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姑ですもの!  作者: K
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理想と現実

 帰ってすぐオランジュの勉強会に飛び込んで参加すると何かあったのかと聞かれた。隣でミラベルが笑うのを我慢しているのをミネオラが怪訝な目で見ているのがわかる。

 何もないと言い切って手をあげてデラメルア王朝の王の名前を皆であげていくゲームを提案する。同じような名前が多いこの国で一番長い王朝なのだが、ペッシュと望実とオランジュはいい勝負をし、余裕なミラベルにミネオラはかなり頑張って競った。

 一番のミラベルに望実からキャロットケーキの生クリームのせがプレゼントされた。皆は普通のキャロットケーキなのでオランジュがことあるごとにミラベルのケーキを凝視していて望実は口元を押さえて笑うのをがまんすることになった。最終的に生クリームをよそってかけてあげているのが見えてミラベルはオランジュに結構甘いんだなと新たな一面を見た気がする。

 悪役令嬢としてペッシュの前に出てくるミラベルは孤高で人の気持ちを考えられず、オランジュだろうがペッシュだろうが言葉の刃で傷つけるのだが、ヒロイン側で見ると不器用な不正を見過ごせない真面目な女の子だ。けれどそれはミネオラ視点やサガ視点を全部見たからわかるかけで、オランジュ視点でのミラベルはただただ一番最初にぶつかる高い壁なのである。ゲームの二人もこんな風に穏やかに過ごす時間があったのだろうかと考えるとなんだか不思議な気分だ。

 それにしてもペッシュとオランジュはお互い一目惚れに近い表現で描かれていたはずなのだが、まだまだ壁を感じる。幼いから恋愛というより仲間意識の方が強いのかもしれない。ミネオラはちょっと早熟なのだろう。

 パワーが有り余っているのと子供たちを見て和んだおかげで夕食まで望実はかなりの量の仕事をこなした。といっても文章を読んでサインするだけなのだが。整理整頓された束に、グルナードは書類の分類がすごく上手いのだなと感心してしまう。


「地方の財政と医療体制、教育体制、衛生について、まだまだ問題が多いし、それに加えて派閥の統率と対立派閥の力も削ぎつつオランジュを倒すような方向性にいかないようにバランスも調整もしないといけないなんて、王様って分裂でもしないと生涯椅子から立ち上がれそうにないわね」

「今日はこの短時間で一山終わったのですから、集中すればこの量も一日でできないことはないのでは?」

「グルナードみたいに頭がいいわけじゃないからこれぐらいで勘弁してください」


 いれてもらったお茶をのみながらネビルが帰り際渡してくれた伯爵と伯爵令嬢の報告書を読む。特に問題はないようだが、そう言えばエスクードは前から伯爵や鉱山の人々とも知り合いのようだった。潜入捜査とは言っていたが伯爵はエスクードの動きを知らなかった上に、望実への対立と暗殺未遂で脅したのだからいい関係ではない。


「ねえ、万が一にもないと思うけど、グルナード。エスクードが裏切るのではなく裏を進んでいる可能性ってある?」

「誰よりも賢い兄ですから私達が読めない裏を行っている可能性はありますね。どうされました?」

「鉱山のこと、どこまでエスクードは知っていたのかしら? グルナードはティエラ家からの売却は知っていたの?」

「詳しいことは知りませんが、毎年の財政報告書を全貴族分覚えておりますので、売買について書類上のやり取りは記憶しております。特に問題もなかったかと。代金は安めでしたが、裏があるほどの安さでもなく、証人や貴族院の許可もしっかりとありましたので」


 改めてグルナードも怖いなと思いながら望実は頷く。問題がないから何もないわけではない。

 伯爵令嬢は先生の見立てではもしかしたら病気の前から石に魅せられていた可能性があるのだ。出入りの宝石屋は城下町にもある国一番の宝石店からの物で怪しいところもない。


「グルナードは宝玉や輝石については詳しい?」

「一般的な知識以上は存じ上げません。世界にあるとされる十三の宝玉と秘められた力、また女神や眷属の名を持つ石が持っているとされる言い伝えぐらいでしたら答えられます」 

「ええっ。十分石博士と呼べるわよ。神話は読んだけれど女神達の名前は宝石だものね」

「博士と呼べるほどの物ではありません。外交に必要なのです。我が国の鍵と同じようにこの国に来る王族はすべて宝玉を身分証明するためにもって参ります。本物か見分けられなければ大変なことになりますし、ここぞとばかりに盗賊や狩人もやって来るのです。失くしたり、盗まれた際、本物だけを見分けられるように教え込まれました」

「謙遜しないで、凄いことよ」


 そう言えばエスクードはオーラ的なもので力を感じ取れると言っていたが、グルナードはその素質はないと聞いた。だからこそ見て真偽が分かるように必死で勉強したのかもしれない。ミラベルといいティエラ家は元々の賢さもあるのにさらに勤勉でもある。


「ミラベルを宰相にはできないのかしら?」

「重職は男性という決まりですので」

「やっぱりそうよね」

「私の位置、宰相補佐官が大司祭を除き女性がなれる最高位かと思われます。けれどミネオラはミラベルが補佐官では休まらないでしょう」


 よっぽど父親より子供たちを見ているなと望実はまた感心する。あの男が関心が無さすぎるのがいけないのだが、自分の父親への複雑な思いも合間ってつい刺々しくなってしまうのだ。


「ペッシュが大司祭で、ミラベルが宰相になってくれたら、それぞれ好きな人と結婚できるかなっていう子供じみた考えだから、本気しないで」

「ミラベルは殿下を気に入っているようですし、貴族の結婚とはそのようなものです。妃殿下が気になさることではありません」

「でもミネオラはミラベルが好きじゃない。甥っ子の夢を叶えてあげたいとは思わないの?」


 ああと呟くとグルナードは苦笑いする。誰が見てもミネオラの態度は分かりやすいようだ。子供達はどうかわからないけれど。


「あの子にミネオラは重荷かと。また抜かしてはいけない壁にミネオラをするほうが二人にとって可哀想ではないですか?」

「やっぱり貴方のほうがずっと父親らしい考え方をしてるのね」

「兄は人の思考が人の想像以上に読めるので子供の突拍子もない行動が苦手なのでしょう。規律正しい神殿で幼少期を過ごしましたし、私達はミネオラやミラベルも含めちょうどいい位置に皆がいると思うのです。妃殿下のお言葉は胸に止めておきますが、兄が妃殿下を裏切ることはあり得ないと言わせてください」


 いつもは見せることのない必死さが見える言葉に言い過ぎたと望実は反省する。もっと仲良くなれば子供達だって寂しくなくなるし、うまくいくんじゃないかと勝手に思っていたが、他人の家庭のことに口を突っ込んではいけないのはどこでも同じだ。

 ミネオラは虐待されているわけではないし、ミラベルを政治利用しているのはむしろ望実の勝手でもある。なにもかもうまくは難しいと改めて思う。


「ありがとう。エスクードを疑ってるわけじゃないの。ただ何が出てくるかまだちっともわからない中で正直な意見が聞きたかっただけで。よくよく考えればむしろ怖いのはエスクードすらはめる事ができる人物がいるかもしれないということよね。国の頭脳より上の頭脳があったら大変なことだわ」

「そうですね。確かにあの兄を上回るやり手がいて敵側なのだとしたら今まで以上の警戒が必要かもしれません」

「伯爵令嬢から直接話を聞ければいいのだけれど、まだそんな状態ではなさそうだし、先生は上手く聞き出すとかそういうキャラじゃないし」


 ほんの少し言うのをためらってグルナードが望実を見る。


「それこそ兄にお任せになればいいのでは? 私のもっと不得手な分野は兄の得意分野ですから」


 えーっと抗議したくなったが、確かにあれで性格は難ありだが国一番の美人と結婚しているのだ。そういう事には自信があるといった話もした気がする。


「エスクードに頼んだら笑われないかな」

「違う意味で笑顔になりそうですが」

「なにそれ怖い」


 書類の一番上にとりあえずメモをのせておいた。


『明日朝一で伯爵令嬢を口説いてくること!お願いします』


 届いた書類を見て秘書官や侍従が見たこともないほどエスクードが笑ったのは宰相室の秘密である。 

 

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