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姑ですもの!  作者: K
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ヒーロー願望

「ここは時間が止まっているみたい」


 土壁の中なのにかび臭さや埃がない。何人もの贈り人がここへ来て心をおいていったのだろう。

 ノートを一冊手にとって望実は扉を閉める。母親のこと父親のことはとりあえずオランジュが王になってからでいい。自由になったら一番に探せばいいのだ。今はその余裕はない。

 扉の隙間から光が漏れた気がして望実は振り返る。それはあの日倒れそうになった時に感じた光によくにていた。扉に手をかけると光は消えてしまう。

 なにか仕掛けがあるのだろう。

 望実は来た道を歩いて戻る。月明かりが暖炉に差し込んでいる。ジーンを探し回らせてしまっただろうか?


「父さん。またね」


 望実は図書室をあとにした。

 廊下をゆっくりと歩いて戻る。誰にも会わなかったのを不思議に思いながらベッドに入る。

 秘密の部屋を見つけた興奮か、歩いたことで疲れたのか、襲われた恐怖を思い出しもせず望実は眠った。

 目を開けるとジーンと目が合う。


「昨日はごめんなさい」

「ネビルがそのうち戻ると、気づけばベッドで寝ておられたのでほっとしました」

「ネビルはよくわかってるわ」


 苦笑いするジーンにもう一度頭を下げて着替える。正式ではないがお見舞いにいくのでそれなりに時間がかかる。


「妃殿下、襲われたのです。訪問はまたになさっては?」

「私もそう思います」


 コラーダが心配そうな顔で望実を見るが望実は首を振る。誰かの脅しなら余計に普通の生活を続けた方がいい。脅しに屈したと思われ影でバカにされるのは嫌だった。


「王族ならこう言うことは良くあることなのでしょう? オランジュに言わないでいたいから普通に過ごしたいの。あの子も疲れてるだろうから」


 特にポメロ派の貴族だけが招待されていたこともあるが、オランジュを正式な王の子ではない所詮お手付きの侍女の子としたい勢力があるのは何となくわかった。望実の方が血筋的にはよっぽど怪しいだろうに贈り人とはそこまで特別なものなのだろうか?


「姫様は本当にオランジュ様を大事に思っていらっしゃる。不憫だ可哀想だと思っておりましたが、オランジュ様は幸せだと思います」

「コラーダ、嬉しいけど私はオランジュの両親にはなれないわ。だけど家族にはなれる。血が繋がっていようと家族になれない人もいる。なりたくない人だっている。だから恵まれてるのは私の方。オランジュは私が出した手をちゃんと取ってくれたから」


 気合いを入れ直してグルナードに会う。さんざん絞ったが、男は王妃の部屋だと知らなかったの一点張りで何もわからなかったとのことだった。


「兄が報告が遅いと笑顔で地下にいったので、今日中にはなにかわかるでしょう」

「宰相の仕事ってそんなことも含まれてるの?」


 大変ねと望実が言うとなぜかいっせいに可哀想なものを見る目でみられた。


「いえ趣味です」

「趣味?」

「趣味です」

「け、結構な趣味をお持ちで」


 顔をひきつらせる望実にグルナードはふっと笑うと扉を開けた。


「ウェルテクスのところなら城よりも安全かもしれません。お気を付けて」

「一族全員騎士なのでしょう? 強そうだものね」

「ウェルテクス夫人は妃殿下も気に入られるでのはないかと、ジーンの師ですし」

「そうね。楽しみだわ」


 女騎士がそういないこの国で隊長にまで上り詰めた格好いい女性だと聞いている。物語から抜け出したとか物語のモデルにもなっていると言われている女傑に会えるのは芸能人にあえるような興奮がある。

 ミラベルとミネオラが扉の外で待っていた。血なまぐさい話は子供に聞かせたくなかったのでグルナードの配慮だろう。


「ミラベル。いきましょう。ミネオラ、オランジュをお願いね」

「かしこまりました」


 ミラベルに手を伸ばすと彼女は戸惑って少し距離を開ける。


「どうして私と?」

「二人で行けそうな場所が思い浮かばなくて、ミラベルも騎士物語は読むでしょう?」

「歴史書として書かれているものは数冊読みました」


 目をそらすミラベルに望実は笑いを噛み殺して真面目な顔で「名前を覚えるだけでも大変なのに」と言った。ミラベルが歴史書の中に一冊、最もロマンチックな一冊と言われている騎士物語を大事に持っているのはゲームで知っている。

 彼女は誰よりも王子様を夢見ているし、それ以上に王子様になりたい少女なのだ。


「歴史書が好きならウェルテクスの城や肖像画、鎧や剣なんかはみて楽しいと思うの」

「お気遣いは結構です。妃殿下はお忙しいのに、私のために時間をさくなど」


 短気な人だったらここで怒るよなときっぱりと言うミラベルに望実は指を振る。


「それはついでよ。ネビルの弟に一度会ってみたかったの。もちろん女騎士だった夫人にお会いしたいのもあるけれど。ごめんなさい。私、ミーハーだから。ミラベルには付き合ってもらうことになるけれど、一人じゃちょっと。侍女見習いのペッシュでは話すこともできないし、ミネオラと二人でいくのも変でしょう? ミラベルは息子の婚約者だし、一緒に社交を行えば世間的にもいいアピールになるんじゃない?」

「謝る必要はございません。私、精一杯アピールしますわ」


 小さな貴婦人は役目を与えられたことに嬉しそうに小さな扇を顔にあて笑った。


「エスクードはちゃんと二人を誉めてる?」

「あ、あれは妃殿下のご命令だったのですね。昨日は驚きました。急におじさまがカタコトで、ミネオラに『課題のできがよかったとかがんばっているな』と頭に手をぽんと置いて去っていったので、私は課題の絵の構図を誉めていただきましたわ。ミネオラは部屋に駆け込んで窓を開けてなにか叫んでいたのでよほど嬉しかったのでしょう」


 ミネオラの話をするときミラベルは弟を見守る姉のようだ。二人とも喜んでいるのでとりあえずエスクードにも心ない褒美でも用意しておこう。

 家族との距離に苦労しているとゲームにはあったが、ティエラ一家は彼らのルールでうまくやっているみたいだ。

 できればミネオラにエスクードを憎んでは欲しくない。子供におまえの母を愛してなどいないなんていって欲しくない。


「これからもあの二人のことはよろしくね」

「はい。かしこまりました」


 勝ち気な笑みをこぼすミラベルに、この子はオランジュ以上にヒーロー願望が強くあるんだろうなと望実は外を眺めながら思った。

 お互いの友情エンドはどちらもミラベルが格好いいものだった。旅立つペッシュを見送るミラベルは長い髪をポニーテールにして騎士の一礼をペッシュに送る。ミラベル側の友情エンドでは、その年一番のバラをペッシュに送って二人で笑いあうのだ。

 望実は友情エンドでも別に構わないのだけれどオランジュそっちのけで女子高生のように仲良くはしゃぐ二人を思い浮かべてちょっとそれは可哀想かもと思う。


「もちろんオランジュのことはもっとお願いね」

「……妃殿下こそグルナードお兄様のことよろしくお願いします」

「グルナードには世話になりっぱなしで、私の方がお願いされてるんだけどね」

「そんなことございませんわ。そうだ。あれを見れば妃殿下もきっと感動されるはず、いつかティエラの城にも遊びにきてくださいませ」


 その後、ティエラの居城で望実は忘れることができない出会いをするのだが、それはまたの話だ。


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