私は神ではありません。ただ時は来た。今なら少しは分かってくださるかと思った次第です」
「オランジュ、ごめんなさい。大丈夫?」
「はい」
聞いてなかったわよね? とは聞けなかった。オランジュが何でもない顔をしているのなら聞いていなかったのだと無理矢理自分を納得させて望実は頷く。
「伯爵令嬢が何とあっていたのかお伝えしましょう。ノバ、貴方も来てくださいです。グルナード、コラーダ、オランジュ殿下を頼みます」
扉がしまったのを確認して望実はエスクードの胸元に詰め寄る。
「オランジュに何か恨みでもあるの? あの場で言わなくてもよかったでしょう?」
「恨みはありませんが、因縁はあります。それにあの王子、ただの子ではありませんよ」
「ミラベルもミネオラも利発だけどまだただの子よ」
「……果たしてそうでしょうか? 妃殿下がみている世界はどこまでも美しいだけだ。実際は城の中こそ陰謀があり、暗殺が行われ、拷問が続けられているのです。貴女がただの子ではないように、殿下もまた非凡な才をお持ちかと」
そんなことを言われてもエスクードとオランジュどちらを信じるかと言われたら望実は迷わずオランジュというだろう。
「良かったわ。私の世界は貴方の世界ほどひねくれてないの」
ぱっと手を放すと望実はエスクードを睨み付ける。エスクードはどこか楽しそうにそれを見つめながら外に繋がる階段へと向かって歩きだした。




